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セリエA 4年前

完璧だったナポリの対ユベントス戦法。光るガットゥーゾ采配、そこにあった確かな強者の姿

コッパ・イタリア決勝、ナポリ対ユベントスが現地時間17日に行われ、PK戦の末に前者が勝利。6年ぶり6回目の優勝を果たすことになった。ジェンナーロ・ガットゥーゾ監督の下、復活を遂げているナポリはこの日、内容面でもユベントスを上回るなど、見事な試合を披露。シーズン序盤は不調だったが、そこにあったのは強者の姿であった。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

ナポリが狙ったユベントスの弱点

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【写真:Getty Images】

 名将カルロ・アンチェロッティ監督を解任するなど、シーズン序盤は不安定さを露呈していたナポリだが、無観客のスタディオ・オリンピコにあった彼らの姿は強者そのものだった。

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 現地時間17日、コッパ・イタリア決勝戦のナポリ対ユベントスが行われ、PK戦の末にナポリが勝利。クラブとしては6年ぶり6回目の優勝、今季途中より指揮官に就任したジェンナーロ・ガットゥーゾにとっては、監督としてこれが嬉しい初タイトルとなった。

 90分間で勝負を決めることができなかったとはいえ、この日のナポリは内容でもユベントスを上回っていた。過密日程による体力面への不安は両者ともに同じ状況であったが、よりナポリの方がチームとしての完成度を高めてきていた印象だ。

 ユベントスのマウリツィオ・サッリ監督は、ナポリの縦に素早い攻めを警戒していた。そのため、この日は前から相手に果敢にプレスを与えるのではなく、全体のラインを少し下げた状態で獲物がかかるのを待った。「今日はいつもと違う選択をし、高い位置からプレスするのではなく、距離を取った」(クラブ公式サイトより)と、サッリ監督も試合後にコメントしている。

 そのため、ナポリにもボールを保持する時間帯は十分にあった。ただ、当然ながら自陣での横パスだけではユベントスの脅威とはなれない。だからこそ、ガットゥーゾ監督は攻めを加速させるため、ある所に狙いを定めたのだ。

 それが、ユベントスのインサイドハーフの後ろ。つまりはアンカーに入ったMFミラレム・ピャニッチの脇のスペースだ。実際、このエリアをナポリが突いたシーンは前半から何度も見受けられた。

 まずは11分、左サイドのDFマリオ・ルイがボールを持つと、FWロレンツォ・インシーニェが下がって相手のサイドバックを引き連れてくる。その瞬間にインサイドハーフのMFピオトル・ジエリンスキは斜めへのランニングでMFロドリゴ・ベンタンクールの背後を突いた。直前にサイドバックが前へ出ているため、ジエリンスキにボールが渡った瞬間、CBのDFマタイス・デリフトがカバーせざるを得なかったのである。

 さらに22分、今度はCBのDF二コラ・マクシモビッチがボールを持ったシーン。右サイドバックのDFジオバニ・ディ・ロレンツォはあまり高い位置を取らず、FWクリスティアーノ・ロナウドの注意を引き付ける。そして、アンカーのMFディエゴ・デンメが最終ラインからボールを受けようと下がり、MFブレーズ・マテュイディを少し自分の位置へ引き寄せた。

 その瞬間、マクシモビッチはマテュイディが前に出ているのを見逃さず、インサイドハーフのMFファビアン・ルイスへ鋭い縦パスを送る。見事ピャニッチの脇を突いた背番号8はそのまま前を向いて前進し、相手ゴール前でファウルを得ている。全体の意識と連動性の高さが表れていた。

 その他の場面でも、ナポリは何度か鋭い縦パスを送り込んでいる。とくに狙いを定めやすかったのはマテュイディがいる位置。彼は守備をしないC・ロナウドの背後をケアするため前へ出てくることもあるのだが、それがナポリにとっては好都合であった。実際、試合後のデータを見てもフランス人MFと対峙したF・ルイスは67回のタッチ数を記録している。これはナポリ攻撃陣の中ではD・デンメに次いで2番目に多い数字。このエリアを効果的に使うことができていたのは明らかだ。

ナポリの組織された守備

 しっかりとした狙いを持っていたナポリは、ユベントスをよく押し込んでいた。ハーフスペースをうまく使いながら、3トップとインサイドハーフが絡む厚みのある攻撃を展開。さすがの存在感を放ったGKジャンルイジ・ブッフォンの分厚い壁を前に得点を奪うことはできなかったが、ユベントスにとって脅威となっていたのは確かだ。

