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“教育”だけど“教えない”。スペインに学ぶ育成のアプローチとは?【サッカー本新刊レビュー:サッカーを外界へ編む(1)】

text by 石井龍 photo by Getty Images

小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を決定。このコーナー『サッカー本新刊レビュー』では2021年に発売されたサッカー本を随時紹介し、必読の新刊評を掲載して行きます。


『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』

(小学館新書:刊)

著者:佐伯夕利子
定価:880円(本体800円+税)
頁数:192頁

 アスリート、ビジネスマン、アーティスト、クリエイター、スペシャリスト……etc。

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 呼び方は何でもよく、自分自身をベッドし勝負する人々に対して他者ができることはそう多くありません。教育者としてその人の能力を伸ばすとしても、本人の意思次第ではいかに的確なアドバイスであろうが意味をなさず、そのような状況はサッカー界のみならず、どの業界にも見受けられるはず。

「どうすればうまく(的確に)伝えられるのだろうか?」

 何かを伝えるとき、私たちは無意識に“教える側”を主語にして考えているようです。それは社会に出て、一端の仕事をするようになり、例えば部下を持つようになったり。そうした人生経験を積む中で、“教える”という行為そのものをトップダウン的なアプローチと捉えはじめる。ある意味、特権的な行為と捉える人もいるかもしれません。この前提を見直すことこそが次代の「育成」を巡るひとつの突破口であり、“教育”なのに“教えない”という一見すると不可解な姿勢にも納得感を感じます。

 2020年時、スペインでプロサッカー選手契約を勝ち取れる確率は0.038%。もう少し具体的に表現するとプロになれるのは約2600人に一人で、その狭き門を突破するために数々の試行錯誤が行われているのがサッカー育成の現在地です。

 本著は育成においても先鋭化したスペインはビジャレアルCFを舞台に、実際にその育成部として現場に立ってきた現Jリーグ常勤理事・佐伯夕利子による体験記であり育成論。

 “教える側”を主語にした著書は多く見受けられますが、“教えられる側”を主語にすることで生まれる新しいアプローチ。そこで生まれる両者の関係性こそが教えない教育であり、本著におけるハイライトです。ここでは「育成」という言葉のイメージに囚われることなく、少し視点をズラすことで見えてくる「教え方」が描かれています。

 もちろん、ビジャレアルCFの育成メソッドや具体的なケーススタディの紹介もありますがこの場では教えないでいようと思います。

(文:石井龍)

石井龍(いしい・りゅう)
プロデューサー&マネジメント。「ZISO」のボードメンバーとしても活動。2019年1月アニメーションスタジオ「FLAT STUDIO」を設立。2021年11月にはloundraw監督映画「サマーゴースト」の公開が控えている。

【了】

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