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狂人の帰還。マルセロ・ビエルサの兵法に迫る。リーズで企てるマンツーマンの正体は…【ビエルサの兵法・前編】

「プレミアリーグ謀略者たちの兵法」と題してプレミアリーグの監督たちを特集した12/7発売『フットボール批評issue30』から、世界最高峰の舞台に帰還したマルセロ・ビエルサ率いるリーズ・ユナイテッドの「持たざる者」の兵法に日本有数のビエルサマニア龍岡歩氏が迫った記事を、発売に先駆けて一部抜粋して前後編で公開する。今回は前編。(文:龍岡歩)

text by 龍岡歩 photo by Getty Images

全く変わらないビエルサのコンセプト

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【写真:Getty Images】

 マルセロ・ビエルサが表舞台に帰ってきた。

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 独自の超攻撃的サッカーでアルゼンチン代表とチリ代表を率いてワールドカップを戦い、アテネ五輪では圧倒的な強さで金メダルを獲得。スペインのアスレティック・ビルバオではあのペップ・バルサとのちに伝説となって語り継がれる一戦を繰り広げるなど、世界中のサッカーファンに強烈な印象を与えてきた。

 しかし、以降そのキャリアは平坦とは言い難く、マルセイユ(1年で辞任)→ラツィオ(就任2日で辞任!)→リール(4カ月で解任)と渡り歩き、行き着いた先は当時イングランド1部(チャンピオンシップ)に所属するリーズ・ユナイテッドであった。

 この経歴の流れを見れば誰しもビエルサのキャリアは終わった、そう捉えられても仕方ないかもしれない(無論、本人はそんなことなど意に介さないだろうが……)。だが、彼は自分で選んだ道で昇格を掴み取り、プレミアリーグという世界最高峰の檜舞台に戻ってきた。

 では、ビエルサが2年の歳月をかけて咲かせた今季のリーズが持つ特徴を戦術的に見ていこう。

 といっても、過去ビエルサが率いてきたチームを知っている人ならば、彼のコンセプトが時を経てもまったく変わらず貫かれていることにすぐに気が付くはずだ。

ビエルサが頑なにマンツーマンに拘る理由とは?

 まず守備に関しては「+1」と「-1」と「マンツーマン」が基本的な原理原則となる。

「+1」とは後ろの最終ラインのことで、相手が2トップであれば3バック、相手が3トップであれば4バックで「+1」の数的優位を担保する。一番後ろで「+1」を担保するためにはどこかで「‐1」を受け入れなければならない。ビエルサはこの「-1」を最前線のFWに課す。相手が4バックならば3トップ、相手が3バックならば2トップで対峙し、残りの選手は全員マンツーマンでマッチアップを明確にして守る。これはビエルサが過去率いてきたすべてのチームに貫かれている基本原則である。

 ビエルサが頑なにマンツーマンに拘る理由はいくつか考えられる。

 まず一つ目は現代サッカーでは「ゾーンが主流」ということが挙げられる。ゾーンが主流の時代に育ってきたアタッカーは、当然ゾーンディフェンスを破る術には慣れている。だがマンツーマンには慣れていないので、人にベッタリ張り付かれるのを嫌がる選手は意外と多い。そういう時代性を逆に利用しているのだ。

 昨シーズン、イタリアのアタランタが同じくマンツーマンを主体とした戦術でCLベスト8に躍進するなどアップセットを演じたが、「持たざる者」の戦略として時代性を逆手にとった弱者の兵法は極めて理に適っている。

(文:龍岡歩)

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30号_表紙_fix

『フットボール批評issue30』


定価:本体1500円+税
プレミアリーグ謀略者たちの兵法

≪書籍概要≫
監督は謀略者でなければならない。それが世界最高峰の舞台であるプレミアリーグであればなおのことだ。さらに中堅以下のクラブを指揮している場合は、人を欺く行為こそ生存競争を勝ち抜くために必要な技量となる。もちろん、ピッチ上における欺瞞は褒められるべき行為で、それこそ一端の兵法と言い換えることができる。
BIG6という強大な巨人に対して、持たざる者たちは日々、牙を研いでいる。ある監督は「戦略」的思考に則った「戦術」的行動を取り、ある監督はゾーン主流の時代にあえてマンツーマンを取り入れ、ある監督は相手によってカメレオンのように体色を変え、ある監督はRB哲学を実装し、一泡吹かすことだけに英知を注ぐ。「プレミアの魔境化」を促進する異能たちの頭脳に分け入るとしよう。



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【了】

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