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グアルディオラが与えた衝撃、「5秒ルール」が変えた世界。その構造とは?【プレッシングの進化・前編】

噛み砕いて考えれば考えるほど、グアルディオラのゲームモデルはシンプルそのものである。彼らがあれほど効果的に戦えるのは、同コンセプトを寸分の狂いもなく実行に移しているからこそだ。マンチェスター・シティの選手がどのように動き、どのようにパスを出しているのか、そしてその理由について明確に説明することを試みた『ポジショナルフットボール教典』から、「プレッシング」の章より一部抜粋で公開です。(文:リー・スコット)

text by リー・スコット photo by Getty Images

バルセロナで作り上げた新たなプレッシング概念

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【写真:Getty Images】

 ここ10年間ほどのサッカーを取り巻く世界の中で、プレッシングの概念はきわめて大きな流行を巻き起こした。守備というものが比較的受け身なプレーだと考えられ、コンパクトな陣形を敷いた上で相手がファイナルサードに入ってくるのを待ち構えるチームが大半だった時代はそう昔のことではない。チームによって、あるいは個々の選手によってはプレスをかける場合もあったが、それも孤立した形で行われており、サポートを伴う形ではほとんどなかった。

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 これが変わり始めたのは、サッカーにおける他の多くの事象と同じく、グアルディオラが2008年から2012年までバルセロナを指揮した時期だ。この時のバルセロナはボールポゼッションに優れていただけでなく、ボールを持っていない状況でのプレーも別格だった。

 プレッシングで相手を苦しめ、自陣内でのミスを誘発すると、ボールを奪ってゴールチャンスへと繋げていた。前線からのプレスに人数を割くバルセロナは、ピッチ上の選手数が相手チームより多いとさえ感じられるほどだった。

 グアルディオラはその監督キャリアの初期において、「5秒ルール」として広く知られることになったプレッシング構造を好んで用いていた。このルールは、チームがボールを失った際に、ボールを奪い返すため、最初の5秒間に猛烈なプレスをかけるという決まりごとだった。この時間内にボールを奪い返すことができなければチームはラインを下げ、よりコンパクトな守備陣形を取り、相手が突破や抜け出しを図ることができるようなスペースを消そうとしていた。

「5秒ルール」を次なるレベルへ進化させた人物とは?

 このプレッシング構造の背景にある考え方はシンプルなものだ。グアルディオラは、相手がボールを保持するフェーズで、最初にボールを奪い取った直後こそが最もチャンスと考えていた。ボールを奪い取った選手は、そのボール奪取のためにエネルギーを消費したはずであり、最初の瞬間には本来のポジションからも少し外れているはずだ。

 それに加えて相手チームは、まだバルセロナがボールを持っていた段階で守備陣形を取るためにラインを下げており、ボールを奪った瞬間にはボール保持者をサポートする構造が整っていないと考えられる。

 この2つのポイントを念頭に置き、グアルディオラは自らのチームがボールを失うとすぐに少なくとも2人か3人の選手でプレスをかけさせていた。

 グアルディオラがバイエルンの監督に就任するためドイツに移ると、この国の大きな戦術的トレンドであったゲーゲンプレッシングに直面することになった。ユルゲン・クロップの率いたボルシア・ドルトムントのエネルギー溢れる戦いぶりで有名となったゲーゲンプレッシングは、バルセロナの「5秒ルール」を次なるレベルへと昇華させていた。

 ドルトムントはボールを失うと、まさに旋風のようにプレスを繰り出していた。彼らの容赦ないプレッシングスタイルはわずか数秒間どころではなく、ボールを持っていない時にはチーム全体が積極的にプレスをかけ、相手が落ち着いてボールを持つことを許しはしなかった。

(文:リー・スコット)

9784862555526

『ポジショナルフットボール教典』


定価:本体¥2000+税

<書籍概要>
噛み砕いて考えれば考えるほど、グアルディオラのゲームモデルはシンプルそのものである。 彼らがあれほど効果的に戦えるのは、同コンセプトを寸分の狂いもなく実行に移しているからこそだ。 本書を通して、シティの選手がどのように動き、どのようにパスを出しているのか、そしてその理由について明確に説明することを試みたい。 最後まで読み終えたあと、グアルディオラが用いる戦術コンセプトを今までより少しでも楽しんでもらえるようになったとすれば、この試みは成功だったと見なすことができるはずだ。

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【了】

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