目覚ましいヤングガンズの台頭
新型コロナウイルスの感染拡大により、プレミアリーグは『6月1日再開予定』、『7月12日までに残り試合を無観客で消化』、約4ヶ月後の8月8日に2020/21シーズン開幕というプランをイギリス政府に提出。厄介なウイルスに感染したボリス・ジョンソン首相も、隔離された執務室で思案しているに違いない。
【今シーズンのプレミアリーグはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
さて、見えない恐怖との戦いで、すっかりネガティブになりがちな今日このごろだが、今シーズンのヨーロッパ・フットボールは<ヤングガンズ>の台頭が目覚ましい。実力のある中堅、ベテランを撃ち落とす勢いだ。
バルセロナのソシオは17歳のアンス・ファティこそが名門復活の担い手だ、と期待を寄せる。レアル・マドリードのヴィニシウス・ジュニオール(19歳)はジネディーヌ・ジダン監督の信頼を勝ちとり、弱冠20歳のフェラン・トーレス(バレンシア)は今夏のメガクラブ移籍が有力視される存在だ。
ベテランが幅を利かせている印象が強いバイエルン・ミュンヘンでも、20歳のアルフォンソ・デイビスと18歳のヨシュア・ザーククジーが定位置をつかもうとしている。
いけない、ボルシア・ドルトムントのアーリング・ハーランドを忘れていた。19歳のアタッカーはザルツブルクから移籍後2試合で5ゴール。瞬く間にサポーターのハートをつかんだ。ドルトムントの僚友で、20歳のジェイドン・サンチョとともに、今後の移籍市場を賑わせる存在になる。
プレミアリーグも同様だ。バーンリーで左ウイングとして異彩を放つドワイト・マクニール、ウェストハムの中盤に君臨するデクラン・ライス、シェフィールド・ユナイテッドの堅守を支えるGKディーン・ヘンダーソン、エバートンで覚醒の予感を漂わせるドミニク・キャルヴァート=ルーウィンなどは、いずれも20代前半の若者だ。
ギルモアはインパクト特大
そして捲土重来を期す名門でも、ヤングガンズの存在感が日増しに強くなってきた。
チェルシーのフランク・ランパード監督は、若手にチャンスを与えている。リース・ジェームズ、フィカヨ・トモリ、メイソン・マウント、カラム・ハドソン=オドイに経験を積ませ、多少のミスには目をつぶってきた。このプランが効を奏し、いま、18歳の少年が注目されている。
「なんて落ち着いていやがるんだ」
マンチェスター・ユナイテッドの元キャプテンで、コメンテイターに転身した後も辛らつな批評で世間を騒がせるロイ・キーンが、ビリー・ギルモアには衝撃を受けたようだ。2~3人に囲まれても慌てない。その時点でもっとも有効な選択肢を即座に判断し、リズムとテンポを維持している。
本稿執筆時点でプレミアリーグは途中出場が3試合。レベルの高いチェルシーの中盤では、プライオリティも最下位だ。しかし、出場したときのインパクトは特大で、ランパード監督も「チャンスはより増えるに違いない」と相好を崩した。166cm・60kgと体格には恵まれないが、ギルモアのセンスはそのハンデを補って余りある。
「ギルモアのプレーをゆっくり楽しみたいっていうのに、コメンテイターがうるさすぎる。とくにガリー・ネヴィルだ」
キーンはユナイテッドの後輩をディスりつつ、すっかりギルモアの虜になっていた。
センスの優劣でいえば、マンチェスター・シティのフィル・フォーデンも負けてはいない。
「いずれシティを背負って立つ」(ジョゼップ・グアルディオラ監督)
「わたしの後継者は彼しかない」(ダビド・シルバ)
クラブ内の評判も上々だ。ボールコントロール、ゲームビジョンともにトップランク。ドルトムントのサンチョとともに、イングランド・フットボールのアイコンになるべき逸材だ。
