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「35億円はとてつもない安さ」。ダビド・シルバの価値は100億円以上。マンCにもたらしたものは?【ポジショナルフットボールの象徴・前編】

噛み砕いて考えれば考えるほど、グアルディオラのゲームモデルはシンプルそのものである。彼らがあれほど効果的に戦えるのは、同コンセプトを寸分の狂いもなく実行に移しているからこそだ。マンチェスター・シティの選手がどのように動き、どのようにパスを出しているのか、そしてその理由について明確に説明することを試みた『ポジショナルフットボール教典』から、「ダビド・シルバ」の章より一部抜粋して前後編で公開する。今回は前編。(文:リー・スコット)

text by リー・スコット photo by Getty Images

「8番」と「10番」のハイブリッドに近い役割を創造的にこなすCMF

ダビド・シルバ
【写真:Getty Images】

 シティが長い歴史と伝統を持つクラブであることは間違いない。このクラブのファンが力説したがるように、オーナー交代でサッカー界屈指の裕福なクラブに変貌した2008年よりもずっと以前から、もちろんシティは存在していた。クラブに次々と災難が降りかかり、イングランド3部リーグでの戦いを強いられることさえあったのも、それほど遠い過去のことではない。

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 このクラブの歴史的意義についてはぜひとも詳しく紹介したいところではあるが、過去2シーズンのみにフォーカスを当てるのが本書のテーマであることは忘れてはならないだろう。

 2008年にアブダビ・ユナイテッド・グループがオーナーとなって以来、シティの最も象徴的な存在だった選手といえばダビド・シルバをおいて他にないだろう。バレンシアの下部組織で育った彼は、ダビド・ビジャやジョルディ・アルバ、フアン・マタらも在籍していたチームで頭角を現してきた。

 彼の創造性がチャンスを生み出し、ビジャがそれを決めるという場面が何度も見られ、バレンシアは欧州で最も見応えのある若いチームの一つとなっていた。2010年にはダビド・シルバはバレンシアを離れてシティのプロジェクトに参加することに合意した。

 推定2500万ポンド(約35億円)という移籍金は、あとから考えればとてつもない安さだった。同じような補強を現在実行しようとすれば、おそらくシティは少なくともこの3倍の金額を支払わなければならないだろう。

 この取引がシティにもたらした利益は計り知れない。確かにダビド・シルバはクラブから高額の報酬を受け取っており、移籍金も含めた8年間の総出費額はかなりのものではある。だが、その見返りとしてダビド・シルバがシティに提供したものには金額以上の価値があった。

 単にゴールやアシスト、チャンスメークといった部分だけではない。ダビド・シルバはいつもこのチームの心臓としてプレーしてきた。ピッチ上では試合を作り、ピッチ外でも大きな影響力を示し続けた。

 シティのメンバー全員にとってダビド・シルバがどのような存在であるかが見て取れたのは、2017年に彼の息子が早産で生まれた時だ。グアルディオラはダビド・シルバに、試合にいつ出場していつ出場しないのか、いつ練習に参加するのかを選択する自由を与え、可能な限り長い時間を家族とともに過ごすように促した。

 幸い危機を脱したダビド・シルバの息子は、チーム全体の団結力の象徴的存在となった。この時期にはチームが一丸となってダビド・シルバをサポートし、ダビド・シルバのためにすべての試合に勝ち続けた。

 シティでの在籍期間中に監督が交代していく中で、ダビド・シルバの演じる役割も変化してきた。ロベルト・マンチーニ体制とマヌエル・ペジェグリーニ体制では、彼は伝統的な「10番」として、あるいはサイドのポジションでのプレーメーカーとして起用されることがほとんどだった。

 だが、グアルディオラがチームの指揮を引き継ぐと、ダビド・シルバに求められる役割には明確な変化が見られた。4-3-3システムの中で、彼のポジションは中盤センターに位置する2人の「8番」の一角にほぼ固定された。

 グアルディオラの率いるシティにおいて、「8番」と「10番」のハイブリッドに近い役割となるこのポジションの重要性についてはすでに見てきた通りだ。特にダビド・シルバに対しては、チームがボールを保持している時にはかなり高い位置でプレーすることが求められる。

 実際にシティが攻撃を仕掛ける際には、ラインの間でボールを受けて相手をかき回すことができるように、ダビド・シルバが左側のハーフスペースにポジション取りする場面がよく見られる。

(文:リー・スコット)

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『ポジショナルフットボール教典』


定価:本体¥2000+税

≪書籍概要≫
噛み砕いて考えれば考えるほど、グアルディオラのゲームモデルはシンプルそのものである。彼らがあれほど効果的に戦えるのは、同コンセプトを寸分の狂いもなく実行に移しているからこそだ。
本書を通して、シティの選手がどのように動き、どのようにパスを出しているのか、そしてその理由について明確に説明することを試みたい。 最後まで読み終えたあと、グアルディオラが用いる戦術コンセプトを今までより少しでも楽しんでもらえるようになったとすれば、この試みは成功だったと見なすことができるはずだ。

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【了】

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