V・ファーレン長崎は10月18日、明治安田J2リーグ第33節・ヴァンフォーレ甲府戦に4-0で勝利した。昨季まで甲府に所属し、キャプテンも務めた関口正大は79分からピッチに立ち、クリーンシートに貢献。関口は長崎で過ごす今季について、充実感を示している。(取材・文:椎葉洋平)
V・ファーレン長崎の関口正大が古巣戦に込めた思い
【写真:Getty Images】
甲府戦の4日前、関口は古巣戦に向けてこう語っていた。
「今自分ができることを100%でやるのと、古巣というところはやっぱり負けたくない」
甲府はただ所属したというだけではなく、プロとして第一歩を踏み、特別指定も含めれば5年近くを過ごした思い入れも強いクラブだ。「今でも、たまにですけど試合を見ている」だけに、自身が所属していた頃と現在の甲府の違いについて問われると、即座に言葉が出てきた。
「1番違うところは、セットプレーで怖さが出たな、と。ロングスローとセットプレーの質と、そこにかけてくる思いというのは僕がいた時とちょっと違う」
その甲府の特徴に対し、今節の長崎は極力自陣でのプレー機会を減らすように戦った。試合序盤からボールを保持し、敵陣でボールを失っても素早い切り替えで奪い返す。自ゴール近くでセットプレーを与えないことで、甲府のストロングを1つ発揮させなかった。
一方で関口は自身が所属していた頃から変わらない強みとして、粘り強さを挙げていた。
「いわき(FC)との試合(第31節)で0-2からひっくり返したと思うんですけど、泥臭くどれだけ点差が開こうと最後まで食らいついてくる」。自身が所属していた時期からあったそれは、映像を通して見た今季も健在だと感じていた。
この点について長崎は序盤から攻勢を強め、狙い通りに早い時間帯に先制、前半のうちに追加点を挙げることに成功した。
ハーフタイムにも「とにかく攻めるというシーンを残りの後半45分でも続けて、追加点も含めてその姿勢を崩さないで欲しい」と高木琢也監督は選手たちに伝えている。これに選手たちは応え、選手交代を含め攻撃のギアを上げた甲府をも上回る攻撃的な姿勢で、さらに2点の追加点を奪って快勝に繋げた。
「下さん(下平隆宏前監督)の時から積み上がってきたもの」「自分もそこを狙いました」
甲府の特徴を出させず勝ち切るために、長崎はこの試合で「攻撃は最大の防御」という言葉が当てはまるような攻撃的なサッカーを貫いた。
今季リーグ最多得点という数字ばかりが目立つものの、高木体制となった第20節以降の失点数ではリーグ最少。堅守のチームというものが現在の長崎の姿になりつつあったが、今節の4得点でイメージを塗り替えている。
関口いわく、攻撃を貫く姿勢は決して短期間で作られたものではない。
「下さん(下平隆宏前監督)の時から積み上がってきたもので、どんな状態であっても攻撃し続けるというところはシーズン当初からありました。今まで積み上がってきたものが、ここに来て形になっている」
3-0となり試合の行方がある程度見えつつあった79分、関口は翁長聖との交代で右WBの位置に入った。
「勝っていましたし、バランスを取りながらというところは監督からも言われて入りました」とまずは攻守のバランスを意識。前節・ジェフユナイテッド千葉戦から甲府戦までの2週間で「1対1の守備の局面で負けないところ。サイドの守備のところは、自分なりに課題を持って取り組みました」と語っていたとおり、守備の堅実さは十分に発揮したといえる。
ただ、守備だけでなく「チームに競争がある中で、結果を残した選手が試合に出て当然だと思いますし、そういうチームだと思う。自分もそこを狙いました」と攻撃面で結果を残そうと、虎視眈々と狙ってもいた。
「今の時点で後悔している部分はありません」。関口正大は状況が変わってもブレずに全力でやり切る
ピッチに立った直後に縦にスプリントしてボールを呼び込もうとしたのを皮切りに、何度もスペースを突こうと模索。80分にはマテウス・ジェズスがファウルを受けると、背後を狙って早いリスタートを促す。
これはオフサイドとなったが、この意欲が90分のチャンスを呼び込む。山﨑凌吾のパスがジェズスに通ると、関口は猛然とスプリント。そこにスルーパスが送られ、一気に抜け出す。
「そのまま右足で持って行ってシュートのイメージ」だったものの、対面の熊倉弘達が懸命に戻り、惜しくもシュートまでは至らなかった。
試合後には「相手の入るコースを開けてしまった。今思えば、先に相手の入るコースに入って、キーパーと1対1の状況を作れればよかったかなと思っています」と反省も口にしたが、これまでよりも高い攻撃意識をみせたからこそ具体的に見えた課題だといえる。
今季の関口はスタメン出場が続いた序盤戦、出場時間が減少しピッチに立てない試合も少なくなかった中盤戦以降と、はっきりとグラデーションが分かれている。それでも直近5試合は全試合に出場し、久しぶりのスタメン出場も経験した。
「今の時点で後悔している部分はありませんし、本当に充実したシーズンを過ごしている。今まで積み上げてきたものを最後までやり切るところというのと、このチームのために貢献するというところは結果の部分でもあると思うんで、しっかりアシストとかゴールというのを残り5試合で残したいと思います」
状況が変わってもブレず全力でやり切ることが成長につながると、甲府時代も含めて分かっている。熾烈な競争のある環境に身を置き、その中でベストを尽くせているから充実感があるのだろう。
「チームの目標は始まった時から変わっていませんし、個人としてもこのチームのためにできることは全てやろうとスタートしたシーズン。それを最後までやり続けるのと、日々課題が見つかっているので、それにしっかり向き合ってチームのためにやっていきたいなと思っています」
関口は残り5試合も変わらず、前を向いてチームのために戦い続ける。
(取材・文:椎葉洋平)
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