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リバプールが示した“強者の証”。過密日程を「楽しんでいる」。硬直した状況を打開した方法とは?【分析コラム】

シリーズ:分析コラム text by 本田千尋 photo by Getty Images

機能不全を起こした理由



 1つは、先発のメンバーが大幅に入れ替わったからだろう。3日前に北イタリアのミラノまで飛び、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)でインテルとのアウェイゲームをこなしたばかりだった。そして、クロップ監督はこのノリッジ戦で大掛かりなローテーションを敢行。サン・シーロで行われた試合から、フィールドプレイヤーではモハメド・サラー、サディオ・マネ、フィルジル・ファン・ダイク以外の7人を入れ替えた。

 もちろん毎日のトレーニングは一緒にこなし、コンセプトは共有できているとはいえ、これだけ先発が入れ替わってしまうと、チームとして機能するのは簡単ではない。特に、右SBにトレント・アレクサンダー=アーノルドではなく、CBが本職のジョー・ゴメスが入ったことで、サイドアタックに厚みが出なくなり、攻撃の停滞に繋がったのではないか。また、サラー、マネ、ファン・ダイクの3人は、インテル戦からの疲れを引きずっているようにも見えた。

 このような大幅なローテーションと主軸の選手の疲労が重なったことで、リバプールは、少なからずチームの機能不全を起こしたのだろう。ノリッジ戦では、少なからずカウンタープレスが掛からないところがあり、攻撃のテンポも上がらず、苦し紛れのミドルレンジからのシュートが目立ち、全体的に停滞していた。

 そもそも、CLの決勝トーナメントといったビッグマッチの直後の格下相手のリーグ戦は、思いのほか難しいのかもしれない。チームとして疲労を引きずりながら、周囲に勝って当然と思われる対戦相手に当然のように勝つことは、それなりにプレッシャーがかかる局面ではある。

 たしかに、“イタリア王者”インテル戦の直後の降格圏に沈む相手との試合は、主軸を休ませてローテーションを行う絶好の機会ではある。だからと言って、見た目ほどに勝ち切ることは決してラクではないのだろう。そういった意味では、リバプールの選手たちにとっては、ノリッジよりもインテルとの1stレグの方がやりやすかったのではないか。実際、相手がそれなりに強くて前に出てきてくれた方が、「プレッシング+ゲーゲンプレッシング」といったクロップ監督のチームが持つ強みを発揮しやすい。

リバプールが示した“強者の証”



 もっとも、ここで降格圏の格下にそのまま金星を献上しないことが、現在のリバプールの“強さ”だ。クロップ監督は、62分にナビ・ケイタに代えてディボック・オリギを、アレックス・オックスレイド=チェンバレンに代えてチアゴ・アルカンタラを投入。布陣を[4-4-2]に変更し、前線に厚みを持たせた。

 すると、直後の64分、コスタス・ツミカスが左から頭で折り返したボールを、マネが強烈なバイシクルで突き刺して同点に追い付く。さらにその3分後には、GKアリソンのロングキックに抜け出したサラーが、オリギのフリーランの援護を得て、粘り強いキープから敵のGKをかわしてボールをゴールに流し込む。

 クロップ監督の采配がスイッチとなり、布陣変更から「硬直した」「状況を打開」して、一気呵成に逆転。そして81分には、裏に抜け出したルイス・ディアスが、冷静にフィニッシュして3点目。終盤には主将のジョーダン・ヘンダーソンが落ち着いて捌いてゲームを落ち着かせ、試合巧者ぶりを発揮したリバプールが、ノリッジに3-1で勝ち切った。

 このように格下相手に苦しみはしたが、苦しみながらも勝ち切れることは“強者の証”ではないか。そしてクロップ監督は、試合後に「我々は楽しんでいる」とコメントを残した。ドイツ人指揮官は「選手たちにとって簡単ではない」ことは分かっているが、平行して4つのコンペティションを戦っている現在の過密日程をこなすことを「楽しんでいる」という。

 どんなに苦しい状況、苦しい試合でも「楽しんで」勝ち切れること、または勝ち切って「楽しんでいる」ことこそは、リバプールらしい“強者の証”なのかもしれない。

(文:本田千尋)

【了】

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