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マンU、見え始めた名門復活への希望。救世主ブルーノ・フェルナンデス躍動、18歳グリーンウッドも台頭【19/20シーズン総括(9)】

新型コロナウイルスという未曾有の脅威によって2度目の夏を迎えることになった、欧州の長い2019/20シーズンがようやく閉幕した。トラブルに見舞われ、新たな様式への適応も求められながら、タイトル獲得や昨季からの巻き返しなど様々な目標を掲げていた各クラブの戦いぶりはどのようなものだったのだろうか。今回はマンチェスター・ユナイテッドの1年を振り返る。(文:編集部)

シリーズ:19/20シーズン総括 text by 編集部 photo by Getty Images

救世主ブルーノ・フェルナンデス

ブルーノ・フェルナンデス
【写真:Getty Images】

 終わり良ければ全て良し、である。2019/20シーズンのマンチェスター・ユナイテッドが、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権を獲得すると、どれだけの人が信じていただろうか。

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 少なくとも昨年末、前半戦が終わった段階の戦いぶりを見て次のシーズンにCLの舞台で躍動するユナイテッドの姿を想像できた者はわずかだろう。

 プレミアリーグ第19節までの成績は7勝7分5敗。この間に連敗は一度もなかったが、見ての通り勝利数がドローと敗戦を合わせた数を大きく下回っている。リーグ前半に連勝は一度しかなく、なかなか勝ちが続かなかった。

 クリスタル・パレスやウェストハム、ニューカッスル、ボーンマス、ワトフォードと下位クラブに敗れて勝ち点を取りこぼしたのも痛かった。さらにアストン・ヴィラやサウサンプトンにも勝てず、一時は14位まで沈んだ。

 ポール・ポグバが足首を痛めて長期離脱を強いられたことが、不振の大きな要因の1つではある。一方で明確なゲームプランを示せなかったオーレ・グンナー・スールシャール監督には解任論も渦巻いていた。

 そんな停滞ぶりを、1人の新加入選手が全て解決してしまった。1月末にポルトガルの名門スポルティングCPから加入したブルーノ・フェルナンデスである。

 卓越したテクニックやインテリジェンス、イマジネーション、リーダーシップなどを備えたエレガントな司令塔は、すぐにトップ下に定着し、ユナイテッドに欠かせない存在となる。加入後にチームが敗れた試合はFAカップ準決勝のチェルシー戦とUEFAヨーロッパリーグ(EL)準決勝のセビージャ戦だけ。2月以降、リーグ戦では1つも負けていない。

 中位に低迷していたユナイテッドは6月のリーグ戦再開からの9試合を6勝3分で切り抜けた。そして最終節のレスター・シティ戦、直接対決を制して自力でCL出場権を確保。この怒涛の追い上げをけん引したのがブルーノ・フェルナンデスだった。

 初挑戦のプレミアリーグで14試合に出場し、PK4本を含む8得点7アシストというのも十分すぎる数字だ。トップ下のポルトガル人司令塔が輝き始めると、他の選手たちも躍動感を取り戻した。

 終盤戦になるとポグバが復活を遂げ、それまであまり出番のなかったネマニャ・マティッチも先発に定着。ブルーノ・フェルナンデスの背後にポグバとマティッチのダブルボランチが構える布陣が確立され、チームに太い柱ができた。

「新たなファン・ペルシ」の発見

 左サイドに固定されたマーカス・ラッシュフォードは、カットインして右足を振り抜く得意の形に磨きがかかり、カウンターのフィニッシャー役としても機能。リーグ戦で自己最多の17得点を挙げ、エースとしての成長を結果で示して見せた。

 それに触発されるようにアントニー・マルシャルも覚醒し、ユナイテッド在籍5シーズン目にして自己最多の17得点。ここ数年は期待を裏切り続けていたが、絶好のアシスト役が現れたことによりストライカーとしてひと皮剥けた印象だ。

 ベテラン選手の復活や中堅選手の成長だけでなく、若手選手の台頭も見逃せない。18歳のメイソン・グリーンウッドや20歳のブランドン・ウィリアムズは2019/20シーズンに大きく評価を高めた。

