サッカー日本代表は14日に国際親善試合でブラジル代表と対戦し、3-2で勝利した。前半のうちに2点のビハインドを背負ったが、後半に3点を追加して大逆転。世界的な強豪を相手に史上初の白星をあげ、日本国内は歓喜に沸いた。決勝ゴールをあげたのは、今季絶好調の上田綺世。代表でも2試合連続でネットを揺らし、いよいよチームを背負う点取り屋に成長した。(取材・文:元川悦子)
「新たな歴史」へ挑むサッカー日本代表
2026年のFIFAワールドカップ(W杯)優勝という壮大な目標を掲げる日本代表にとって、過去13戦未勝利のブラジルはいつか必ず倒さなければいけない相手だった。
選手たちも「新たな歴史を作りたい」と自らを奮い立たせ、10月14日の東京・味の素スタジアムのピッチに立った。
ブラジルのカルロ・アンチェロッティ監督が5-0で圧勝した10日の韓国代表戦から先発8人変更したのに対し、日本の森保一監督は左足首負傷から復帰した久保建英、1年ぶりの代表戦復帰となる谷口彰悟ら4人を変更した。
10日のパラグアイ代表戦で値千金の同点弾を叩き出した上田綺世も満を持して最前線に送り出した。
「ブラジルの強さは未知数。だからこそ、自分らができることを最大限やること。あるものを全部出して自分たちの現在地を知ることが大事だと思います」とパラグアイ戦から憧れの父がつけていた背番号18に変更した絶対的エースFWは、大一番を前にギラギラ感を強く押し出した。
彼がそういう発言をするのも、2022年6月のブラジル戦では出番なしに終わった苦い経験があるからだろう。
「外してもマインドは変わらなかった」
「(3年前に比べて)余裕はないですけど、時間も経ったし、立場も変わっているし、自分も成長している。自分はチームの結果に直結するポジションなので、相手がブラジルだろうと他の国だろうと、僕のメンタリティはそんなに変わらないですね」
上田はそう語っていたが、W杯優勝5回のサッカー王国に対し、同じ目線で挑める状態になったという。
それは欧州で活躍する日本選手全員に言えること。そういう意味で今回は期待が高まったが、前半の日本は5-4-1のミドルブロックを形成しながらも、じわじわと相手にボールを保持されるようになっていった。
それでも22分に最初の決定機が生まれる。右の堂安律の突破に南野拓実が反応。中に折り返すとファーにフリーで飛び込んだのが上田だった。
だが、左足を伸ばしたシュートは惜しくも枠の外。本人は「外してもマインドは変わらなかった」と話したが、日本にとっては決めておきたいシーンだった。
この直後からブラジルは一気に攻勢に出て、26分にパウロ・エンリケが一瞬のスキを突いて先制点をゲット。この1失点目が日本にとってダメージになったのか、この時間帯からブロックが低くなり、ボールを奪えなくなってしまう。
さらに、6分後にはガブリエウ・マルティネッリが2点目を追加。前半は0−2という厳しい展開を強いられたのだ。
「『勝ちに行こう』という声かけが…」
「前半は慎重になりすぎてなかなか相手に圧をかけられなかった。でも0−2になっちゃったんで、もう前から行って、リスク承知の上でゴールを取りに行くしかないと思いました。
『ポジティブにまず1点ずつ取れれば全然、試合の結果は分からないし、アグレッシブに点を取りに行こう、勝ちに行こう』という声かけがありました」
上田が証言するように、キャプテンマークを巻いた南野や代表経験豊富な堂安が強気の声かけをしたのが大きかったのだろう。後半の日本は見違えるほど矢印が前面に出始める。
その象徴が50分の南野の1点目。いったん攻め込んで、相手守備陣に阻止された後、堂安と鎌田がゲーゲンプレスに行き、DFファブリッシオ・ブルーノにバックパスが出たところに上田が迷わずハイプレス。その勢いにひるんだ相手がバランスを崩してパスが乱れ、拾った南野が右足を振り抜いたのである。
「僕らが主体的にやっていこうとしたことが結果につながった。それが勢いづいた理由かなと思います」と背番号18も力を込めたが、この1点でガラリと流れが変わった。
森保監督も畳みかけようと、時間限定出場だった久保に代えて伊東純也を起用。彼をシャドウに置いて相手守備陣をかく乱しようと試みた。
その采配がズバリ的中。日本は62分、伊東が右サイドを突破して挙げたクロスにファーから飛び込んだ中村敬斗が右足を一閃。ついに2-2に追いつくことに成功したのだ。
2度目の決定機逸。それでも上田綺世は…
そして、エースFWの真骨頂が発揮されたのが、26分の3点目に至る流れだ。
まず25分に守護神・鈴木彩艶のロングフィードを上田が落とし、伊東が拾ってクロスを入れると、彼はDF2枚の間に強引に入り込んでヘッド。これは惜しくもクロスバーを叩いた。
上田にしてみれば、前半に続く2度目の決定機逸。普通なら多少の焦りを覚えてもおかしくないが、絶好調の点取屋はどこまでも堂々としていた。
そして次の伊東の左CKの軌道を冷静に見極め、やや遅れたタイミングで中に侵入し、打点の高いヘッドをお見舞い。GKウーゴ・ソウザを吹き飛ばすくらいの強いシュートが決まったのだ。
「セットプレーはデザインして入りましたけど、あのシーンは中の選手もキッカーもフィーリングで自分の感覚で入っていこうって話をしてて、『ここに来るんじゃないか』っていう自分の勘がしっかり当たってゴールになりました」と上田はしてやったりの表情を浮かべた。
この一発が決勝弾となり、日本は3−2で逆転勝利。ようやく歴史的1勝を手にしたのである。
堂安は「戦術カタール」という表現をしていたが、この大逆転劇は2022年カタールW杯のドイツ代表戦、スペイン代表戦を彷彿させるものがあった。あの大舞台の経験があったからこそ、日本は強豪相手にリードされても「まだまだ行ける」という強気のマインドを貫けたに違いない。
「同世代の選手のプレーに刺激を受けた」
上田に関して言えば、カタールW杯の時はコスタリカ代表戦1試合の出場にとどまり、「ドイツやスペインの試合に出ていたら、コスタリカ相手に何もできなかった自分は何ができたんだろうという思いがある。(三笘)薫君や律みたいに高いレベルでやっている同世代の選手のプレーに刺激を受けたし、つねに自分自身をアップデートさせないといけない」と危機感を募らせていた。
そこからセルクル・ブルージュ、フェイエノールトで着実に力をつけたからこそ、この日の逆転弾を奪うに至った。
森保監督も「今日は攻撃にも守備にも絡んでくれた。自身の得点力を上げてくれながらも、チームが攻守一体となって全員で戦うところで守備にも貢献できるようになった。それは嬉しく思っています」と絶賛していた。
日本は看板1トップがなかなか育たない国だったが、今の上田は世界に通じるエースに飛躍したと言っていい。その進化の歩みを止めることなく、8か月後の大舞台でブレイクできるようにならなければいけない。
「もちろん勝利は自信になりますけど、本戦になったら緊張感も違う。僕らはあくまでW杯優勝を目指しているんで」と本人も淡々と話していたが、その領域に到達できるように、もっともっと日本代表、そしてフェイエノールトで凄みを増していってほしいものである。
(取材・文:元川悦子)
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