フットボールチャンネル

コラム 5か月前

「逃げたい、楽になりたい」そんな福田翔生が「生きてきてよかった」と思えたとき。「おかげで僕はいま幸せ」【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

万感の思いで迎えた兄弟対決「心が折れそうになるとき…」

「J1でプレーする兄ちゃんの姿をDAZNで見ながら、そのたびに『僕もやってやる』と言い聞かせてきました。心が折れそうになるときには、兄ちゃんが『お前なら大丈夫。翔生は絶対にJ1の選手になれるから』と何度も励ましてくれました。兄ちゃんの支えがなかったら、僕はJ1の舞台にも立てなかったと思う」

 カテゴリーを超越して、2人はお互いを特別な存在だと位置づけてきた。だからこそ、福田がY.S.C.C.横浜でチャンスを手にして、さらにサイドアタッカーからフォワードへのコンバートを介して潜在能力を開花。同じカテゴリーである湘南へと駆けあがってきた軌跡は、2人に新たな夢を抱かせた。

 それは兄弟が敵味方に分かれての真剣対決。湧矢がガンバに所属していたときは、湘南との対戦がめぐってきても、どちらかがベンチ外になるすれ違いが続いた。しかし、湧矢が東京ヴェルディに移籍した今シーズン。味の素スタジアムで5月11日に行われたヴェルディ対湘南で夢がかなった。

 シャドーで先発する湧矢の名前を確認した福田は、キックオフ前のウォーミングアップで汗を流しながら、待ち焦がれたマッチアップへ、いまにも涙腺が決壊しそうになるのを必死にこらえていた。

 万感の思いは激しい攻防となって具現化する。例えば前半。福田のファウルで湧矢が倒された直後だった。左手でボールを抱えながら立ち上がった湧矢と、頭をちょっぴり下げた福田が右手をパチンと合わせ、さらに右肩同士をぶつけ合う場面があった。兄弟の熱い思いが凝縮された神聖なる儀式だった。

 湘南が勝利した一戦は、両足の太もも、ふくらはぎとすべてが攣った湧矢が後半途中に、精も根も尽き果てた福田が試合後に、ともに担架に乗せられて退場する壮絶な展開となった。力のすべてをぶつけあった証。試合後に「やっと戦えたね」と声をかけてきた福田へ、湧矢もこんな思いを抱いていた。

1 2 3 4

KANZENからのお知らせ

scroll top
error: Content is protected !!