S・ラモスを欠いたレアル
本当に強いチームには精神的支柱が必ずいる。全盛期のバルセロナはカルレス・プジョルがいたし、現在のリバプールにはジョーダン・ヘンダーソンがいる。リオネル・メッシやモハメド・サラーと同じかそれ以上に彼らの存在はチームの勝敗に直結する。
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UEFAチャンピオンズリーグ(CL)で3連覇したレアル・マドリードはクリスティアーノ・ロナウドが絶対的なエースだった。昨季、ロナウドは退団したが、彼が抜けたレアルは今季のラ・リーガで優勝している。
しかし、カピタン(主将)を欠いたレアルは脆かった。セルヒオ・ラモスを出場停止で不在のDFラインはミスから2失点を喫し、CLは2季連続でラウンド16敗退。アヤックスに敗れた昨季のラウンド16も、2ndレグでセルヒオ・ラモスは出場停止になっていた。
1stレグで1-2と逆転負けを喫したレアルはこのシティ戦で、ボールを保持して試合を進めようとした。しかし、自陣のタッチライン際でGKからのパスを受けたヴァランは、左ウイングのガブリエウ・ジェズスにボールを奪われてしまう。シティはゴール前でフリーになったラヒーム・スターリングがジェズスからパスを受け、難なくゴールへ流しこんだ。
ミスは繰り返される
9分という早い時間の失点でレアルは冷静さを取り戻したように見えた。28分にはロドリゴのクロスをベンゼマが頭で合わせて同点。あと1点取れば延長戦に持ち込めるというスコアは、レアルにとって決して悪くない展開だった。
しかし、悪夢は後半に再び起きた。シティのロドリは自陣から相手のDFラインの裏に浮き球のパスを出した。ヴァランはこれを頭で処理しようとしたが空振り。バウンドしたボールを再び頭でティボー・クルトワに送ろうとしたが、ジェズスが追いついてしまった。ジェズスはGKの頭上を越えるループシュートでゴールネットを揺らしている。
振り返れば、セルヒオ・ラモスが出場停止になったのもミスが原因だった。1stレグで後半に逆転されたレアルは、カゼミーロのバックパスが受け手のヴァランに合わず、ジェズスに渡ってしまった。セルヒオ・ラモスはジェズスの後を追い、ペナルティーエリアに入る寸前で後ろから倒した。決定機を阻止したセルヒオ・ラモスは退場。シティはこのFKを決められず、1-2で試合を終えている。
セルヒオ・ラモスはジェズスを倒すしかなかった。あの状況で体を入れることは不可能で、GKと1対1になればほぼ決められる。ペナルティーエリア内で倒せば、イエローカードで済んだ可能性はあるが、PKを与えてしまえば意味はない。あの位置でジェズスを倒す判断は間違えていなかった。
レアルの敗因はミスだが、シティの勝因は?
ヴァランは試合後に「敗退の原因は僕にある」と自らのミスを悔いた。2つのミスが失点に直結したのは紛れもない事実だが、勝因は別の側面からも語ることができる。シティから見れば戦略通りの勝利で、用意周到なプランが奏功した試合だった。
この日のシティは三段構えで90分を戦っている。
フィル・フォデンを中央に置く4-3-3で試合をスタートさせた。レアルのビルドアップに対し、左のジェズスと右のラヒーム・スターリングはサイドバックを牽制しながらセンターバックに圧力をかけ、中央のフォデンはアンカーのカゼミーロへのパスコースを遮断した。
前半のレアルのボール保持率は45%と、そこまで低い数字ではなかったが、自陣からなかなか出られなかった。シティはボール保持にはそこまで執着しなかったが、前線からのプレスが機能したことで、多くの時間をレアル陣内で過ごすことができた。
1-1で前半を終えたシティは、後半から布陣を変えている。3トップは右からフォデン、ジェズス、スターリングという並びになった。シティはもう1点奪われると延長戦に持ち込まれるので、自陣でのブロックを築く意識が強くなり、ハイプレスからリトリートへ移行する判断を早めている。
67分にフォデンを下げてベルナルド・シウバを投入。前半から動き回っていたフォデンの走行距離は9.2kmで、90分に換算すると12kmを優に超える。この時間帯の交代はある程度想定されたものだったのかもしれない。そのまま右ウイングに入ったベルナルド・シルバはタッチライン際に開いて幅を取り、サイドで起点となった。
勝ち越したマンCが採った3つ目の陣形
結果的にシティは68分、偶発的な形で勝ち越しに成功した。レアルに2点が必要となり、残り時間が10分を切ったところでシティは第3形態へと移行する。スターリングを下げてダビド・シルバを投入した。
ダビド・シルバがプレーしたのはスターリングがいた左ウイングでもインサイドハーフでもない。ケビン・デブルイネと並ぶような形で最前線の中央に入っている。ジェズスは再び左サイドに回り、シティは4-4-2の形で試合をクローズさせている。DFの枚数を削って前掛かりになるレアルにつけ入る隙を見せなかった。
3つのプランはいずれもこれまでの試合で使ってきた形で、奇策ではない。ただ、イルカイ・ギュンドアンの起用がこの試合の肝だったと思う。
スタートはインサイドハーフで、終盤はロドリと並ぶダブルボランチだった。レアルがシティのビルドアップにプレッシャーをかけると、ギュンドアンが降りてきてパスコースを作った。
ギュンドアンはここまでCL全試合に出場し、プレミアリーグでもほとんどのビッグマッチで起用されている。力が拮抗する相手との試合では必ずグアルディオラはギュンドアンを必要としていた。的確な判断で変幻自在の戦いを見せたペップ・グアルディオラの采配と、それをピッチで実現した選手たちは見事だった。
(文:加藤健一)
【了】