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Jリーグ 2か月前

「どう相手組織をカオスにしていくか」前寛之は古巣・福岡との対戦を糧に前へ進む。FC町田ゼルビアへは「これを味わうために来た」【コラム】

シリーズ:コラム text by 竹中愛美 photo by Getty Images

 FC町田ゼルビアは10月18日、明治安田J1リーグ第34節でアビスパ福岡と対戦し、0-0の引き分けに終わった。昨季まで5シーズンにわたり福岡に在籍していた前寛之は、古巣との対戦でも中盤の底から攻撃の芽を摘み取るなど、らしいプレーを見せた。だが、上位争いに食い込むためには勝利が必要な試合だっただけに、前は悔しさを滲ませた。(取材・文:竹中愛美)

FC町田ゼルビア前寛之が古巣との対戦に込めた思い

FC町田ゼルビア 前寛之

【写真:Getty Images】

 個人的な感情よりもチームの勝利に貢献することが最優先だった。

 FC町田ゼルビアは前節のサンフレッチェ広島戦で先制しながらも試合終了間際に逆転を許し、首位・鹿島アントラーズとの勝ち点差は10に広がった。なんとか優勝争いに踏みとどまらなくてはならない状況とあれば、なおのことだろう。

「特別な思いがあるチームには変わりないですけど、僕が今、町田ゼルビアにいて、今年どういう順位で終われるかっていうところだけにフォーカスしてたので、試合に入ればあんまり特別な感情はなく、勝つことだけを考えてやってました」

 その言葉通り、前はプレーでその気持ちを体現しているように見えた。

 ボランチを組む下田北斗と配置転換させながら、時にはひとつ後ろの最終ラインまで下がってボールを受けたり、時には前線へ顔を出し、攻撃に転じようとしたり、攻撃の糸口を探った。

 27分には相手のビルドアップのスキを見逃さず、ボール奪取を狙う。完全に奪い切ることはできなかったが、高い位置で相手に圧をかけたことには違いないだろう。

 38分には下田からパスを受けた前がワンタッチでペナルティエリア(PA)内に浮き球を入れる。走り込んできた林幸多郎には合わなかったが、閉塞感のあった攻撃のリズムを変えようという狙いは見えた。

 41分にはアビスパ福岡の見木友哉にPA手前で一度は振り切られるが、粘り強く足を出してシュートブロック。派手さはないかもしれないが、自らのすべきことを徹底して前は遂行していた。

 この日のゲームは両者が【3-4-2-1】のフォーメーションを取るミラーゲーム。どちらもロングボールを主体に前線をターゲットとし、セカンドボールを回収してから攻撃につなげていくといったきらいがあった。

 加えて、ハードワークも厭わない両者とあって、競り合いも激しくなる。前半は互いにシュートが2本ずつと、中々攻め手に欠き、0-0で折り返すこととなった。

守りに回った前半を受けて…「もう1回盛り返していこうよ」

 後半に向けて、チームとしてどう戦っていくのか。前は「もちろん先制点を取りたいので、果敢に前半から取りに行くこともそうですけど、ゼロで行きながらっていうところで言うと、守勢には入ってしまったなっていうのはあります」と前置きをしたうえでこう話した。

「ハーフタイムを迎えて、『もう1回盛り返していこうよ』、っていうところもありましたし、じゃあどう盛り返していくのかっていう整理もある程度した中で入って、押し込む展開も後半出てたと思います。ただ、その中でのクオリティはやっぱり必要かなっていうふうに同時に感じてます」

 確かに、前半よりは後半の方が、町田がボールを保持する時間帯は長かった。途中出場した相馬勇紀の左サイドを起点に福岡ゴールに迫るシーンは作ったが、決定的なチャンスを生み出すことはできなかった。

 前半早々に西村拓真が負傷退場し、ゲームプランの変更を余儀なくされただけでなく、町田の守備の要である菊池流帆や岡村大八の負傷離脱、さらには初参戦となっているAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)での過密日程と、黒田剛監督の頭は非常に悩ましいものがあったろう。

 いつもであれば後半の早い段階から前線の選手にテコ入れをしていたはずだが、オ・セフンとナ・サンホから藤尾翔太と桑山侃士に交代したのは78分だった。

 先制点が欲しい状況の中で攻撃のアクセントを加えられず、福岡の堅守をこじ開けるだけのクオリティは足りなかったということだろう。

 前は「結果は残念ですし、きのう上位陣の試合を見た中でのスタートだったので、勝ち点3がどういう形でもいいから取りたかったなっていうのが総括りな感想です」とスコアレスドローという結果に肩を落とした。