「ポジションを奪い、高いレベルで経験を積むこと」
グアルディオラ監督が語ったように、残された唯一の課題は試合経験だろう。シルバ、ケビン・デ・ブルイネ、ベルナルド・シウバといった実力者の一角を崩せず、今季リーグ戦は14試合にしか出場していない。
トレーニングでも数多くを学べるシティは、グアルディオラ監督の熱血指導が受けられる立場は、他の若手よりも恵まれている。無為無策のデイビッド・モイーズに指導されるライス(前出)はたまったものではない。
しかし、闘ってみないと対戦相手を知ることは難しい。映像分析と実際の肌感覚がまったく異なるケースもある。
D・シルバは今シーズン限りで退団する。来シーズンは多くのチャンスをつかめるはずだが、ここでも定位置から遠く離れると、去就を考えた方がいい。フォーデンは来シーズンが勝負だ。
RVPを彷彿とさせるグリーンウッド
ユナイテッドのメイソン・グリーンウッドはシュートが巧い。むやみやたらと撃つのではなく、GKのポジションを冷静に見極めている。したがって強打が少ない。オーレ・グンナー・スールシャール監督も、「メイソンは生粋のシューターだ。教えればできるってわけではない技術を持っている。ロビン・ファン・ペルシに似ているね」と絶賛していた。
スペースの見つけ方、マーカーとの駆け引き、シュートの正確性などは、たしかにファン・ペルシを彷彿とさせる。12年夏、アーセナルから移籍し、3シーズンでリーグ戦48ゴールを挙げたストライカーに、18歳の若者はどこまで近づけるだろうか。
来シーズン、ユナイテッドにはサンチョがおそらくやって来る。マーカス・ラシュフォードも腰の疲労性骨折から立ち直る。さらにアントニー・マルシャル、ダニエル・ジェームズ、そしてローンから完全移籍に切り替えられる公算大のオディオン・イガロなど、前線は多士済々だ。しかしグリーンウッドの才能をもってすれば、この激戦区で定位置を確保したとしても不思議ではない。
アーセナルにも期待の18歳がふたりいる。ガブリエウ・マルティネッリとブカヨ・サカだ。前者はリーグ戦14試合、後者は同18試合出場。ミケル・アルテタ監督の信頼をすでに得た、といっていいだろう。
第24節のチェルシー戦でみせたマルティネッリの独走は、今シーズンのハイライトだ。自陣から80mほどを突破し、敗色濃厚のチームに貴重な1ポイントをもたらしたのだから、大きな自信につながったに違いない。慧眼には定評のあるユルゲン・クロップ監督(リバプール)も、「スーパースター候補生。いま、もっとも期待すべき若者のひとりだ」と絶賛していた。
サカは負傷者続出の犠牲者となった。左サイドバックのキーラン・ティアニー、セアド・コラシナツが相次いで戦列を離れたため、白羽の矢が向けられた。チーム内のトレーニングでもほとんど経験していないポジションなのだから、守りで後手にまわるのは仕方がない。
しかし、攻撃参加のタイミングは素晴らしく、左足から繰り出されるクロスも精度が高い。適性はおそらく左ウイング。ティアニーとの連係が研ぎ澄まされていけば、アーセナルの左サイドはプレミアリーグの、いや、ヨーロッパのフットボールシーンでも見どころのひとつになる。
よくよく考えてみると、リバプールのトレント・アレクサンダー=アーノルドは21歳、ユナイテッドのラッシュフォード(前出)とアーロン・ワン=ビサカもまだ22歳だ。シティはビルドアップの起点になりうるエリック・ガルシアという19歳のDFを擁し、アーセナル生え抜きのジョセフ・ウィロックとリース・ネルソンもまだ20歳だ。
コロナ禍で疲れ切った世の中を、いつか必ず彼らが元気づけてくれるはずだ。フットボールのある週末が、ミッドウィークが戻ってきたら、ヤングガンズのパフォーマンスを思いっきり楽しもう。
明日に向かって撃て――。
(文:粕谷秀樹)
【了】