横浜F・マリノスは18日、明治安田J1リーグ第34節で浦和レッズとホームで対戦し、4-0で大勝した。在籍7年目を迎えた渡辺皓太は、マリノスでプレーする責任の重さを感じながらも、長くプレーできる幸せを感じている。愛するチームを残留させるため、27歳になった渡辺は力強くチームを牽引していく。(取材・文:藤井雅彦)
黒子役に徹する渡辺皓太
通常より1270円お得に観るならDMM×DAZNホーダイ[PR]
20歳で横浜F・マリノスに加入した選手は、浦和レッズ戦当日に27歳の誕生日を迎えた。確かな技術と得点関与に定評のあるMFは、いつしか黒子役に徹する縁の下の力持ちに姿形を変えていた。
ロングボール中心にゲームを組み立てる戦い方が定着しつつあるチーム状況で、ボランチに求められる役割が大きく変わった。喜田拓也とともに中盤の底を担う渡辺皓太はこう語る。
「これまではGKやDFのサポートを第一に考えていたけど、今はFWやウイングに入るボールがこぼれたところのサポートを優先的にやっている。今年に関しては、そこを徹底してやっていくしかない。今までやってきたこととは真逆に近いと思うけど、今はこのサッカーが必要。一番リスクを低くしてゴールに向かうのであれば、こういうやり方もひとつの方法だから」
背に腹は代えられない。「みんなの迷いが消えて、頭の中がシンプルに整理された」
これまでの最後方からショートパスをつなぐスタイルにおいて、背番号6は重要なタスクを担ってきた。GKや最終ラインを起点とする球出しを助け、前線への架け橋となる。ボールロストしてしまえば、たちまち大ピンチを迎える。ミスが許されないポジションと役割の中で、技術や集中力を研いできた。
最近のチームはリスクを回避するために相手陣内でのサッカーを優先している。そのためロングボールが増え、ボランチはセカンドボールの回収が主な役割に。ボールに触れる回数は明らかに減り、相手ゴール前に飛び出していくシーンは珍しくなった。
すべてはチームのJ1残留を優先するための決断である。その末に手にした4-0の快勝。点を取るべき人が取り、守っては失点ゼロ。攻守両面で理想的な展開に、渡辺は力強く頷いた。
「この中断期間でみんなの迷いが消えて、頭の中がシンプルに整理された。割り切ってプレーした結果だったと思うし、全員がチームから提示されたものをやり切った結果。全員が意思疎通できれば、こういった結果になると思う。
それがどういう形であれ、みんなで同じ方向を向くことが大事だなと感じた。みんなが同じ方向を向けているから続けるべきだと思う。今の状況は自分たちの責任なので、結果が出ていない以上は変えないといけないこともある。自分たちがレベルアップするしかない」
背に腹は代えられないがゆえの戦術変更を採用し、浦和戦でこれ以上ない成功体験を手にした。とはいえ順位は17位のまま。18位との勝点差はわずか2しかない。一瞬の油断も許されない戦いは続き、残り4試合もこの戦い方がベースになるのは間違いない。
「幸せなこと。こんなに長く在籍できるとは正直、思っていなかった」
ひと昔前の彼は、この現実を受け入れることができただろうか。酸いも甘いも経験してきた27歳だからこそ可能なマインドセットに見える。
2019年夏に加入してからの6年と少しの年月は、立ち位置を大きく変えた。加入年と2022年にリーグ優勝を手にするなど栄冠を掴んだ一方で、多くの主力選手や先輩選手がさまざまな理由でチームを去った時期でもある。連続在籍年数としては喜田と松原健に次ぐ3番目に長い選手となった。
回想しながら、少し遠くを見つめて言った。
「選手の入れ替わりが激しい時期を過ごしたと思うけど、その中でこれだけ長くこのクラブでプレーできているのは幸せなこと。こんなに長く在籍できるとは正直、思っていなかった」
横浜F・マリノスで感じる苦しさ
加入から2~3年は定位置を確保できず、プレースタイルも確立できなかった。移籍という手段を使って環境を変えることも脳裏をよぎった。それを行使しなかったのは「このままでは終われない。自分はまだ何もやっていない」という反骨心だった。
年齢とキャリアを重ねて、気づけば中心選手のひとりとしてチームを引っ張っていく立場に。周囲に奮起を促し、全体の底上げを図ることも求められるようになった。理想が高く、自己採点が厳しめな27歳は、今の自分に満足していない。
「加入した時とは間違いなく立ち位置が変わっている。長くいるからにはほかの選手を引っ張っていかないといけない。自分自身としても今年のパフォーマンスには納得していないので、もうひと皮剥けたい」
順風満帆にいかない時間を過ごしてきた。ただ、それは貴重な糧となり、血肉にもなっている。そんな中で、自身初めての経験となる残留争いをどのように受け止めているのか。
「ここまで苦しい時期の方が長かったかもしれない。良い時も悪い時もこのクラブだから成長できたと思っている。でも、今年はこれまでで一番苦しいかもしれない。
チームを引っ張らなければいけない存在だとわかっているけど、なかなか結果を出せていないのが心苦しい。残留できたとしても満足することはないけど、とにかく残留しなければそれも言えない。責任を持って残りの試合を戦っていく」
身も心もすっかりトリコロールに染まった。あとはプレーで表現するだけ。あどけなさの残る20歳の渡辺皓太は、もういない。引き締まった表情が、覚悟の大きさを物語っていた。
(取材・文:藤井雅彦)
【関連記事】
関富貫太は横浜F・マリノスで「1歩1歩やっていくだけ」。古巣・柏レイソルとの対戦で新たに芽生えた思い「また来年…」【コラム】
横浜F・マリノスの喜田拓也が呼び込んだ「『まさか』」。サポーターに向けた行動を「あまり覚えていない」わけ【コラム】
「今日は僕のせいで…」横浜F・マリノス、角田涼太朗はじっとゴール裏を見つめた。その時に込めたメッセージ【コラム】
【了】