 前回対戦でも2-2の引き分けに終わっており、勝ち切れなかった。前は攻撃の部分で「ミラーになる相手に対してどう崩すかは、ここずっと今年1年やってきた課題のひとつでもあります」と話し、このように続けた。

「そこが今の町田なのかな」町田を後方から支える前寛之と中山雄太から出た同じ言葉

「どう相手組織をカオスにしていくかっていうところもそうですし、崩しのところもクオリティと打撃を与える回数を増やすことは、もう少しできることでチャンスになる回数はものすごい増えたかなとは思います。けど、こじ開けることができなかったので、もう少し振り返りながら、次に向けてトライしていきたいと思います」

 似たような戦い方をする相手に対してどう崩していくのか。前の口から度々出てきたクオリティという言葉は、センターバックを務めた中山雄太からも出ていた。

「(福岡からは)ビルドアップでプレッシャーもそんなに来なかったし、その後のクオリティがきょうはちょっと足りなかったなと思って。ファイナルサードに入るクオリティがちょっときょう足りなかったっていうか、ここ数試合あんまり足りてないんで、そこが今の町田なのかなと、結果に起因してるかなと思いますね」

 奇しくも町田を後方から支える中山と前の二人から出たクオリティの欠如という言葉。では、いったいどのようにして質を高めていくのか。前は自身に向けて言葉を発した。

「僕自身で言うとチームの安定とか、味方に(ボールを)つなげるっていうところもそうですけど、効果的な立ち位置を取りながら、相手の嫌なところに入っていく、嫌なところに(ボールを)出せるっていうチャレンジのプレーはもう少し増やせるかなと思っています」

 福岡との一戦で勝利を挙げられなかったことで、優勝争いは数字的に厳しくはなったが、まだ可能性が完全になくなったわけではない。リーグ戦は残り4試合。チームが抱える課題と向き合い、練習から、ゲームの中から、質を上げていかなければその先はない。

 チームは中3日でACLEリーグステージ第3節、上海海港との対戦が中国で控えている。30歳の節目を町田で迎えている背番号16にとって、移籍の決め手のひとつともなったACLE挑戦はモチベーションのひとつになっているようだ。

「これを味わうために来た」初挑戦のACLEと盟友の札幌MF深井一希の現役引退と

「終盤にきて、ACL入ってきて過密日程にもなりますし、きょうもこのあとで言うと羽田に泊まりに行って、あしたの朝すぐ移動っていう。また帰ってきてすぐレッズっていうタフな日程にはなりますけど、これを味わうために来たのもありますし、ACLで勝つために来たのもあるので、楽しみながら経験だと思って乗り越えていきたいなと思っています」

 そして、前が残りのシーズンを走り抜ける原動力となりうる出来事がもうひとつある。

 9月26日に現役引退を表明した北海道コンサドーレ札幌の深井一希の存在だ。深井とはコンサドーレ札幌U-12時代からトップチームまでともに切磋琢磨してきた旧知の仲。前が1学年下だが、その言葉には敬意が感じられた。

「一希のサッカー人生ほとんど結構一緒に、僕が小4から、中学・高校でやって、怪我の回数も知っていましたし、今どういう状況なのかっていうのもチームメイトや一希から通じて聞いてたので、長くはないっていうのも知りながらも、いざああいう発表を聞くと悲しくなります。

 ただ、あそこまで怪我に強いというか、怪我から復帰してきた一希がもう限界っていうふうに口にした言葉が僕にとってもやっぱり辛い言葉だったなっていうのがありますけど、ラインしたときに『まだまだ頑張れよ』っていうふうに言ってくれたんで、僕は頑張りたいと思います」

 前の町田加入1年目のシーズンがこの先どのような成長曲線を描き、締め括られていくのか、非常に楽しみである。

「今シーズンはもう残り数試合、ただ単に上に行くために結果を求めてやっていきたいと思いますし、僕自身もまだ続いてくので、しっかりと成長できるように、チームの結果と一緒に良い方向に行けるようにやっていきたいと思ってます」

(取材・文:竹中愛美)

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【了】

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