フットボールチャンネル

コラム 2か月前

売却決定で「歓喜」と「憤り」。サン・シーロはどう生まれ変わるのか。ミランとインテルに委ねられた未来図【コラム】

シリーズ:コラム text by 佐藤徳和 photo by Getty Images

サン・シーロ取り壊しに反対の声をあげるレジェンドは?

 スタジアム周囲で売店を営む男性は、「ローマのコロッセオを取り壊すようなものだ」と憤りを示す。今後、異議申し立てが出る可能性もあるが、スカローニ会長はこれを否定。「イタリアではそういうことは常に起こりうる。しかし、訴えが却下される要素がすべて揃っている」と説明する。

 現サン・シーロに強い郷愁を抱くのは、2人のレジェンド。インテルのサンドロ・マッツォーラとミランのジャンニ・リヴェーラである。

 1942年生まれのマッツォーラはこう語っている。

「サン・シーロの取り壊しの可能性は、耳にしただけで頭が痛くなる。むしろ毎年少しずつ手を入れて、今のスタジアムを残す方が良いのではないか。初めてサン・シーロに選手として足を踏み入れたときのことを今でも覚えている。あの時、私は19歳だった。階段を上がってピッチに出る瞬間の感動は、とてつもないものだった。

 そしてユーヴェを相手にゴールを決めて、スクデットを手にしたあの試合も。もし補修して使い続けられるなら、その方がいい。ミランやインテルのリザーブチームや下部組織の子どもたちに使わせるのも良いのではないか」

 また、1943年生まれのバロンドーラー、リヴェーラも解体に強く反対する一人だ。

「サン・シーロは、ドゥオーモやスカラ座と並んでミラノを世界に象徴する存在だ。スカラ座を壊そうとするようなものじゃないか! もしミランとインテルが新しいスタジアムを欲しいなら、民間から土地を買って、そこで建てればいい」

 サン・シーロをミラノ市の司教座聖堂とイタリアオペラ界の最高峰の歌劇場になぞらえて、スタジアムの保存を強く訴えていた。

 一方、2人のバンディエラと同世代で、1946年生まれのファビオ・カペッロは、異なる意見を持つ。現役時代には、ミランのプレーヤーとして屋根と3階席がなかったサン・シーロでピッチに立った経験を持ち、ミランの監督として、今の姿となった屋根付きのサン・シーロで指揮を執った人物である。

 ドン・カペッロは「これ以上先延ばしはできない」と訴える。

「サン・シーロは、自分の成長を見守ってくれた存在だと言える。だが、今のサン・シーロのあり方を考えると、別れを告げるべき時が来たと思う。今の時代にふさわしい、新しくて違ったものを提案する必要がある。

 私にとって大切なこのスタジアムが『砂漠の中の大聖堂』のように見捨てられてしまう悪夢を抱いてしまう。だが、ミラノにはそんなことは許されないし、イタリアサッカーにも許されない。サン・シーロはこれからも象徴であるべきだが、現代に見合った姿でなければならない」

 新しいサン・シーロが建てられなければ、2032年のUEFA欧州選手権は、ミラノで開催されないこととなる。ミラノはイタリアの経済の中心地であり、イタリアにおけるサッカーの“首都”とも言えるだろう。

 そのような場所で欧州選手権が開催されないような事態は当然、回避されなければならない。

(文:佐藤徳和)

【関連記事】
W杯が危うい…。強豪だったイタリア代表はなぜ凋落したのか。様々な要因が絡み合う負の連鎖【コラム】
イタリア代表、本当に大丈夫か?監督人事を巡る狂騒劇、“狂犬”ガットゥーゾはこうしてアッズーリの指揮官に就任した【コラム】
98年、中田英寿。激動の時代、ナカタはなぜ至高の活躍を見せ急速に引退へと向かったのか【セリエA日本人選手の記憶】

【了】

1 2 3 4 5

KANZENからのお知らせ

scroll top
error: Content is protected !!