明治安田J2リーグ第33節、ジェフユナイテッド千葉は首位・水戸ホーリーホックとの上位対決で劇的勝利を収め、3位に浮上した。スコアレスで迎えた終盤、途中出場した杉山直宏は値千金の決勝ゴールを叩き込み、サポーターを熱狂させた。今季、思うように出場機会を得られない中で培った努力と執念は、チームの勢いをさらに加速させる。(取材・文:石田達也)
激しい攻防が繰り広げられた上位対決

【写真:Getty Images】
試合終了間際の90+6分、誰もが想像すらできないドラマが待っていた。
前節終了時点で首位に立つ水戸ホーリーホックと同3位のジェフユナイテッド千葉による上位対決。その差は6ポイント。
挑戦者の千葉にとって優勝争いに生き残れるか、すべり落ちるのか、リーグ終盤の行方を左右する大事な一戦で、千葉が白星を掴んだ。
試合は、両チームとも好守の切り替えが早く、小林慶行監督が言う「サッカーの本質的なバトル」という言葉通り、インテンシティーの高い主導権争いが繰り広げられた。
水戸は9分に齋藤俊輔がカットインして鋭いシュートを放てば、千葉は15分にフリーキックのチャンスから河野貴志が頭で合わせるなど、積極的にゴールを狙う姿勢を示していく。
20分過ぎあたりから水戸がセカンドボールを拾うことで、主導権を握られる時間が増えるも「中を締めて人数もかけて守れていたし、中盤で奪われても問題なかった」(河野)と、守備陣はコミュニケーションを取りながら冷静に対応する。
スコアレスのまま後半へと折り返しても、強度対強度の激しい攻防が続いた。
「ワンチャンスありそうだと…」
千葉が前からプレスに出ていけば、GK西川幸之介は長いボールで回避する。
だが、千葉のセンターバックコンビの鈴木大輔と河野がファーストバトルに競り勝ち、セカンドボールを中盤が回収していくことでリズムを生み出す。後に、これが勝機を手繰り寄せることになった。
攻撃した後の守備、そして奪ってからの二次攻撃も見せると、55分にはカルリーニョス・ジュニオがシュートを放つも惜しくもオフサイド。
72分にはビルドアップのミスを突くと田口泰士のクロスを石川大地が頭で合わせたが、西川の正面を突いた。
1点を求め、両チームが攻撃的なカードを切るなか、75分にはMF杉山直宏がピッチに送り出される。
「ワンチャンスありそうだと思っていました。サイドで抜けそうな雰囲気もあり、(相手のプレスは)時間を与えてくれそうだったので、前を向いて自分たちの時間を作ること、起点になることをしようと思っていました」
79分には杉山の良い守備からボールを奪取するとヒールで髙橋壱晟に流す。鋭いグラウンダーのクロスは決定機となり、ゴールへの予感を覚えさせたが、膠着状態のまま終盤を迎える。
引き分けが頭の片隅によぎり始めた後半アディショナルタイム、千葉が水戸に襲い掛かる。
90+6分、コーナーキックのチャンスで西川がパンチングでボールを弾くと、こぼれ球に反応した杉山がマーカーをフェイントで剥がし利き足とは反対の右足で叩きサイドネットに突き刺さす。
それと同時に試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
味方も敵も、スタジアムに駆け付けたサポーターまでもが目を丸くするほどのファインシュートだった。
「コースを狙うというより…」
「左足で打つことも考えましたがバウンドを見て、相手もスピードに乗って来ていたのでキックフェイントをして、あとはコースを狙うというより、枠に飛ばすイメージで打ちました」
杉山は両手を広げてガッツポーズを取ると、ピッチ脇には歓喜の輪が広がり、集まってきたチームメイト、コーチ、スタッフから手荒い祝福を受けた。
「(チームメイトに)首を絞められて苦しかったです(笑)。ただ、あれだけ祝ってもらえることはなかったので嬉しかったです」とコメント。そして「(千葉に加入し)点を取って勝った試合が初めてだったので」と一番の笑顔を見せた。
ただ、自身のゴールが勝利を呼び込んだことに間違いはないが、この試合の勝因について、「球際の部分で勝てればチャンスになると監督は言っていたので、そこをみんなが勝ったからチャンスにもなりましたし、勝ちにもつなげられたと思います」と、やるべきことをやり続けたチームの勝利だと強調した。
田口は「本当にすごい、勝手に涙が出ました。千葉に関わる全ての人の力で取ったゴールだと思います。ナオ(杉山)のゴールじゃないっす、ナオの技術じゃないっす(笑)」とユーモラスを交えて語ると、
ラストプレーでの一発を狙っていた河野は「俺のところにボールが来たら決めようと。でもナオのところにいった時に絶対に切り返すと思いました。右足かと思ったらやってくれたので、ありがたいとしか言えない」と賛辞を送った。
「出られない時間に彼がどれだけ…」
ここまで杉山は21試合に出場(741分)し1得点を記録。5月3日の第13節サガン鳥栖戦(1-1)以来のゴールでもあった。9月20日の第30節愛媛FC戦(1-0)では杉山のシュートのこぼれを呉屋大翔が押し込むなど、中々スタメンでのチャンスが巡ってこない中でも存在感を示している。
小林監督は「出られない時間に彼がどれだけの努力をしていたか。それがないと、こうやって使われた時に結果を出すことは不可能だと思っています。粘り強く自分のストロングポイントを出す努力を続けてくれている」と、杉山の不断の努力に目を細め語った。
活躍の場を求め、千葉に加入して2年目。このクラブとサポーターは特別な存在だ。
「アウェイでも、ホームのような空気感を作ってくれますし、その人たちの思いを乗せてプレーしないといけないと思っていたので、結果で示せたことが良かったと思います」と、後押しをしてくれるサポーターに感謝を示す。
そして「点を取れたことで自分自身も勢いに乗れると思いますし、勝てたことでチームも勢いに乗れると思うので、この勢いのまま優勝をして昇格したいです」と意気込んだ。
奇跡を信じるサポーターの後押しを受け、チームは一歩一歩、力強く前進していく。
残り5試合、チームの勢いを点火させる杉山の活躍に注目したい。
(取材・文:石田達也)
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