サッカー日本代表は10日、パナソニックスタジアム吹田で行われた国際親善試合でパラグアイ代表と対戦し、2-2で引き分けた。1点を追いかける形で迎えた後半アディショナルタイム、上田綺世が殊勲の同点弾を記録。伊東純也はこのゴールをアシストしたほか、フル出場して攻守に多大な貢献を見せた。安堵感を口にする一方、厳しい見方も示している。(取材・文:元川悦子)
パラグアイ代表戦では“本職”で起用された伊東純也
9月のアメリカ合衆国遠征で2戦連続ノーゴールで未勝利に終わっていた日本代表。ホームで戦う10月シリーズは確実に点を取って勝利する必要があった。
特に10日にパナソニックスタジアム吹田で対峙したパラグアイは堅守に定評のあるチーム。その相手をいかに攻略し、勝ち切るか。それが今回の最重要命題と位置づけられた。
14日にブラジル代表戦が控えているため、森保一監督は主力級数人を温存すると見られた。
実際、左足首負傷の久保建英やエースFW上田綺世はベンチスタートとなった。
一方で南野拓実や堂安律、田中碧、鈴木彩艶らを先発に起用。両ウイングバックも右に伊東純也、左に中村敬斗という昨季までの同僚コンビを起用し、サイドアタックにパワーをかけていく意思を鮮明にしたのだ。
伊東は9月のアメリカ代表戦に続く先発。前回は鈴木唯人と組んで右シャドウで躍動したが、今回は慣れた本職のポジションだ。
4シーズンぶりに復帰したヘンクでは今季左サイドを主戦場にしていて、本人も「最初はやりづらさがあったけど、徐々にできるようになった」と前向きに発言。すでにクラブでは2得点をマークするなど着実に調子を上げているところだ。
「やっと長い時間プレーできるようになってきたので…」
だからこそ、この日は得点に絡む仕事が求められた。
「9月に得点が取れていないのはチームとしてよくないと思いますけど、ゴールを生み出すのが自分の役目。(足首の負傷が癒え)やっと長い時間プレーできるようになってきたので、ゴールやアシストの結果を残していければいい」と本人も試合前から強い意気込みを示していた。
日本は序盤から伊東の陣取る右からの崩しを積極化。3バック中央の渡辺剛のロングフィードが何本か出て、背番号14は持ち前の個の打開力を駆使して突破しようとチャレンジした。
伊東が受け、堂安が右の深いエリアに侵入。そこにタテパスが入るシーンも何度か見られ、その形から決定機が生まれそうな雰囲気も漂った。
けれども、相手の堅守は簡単には崩れない。逆に21分、パラグアイはボランチ・ボバディージャのタテパスに反応したエースのミゲル・アルミロンが日本守備陣の裏に抜け出し、先制点を奪うことに成功。日本は早々とビハインドを背負うことになったのだ。
この停滞感を打破したのが、最前線に陣取った小川航基(NECナイメンヘン)。1失点目から5分後に佐野海舟(マインツ)のタテパスを受け、反転から豪快に右足ミドルシュート。これがGKに当たってそのままネットを揺らし、いち早く1−1に追いついた。
だが、その後もパラグアイに対してプレスがハマらず、「いい守備からいい攻撃」という日本の強みを生かしきれない。前半終了間際の伊東のFKもファーで堂安が反応したが決めきれない。不完全燃焼感が拭えないまま、試合を折り返すことになった。
「うまく外されるシーンが多いんで…」
後半に突入すると、伊東はよりゴールへの意識を高めていく。特に印象的だったのが、中村敬斗からの大きなサイドチェンジに反応し、南野と絡んで自ら持ち込んだ決定機。左足シュートはDFにブロックされたが、アグレッシブな姿勢が前面に出ていた。
にもかかわらず、日本はこの重要な時間帯にまたも守備の綻びが生じ、右クロスから2失点目を喫してしまったのだ。
「クロスからの失点が多いなっていう印象があって、相手に前で触られるシーンだったり、うまく外されるシーンが多いんで、クロスの対応をしっかりしなきゃいけない。マンツーマンでやってる分、相手に負けないところはやらないといけない」と背番号14は厳しい言葉を口にしていた。
この直後、南野が下がり、鎌田大地が入ってくると、伊東は前回に続いてキャプテンマークを巻き、自ら2点目をもぎ取ろうと気を吐いた。森保監督も町野修斗、上田とベンチに置いていたFW陣を次々と投入。最後はこの2人の2トップで前にパワーをかけた。
そうなれば、伊東としては虎視眈々とクロスを狙っていくしかない。それが結実したのが、後半アディショナルタイム。途中出場の相馬勇紀のFKを相手DFが競ったこぼれ球を右サイドで拾い、大外からクロスを蹴り込んだのだ。
次の瞬間、ニアに瀬古歩夢が飛び込み、ファーでフリーになった上田がダイビングヘッド。今回から18番をつけたエースが起死回生の同点弾を奪い、2−2のドロー。日本は連敗を免れる格好となった。
「本当に痛みが取れてきて…」
「負けなくてよかったというのはあります。GKの間に速いボールを入れて、歩夢がいい形で飛び込んで、綺世もいいポジション取りをしていた。クロスをどこに上げようかと考えて、低いボールを狙ったりはしてましたけど、1回くらいしか合っていない。最後に合ってよかったなと思います」
背番号14は心からの安堵感を吐露していた。
南野、堂安、中村敬斗と他のアタッカーが次々と下がる中、伊東はフル稼働し、最後の最後まで攻撃陣を引っ張った。
9月の時は足首の状態が万全ではなく、かなり辛そうにしていたが、「前回の代表が終わって中2〜3日でヨーロッパリーグもあって、うまく休みながらコンディションを維持できた。本当に痛みが取れてきたんで、ストレスなくプレーできる部分が増えてきた」と本人も話すように、確実に状態は上向いている。
左右のWBにシャドウと複数ポジションをこなせる伊東がタフな連戦を乗り切れるようになれば、森保監督にとっても心強い材料だ。
32歳になった今、スピードで敵をぶっち切ってゴールまで持ち込むような鋭さは少し失われつつあるが、攻守両面で多彩な仕事を柔軟に遂行してくれるベテランは本当に頼りになる。
「昔の強かった時は…」
この日も望月ヘンリー海輝との交代が予定されたが、「純也ならいける」と指揮官が判断。それが値千金のラストプレーにつながったのは間違いない。
復調傾向にある背番号14。彼は8か月後のFIFAワールドカップ2026北中米大会を「代表キャリアの集大成」と位置づけている。
年齢的にも最後になるであろう大舞台で勝ち切ることが今の最大のテーマに違いない。そのためにも、伊東自身の状態をより引き上げないといけないのは間違いないが、日本としては守備面を改善することも必須テーマだ。
「昔の強かった時はゼロで抑えられてて、なおかつ攻撃っていうところがあった。簡単に失点してしまうとこういう試合展開になる。目の前の相手に負けないところはまずやらなきゃいけないですね」と本人も守備強化を誓っていた。
その共有を図り、中3日で迎えるブラジル戦はピリッとした戦いができるように仕向けていくこと。それが32歳のベテラン・伊東に託された重要タスクと言っていい。
(取材・文:元川悦子)
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