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マンUの背番号21が再ブレイク中。FWなのに「ゴールなんて関係ない」と言われる理由は?【分析コラム】

プレミアリーグ第26節、チェルシー対マンチェスター・ユナイテッドが現地時間2月28日に行われ、0-0の引き分けに終わった。ユナイテッドにとってはUEFAヨーロッパリーグから中2日という日程で行われたが、好調のチェルシーを無失点に抑えている。その陰には、ダニエル・ジェームズの貢献があった。(文:加藤健一)

text by 加藤健一 photo by Getty Images

無得点で終わったチェルシー対マンU

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【写真:Getty Images】

 チェルシー対マンチェスター・ユナイテッドの一戦は、その名に恥じない好ゲームだった。ゴールネットは最後まで揺れなかったが、両チームともに勝ち点3を目指し、計29本のシュートが飛び交った。

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 日程の面では中4日のチェルシーにやや分があった。しかし、ユナイテッドも3日前のレアル・ソシエダ戦でハリー・マグワイアに休養を与え、ブルーノ・フェルナンデスとマーカス・ラッシュフォードは45分間のプレーに留めた。スコット・マクトミネイも怪我から復帰し、大一番に向けてできる限りの準備を整えている。

 ユナイテッドはほぼオールコートプレッシングで、チェルシーのビルドアップを封じようとした。チェルシーは何度かボールを奪われてピンチを招いたが、ゴールは決められないまま前半を終えた。

 トーマス・トゥヘル監督はハーフタイムに動く。メイソン・マウントを中盤に落とす3-3-2-2に陣形を変え、右ウイングバックにはカラム・ハドソン=オドイに代えてリース・ジェームズを起用。ボール保持の局面で安定感をもたらそうとした。

 布陣変更が身を結び、後半のチェルシーは敵陣でボールを持つ時間が増えた。しかし、ダビド・デ・ヘアのビッグセーブもあり、先制点は遠かった。チェルシーは18本のシュートを放ち、6本を枠内に飛ばしたが、ユナイテッドの堅い守りを崩すことができなかった。

ダニエル・ジェームズの献身性

 オーレ・グンナー・スールシャール監督は、交代カードを1枚しか切らなかった。メイソン・グリーンウッドを下げて79分にアントニー・マルシャルを起用。ポール・ポグバとエディンソン・カバーニが不在では、攻撃的な交代カードを切るのは難しかった。

 ラッシュフォードとブルーノ・フェルナンデスという絶対的な軸は下げられない。守備強度を落とすわけにはいかないので、右サイドで起用されたダニエル・ジェームズも90分間プレーさせなければいけなかった。

 データサイト『Whoscored.com』によると、ダニエル・ジェームズのボールタッチ数は、GKのデ・ヘアより1回だけ多い36回だった。相手チームと比べても、ハーフタイムで退いたハドソン=オドイより少ない。ダニエル・ジェームズが攻撃面で大きな影響を与えたとは言えない。

 しかし、ダニエル・ジェームズの迫力は凄まじかった。オールコートプレッシングで相手から自由を奪い、カウンター時は囮になることを厭わずスペースに走りこんだ。

 チームの中心ではないかもしれないが、ダニエル・ジェームズのような選手は必要だ。かつてのパク・チソンのように、身を粉にして働く存在は指揮官にとって頼りになる。

 攻撃面でのアピールはほとんどできなかったが、チェルシーを無失点に抑えた立役者の1人になった。スールシャール監督は「彼の守備、プレッシング、エナジー。求めていたものを彼はチームに与えてくれた」と称賛している。

「対応するには時間がかかる」

「ゴールなんて関係ないだろ。大事なのは、君のプレーだ。そのフォームを維持すべきだと思う」

 1歳年上のスコット・マクトミネイは、昨年5月のダニエル・ジェームズとの対談でこう述べている。昨シーズン、スウォンジーから加入したダニエル・ジェームズは8月だけで3得点を挙げたが、プレミアリーグ1年目はその3点のみに終わっていた。

「彼は加速が素晴らしいから、どんな相手でも置き去りにすることができる。あとはフィニッシング・タッチを磨くことだ」

 ダニエル・ジェームズが加入した当初、ウェールズ代表監督を務めるライアン・ギグスはダニエル・ジェームズをこう評していた。開幕直後のゴールはビギナーズラックのようなものだったのかもしれない。その後はギグスの見立て通りゴールから遠ざかることになる。

 今季はカバーニの加入もあり出場機会を減らしていたが、12月以降だけで5得点をマーク。2月は出場した3試合連続でゴールを決めている。いずれもゴール前で冷静な「フィニッシング・タッチ」を見せた。

 つまるところ、ダニエル・ジェームズは発展途上だったということだ。プレミアリーグでのプレーはまだ2シーズン目。「スウォンジーから移籍して、とても大きな違いを感じている」という感想はもっともなものだ。マクトミネイも「人生と一緒で、対応するには時間がかかる」と返している。

 ラッシュフォードやグリーンウッドは、思春期を迎える前からユナイテッドのDNAを感じながら過ごしてきた。彼らに比べてダニエル・ジェームズに時間が必要なのは当然のことだった。

 加入当初がファーストブレイクならば、現在は再ブレイクになる。しかし、それがビギナーズラックだったとすれば、ダニエル・ジェームズは今、本格的にその素質を開花させようとしている。

(文:加藤健一)

【了】

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