 そのナポリは守備でも健闘した。立ち上がりはC・ロナウドに際どいシュートを放たれたものの、その他の場面ではほとんど決定機を与えなかったと見てもいいだろう。素晴らしい集中力を保っていた。

 ナポリは守備時、4-1-4-1のような形になる。最終ラインと中盤、縦、横の距離感が非常にコンパクトで、ユベントスに危険なスペースを与えない。DFファン・クアドラードも「ナポリはうまく守っていて、シュートのためのスペースを見つけるのが難しかった」(クラブ公式サイトより)と試合後に話している通り、いくらユベントスがボールを回そうと隙は一切生まれなかった。

 ユベントスはFWパウロ・ディバラが中盤に下がることで、ミドルゾーンでの瞬間的な数的優位を作り出した。が、ナポリにとってそれは許容範囲であり、CBは我慢してあまり前へ飛び出すことをしなかった。こうすると、ユベントスはボールを入れたはいいが、その後が続かないという展開の繰り返し。スムーズな攻撃を行うことはできなかった。

 苦しくなったユベントスはサイドにボールを逃がし、そこからシンプルにクロスを上げるシーンが目立った。実際、試合後にはナポリの9本に対し、ユベントスは24本ものクロスを上げているというデータが出ている。ただ、C・ロナウド以外にハイボールを得意とする選手はユベントスの前線にはいない。効果的な攻めとはとても言い難かった。

 後半はユベントスがより前への意識を高め、前半よりも高い位置からのプレスを行うようになってきた。ナポリが自陣で捕まるシーンも少なからずあったのは事実だ。

 しかし、ガットゥーゾ監督の采配は巧みだった。ボールを刈ろうと前へ出てくるベンタンクールを何とか抑えようと、同選手と対峙するジエリンスキを守備時にあえて高い位置につけたのだ。これで、ウルグアイ人MFは少し後ろのエリアも気にしなければならなくなり、相手にボールが渡っても積極的にプレスを与えることに少し躊躇するようになった。

 こうすると、ナポリはボールを奪った直後も十分な余裕を持ってプレーすることができる。必然的に相手に危険な二次攻撃のチャンスを与えなかったのだ。敵の意図をしっかり見極め、試合の中で対策をしっかりと立てる。モチベーターとしてだけでなく、ガットゥーゾ監督の戦術家としての才能が表れたと言えるだろう。

やはり欠かせない存在だったのは?

カリドゥ・クリバリ
【写真:Getty Images】

 さて、ここからは個人パフォーマンスに目を向けていきたい。チームとしてはもちろん、個々の戦いも白熱したと言えるだろう。

 目立ったのはやはりGKだろうか。42歳のブッフォンは衰えをまったく感じさせない圧巻のプレーを披露。終盤には決定機を連続セーブするなど、レジェンドの貫禄を見せつけた。

 そのブッフォンの後継者候補の一人、GKアレックス・メレトも大活躍。GKダビド・オスピナの出場停止に伴いピッチに立ったが、その姿はまったく「代役」ではなく、紛れもなく「主役」だった。セービングは非常に安定しており、PK戦では1本目からディバラのシュートをストップ。勝利の立役者となった。

 攻守両面で奮闘したジエリンスキにF・ルイス、安定感を増しているマクシモビッチも素晴らしかった。ただ、本稿でのマン・オブ・ザ・マッチにはDFカリドゥ・クリバリを推したい。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響でリーグ戦などの中断を余儀なくされる以前は、怪我によりパフォーマンスレベルを落としていたセネガル代表DFだが、中断明け以降はしっかりとコンディションを調整してきた印象があり、ピッチ内で特筆すべき仕事ぶりを披露。ナポリの最終ラインを見事に統率している。

 このユベントス戦でもクリバリの存在感は際立っており、1対1ではまさに無敵だった。FWドウグラス・コスタのドリブルにも翻弄されず、ディバラにはフィジカルで圧倒し、ペナルティエリア内ではC・ロナウドに決定的な仕事を与えず…と、まさに“ナポリの壁”として奮闘。崩される雰囲気を一切感じなかった。

 パスに関しては序盤はややミスも目立ったが、試合が進むにつれしっかりと修正。ボールコントロールなどは相変わらず見事であった。アウレリオ・デ・ラウレンティス会長が1億ユーロ(約120億円)以下での放出に難色を示すのも納得がいくと言えるほどのパフォーマンスであったことは間違いない。

 今週末にはセリエAも再開する。現在6位のナポリの現実的な目標はチャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得ということになるだろう。果たしてコッパ・イタリア制覇を自信につけ、ここからさらに上位へ食い込むことができるか。注目だ。

(文:小澤祐作)

【了】

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