 ウィリアムズはルーク・ショーの負傷離脱中に左サイドバックを任されるようになると、徐々に出場時間を伸ばしてリーグ戦17試合に出場。代役不在と思われていたポジションの選手層は確実に厚くなった。

 そして何と言ってもグリーンウッドである。下部組織出身の18歳は序盤戦から出番こそ得ていたが、途中出場がメインで後半の残り10分、あるいは残り15分で投入されることが多かった。ところが中盤戦でいくつも貴重なゴールを奪うと、徐々に状況が変化していく。

 新型コロナウイルスの感染拡大にともなう中断が明けた頃には、完全にチームの主力になっていた。終盤戦、右ウィングに固定されるとプレミアリーグ第32節のブライトン戦から3試合連続ゴールを記録するなど、デビューシーズンながら10得点を挙げて大ブレイクを果たした。

 ユナイテッドは控え組や若手選手中心のメンバーでELを戦っていた。リーグ戦では中盤戦まで途中出場がメインだったグリーンウッドも、ELではより長い時間ピッチに立つことができ、9試合で5得点という結果を残している。

 トップチームデビューのシーズンに、公式戦17得点は彼のポテンシャルの大きさを物語っているだろう。スールシャール監督も「彼は天才だ」と賛辞を惜しまない。

 チームメイトもグリーンウッドの才能を認めている。ショーは「途中出場も多い中、ゴールやアシストで素晴らしい結果を残している。若手選手の希望だ。まだ学ぶべきことは多いだろうけれど、常にハードワークしているのはいいことだと思う。新たなロビン・ファン・ペルシになれるだろう」と絶賛した。

 恐るべき18歳の魅力は、ショーの言葉に詰まっている。まさにファン・ペルシを彷彿とさせる高度なシュート技術がグリーンウッドの最大の武器だ。両足から繰り出される強烈かつシャープな一撃は、すでにトップレベルのストライカーに匹敵する。スピードあふれる仕掛けと高精度のフィニッシュが融合した、紛うことなき逸材である。

名門復活への道筋こそ最大の収穫

メイソン・グリーンウッド
【写真:Getty Images】

 シーズン終了後にはイングランド代表から初招集を受け、グリーンウッドは「夢が叶った。誰とでも競争する準備ができている」と意気込みを語った。そして9月6日に行われたUEFAネーションズリーグのアイスランド代表戦に途中出場し、A代表デビューを果たしている。飛ぶ鳥を落とす勢いの若者は大舞台にも物怖じしない強靭なメンタリティも備えているようだ。

 イングランド代表のエースストライカー、ハリー・ケインもその才能を間近で見せつけられた1人。アイスランド戦前には「天性のゴールスコアラー」と最大級の賛辞を送った。

「メイソンは素晴らしい。自信たっぷりで、シュートを打つことにためらいがなく、対面する相手も恐れない。これこそ僕たちが求めているものだ。よく使われるフレーズだけれど、彼は『天性のゴールスコアラー』なんだよ。適切な場所に適切なタイミングでいるために、多くのことをしている。(中略)どんな状況でも得点できるなら、それが完璧なゴールスコアラーであると言えると思う。まだ短期間しか一緒にやっていないけれど、彼は本物のトップレベルのフィニッシャーだと感じた」

 ブルーノ・フェルナンデスの躍動、ともに17得点で自己最多記録を達成したラッシュフォードやマルシャルの成長、グリーンウッドという発見、ポグバとマティッチの復活…。シーズン終盤のユナイテッドには前向きな要素が数多くあった。スールシャール監督もCL出場権を確保したことで面目を保った。

 低迷していた前半戦からは信じられないほどの変化だ。ただ、地道に積み上げた努力の成果で徐々にチームが変わっていったのではなく、多くの不確定要素が全てうまく噛み合った奇跡的な部分も大きい。

 それでも終わり良ければ全て良し。新シーズンから背番号をライアン・ギグス氏と同じ「11」に変更するグリーンウッドに象徴されるように、2019/20シーズンのチームの軸は継承されていく。さらにアヤックスからドニー・ファン・デ・ベークの獲得も決定するなど戦力的な上積みも進んでいる。

 プレミアリーグ最多優勝を誇る名門が復活し、再び頂点に立つことへの希望や道筋がようやく見えてきたことは何よりの収穫と言えるだろう。

(文:編集部)

【了】

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