北海道コンサドーレ札幌は11月2日、明治安田J2リーグ第35節でジェフユナイテッド千葉と対戦し、5-2で敗れた。これでプレーオフ出場圏内の6位との勝ち点差は12に広がり、札幌が目標に掲げた1年でのJ1昇格の可能性は潰えた。J1昇格へ何が足りなかったのか。奇しくも指揮官や選手たちからは同じような声が聞こえてきた。(取材・文:竹中愛美)
プレーオフ進出の可能性が消滅…北海道コンサドーレ札幌の主将・高嶺朋樹は何を思う
【写真:Getty Images】
時間は決して巻き戻らない。あの開幕4連敗がなければ、あのシュートが決まっていれば、あの失点を防ぐことができていれば…。
すべてたらればだが、そうした蓄積が積もり積もって、果たしたかったJ1昇格という目標に届かなかったのだろう。
3位のジェフユナイテッド千葉のホームに乗り込んだ11月2日のJ2リーグ第35節もしかり。北海道コンサドーレ札幌にとって、引き分け以下でプレーオフ出場圏の6位以内が消滅する試合だった。
負けが許されない崖っぷちの札幌だったが、開始早々の7分に一瞬の隙を突かれて、カルリーニョス・ジュニオにヘディングシュートを決められ先制を許してしまう。
それでも21分、右サイドの近藤友喜からの折り返しを荒野拓馬がスルーすると、スパチョークが右足で合わせ、同点に追いつく。
前半を1-1で折り返したが、後半の50分、55分に立て続けに得点を許し、大量4失点。前線からの積極的なプレスと最終ラインの背後を突く攻撃で千葉ゴールに迫ったが、千葉の勢いを跳ね返すことはできず、完敗を喫してしまった。
「シーズン通しての結果なんで、きょう負けたどうだありますけど、シーズン通して弱かったなっていう印象です」
キャプテンの高嶺朋樹は千葉に敗れ、プレーオフ進出の可能性が消えたことに対して、憮然とした表情でこのように答えた。
今季、ベルギー1部のKVコルトレイクから札幌へ3シーズンぶりに復帰した高嶺。札幌U-12からU-18までの9年間をアカデミーで過ごしたクラブを救いたい、その一心でチームを引っ張ってきた。
試合後は立ち尽くしたまま、しばらく動けなかった。どんな感情が1番に込み上げていたのだろうか。
「相手の方が試合にかける思いとかが強いなって」
「同じことを繰り返してるなっていうか、悪いときから良いときになって、そこからまたすぐ悪くなって、失点してから連続で失点してしまったり、相手の方が出足が早かったりっていうのは、相手の方が試合にかける思いとかが強いなっていうのは感じた。
普通は2対1、3対1の展開だと追いかける側が押し込む展開が続くと思うけど、今回に関してはジェフに何度も裏をやられて5点も決められたので、本当に自分たちが弱いっていうのを再認識させられる試合だったなと思います」
高嶺は弱さを再認識させられた試合と言い切ったが、なぜシーズン最終盤で同じようなことを繰り返してしまったのだろうか。
札幌は今季、7シーズンにわたったミハイロ・ペトロヴィッチ監督体制に終わりを告げ、新たに岩政大樹監督で再スタートを切った。
しかし、25節を終えて11位に低迷するなど成績不振を理由に8月11日、契約解除となる。札幌U-18の指揮を執っていた柴田慎吾監督が後任を務めることになった。
1年でのJ1復帰という目標に対して、前任の岩政監督は当初、ミシャ(ペトロヴィッチ監督の愛称)サッカーからの「継承と前進」を掲げたが、攻撃的サッカーを中々表現するには至らなかった。
一方の柴田監督は選手が流動的にボールを受け、相手の空いたスペースを突き、アグレッシブに攻撃する「スペースアタッキング」を目指している。
クラブが理想とする魅せるサッカーで勝つというシンプルでありながらとても難しいテーマをなんとか果たそうとやってきたのだと思うが、混戦のJ2でそれを貫くのは成績が示しているように厳しいものがあるように感じる。
シーズン途中での就任という難しい状況の中、戦術を落とし込める時間もそう多くはなかっただろう。
だが、こうしたクラブの転換点ともいえる出来事以上にもっと基本的なことが足りていなかったのではないか。試合後、チームに伝えたという柴田監督の言葉からそう思わざるを得なかった。
奇しくも指揮官や選手たちから聞こえてきた同じような言葉「そういうのを高めてやってかないと」
「日常のところを我々はもう1個、もう2個基準だとか、意識だとか、そういうのを高めてやってかないと、こういうゲームでピッチ上で出ることを最後、高嶺キャプテンもみんなの前で伝えてくれましたし、まさしくその通りだなって」
日頃の行いのおかげとはよく言ったものだが、意識の問題が選手1人1人にあったのだろうか。試合後に行われたというミーティングで高嶺はこんな言葉をチームメイトに掛けたという。
「試合を通して相手の方が出足早かったし、追い越すスピードだったり、相手の方が勝ちたい気持ちが強かった。もっともっとサッカーに対して真摯に取り組んでいかないと、人生かけてやっていかないと、またJ2で何年も過ごして、自分たちのキャリアをもったいなくすることになってしまう。
練習からやるために練習前の準備だったり、私生活をもっともっと選手1人1人がサッカーのために生活することで、練習の質も高まる」
さらに、今季限りでの現役引退を発表し、4月25日のRB大宮アルディージャ戦以来の出場を果たした深井一希は「きょうここに来れて、関東のたくさんの札幌サポーターの前でプレーできたのが唯一良かったかなと思います」と話し、こう続けた。
「もっともっとチームとしてやんなきゃいけないですし、この負けを繰り返してるとどんどんどんどん厳しいクラブになっていくので、なんとかチーム全体としていろいろ見つめ直さなきゃいけないと思っています」
小学4年生からクラブ一筋22年。5度にわたる両膝の大怪我に悩まされるキャリアを送ってきたが、中盤の底でゲームを作り、札幌を支えてきた。長くクラブにいる深井だからこそわかる、札幌に足りないものとは何なのか。
「このまま行くとズルズルズルズル、J2もしくはその下もありえる」
「1人1人の意識が低いとは言わないですけど、もっともっと1人1人が上を目指さなきゃいけないです。特に若い選手はこのまま行くとズルズルズルズル、J2もしくはその下もありえるので、もっともっといろんな責任を持って取り組まなきゃいけない。
自分に対して厳しくしながら上を目指すところをしっかりやっていかないと本当にかなり危険だと思います。そういったところは(高嶺)朋樹中心にやってくれてますけど、そこに自分としても中々加われなかったんだなっていう、すごい責任を感じてますね」
この試合で同点弾を挙げた札幌在籍4年目、タイ代表のスパチョークも語気を強めた。
「何が原因なのか僕だけじゃなくて、チーム全体が意識を高く持ってもっとやらなきゃいけないと思うし、今後、練習の中でも試合の中でも日々の中で自分たちのレベルを上げて、J2を早く脱却できるような姿勢を見せなきゃいけないと思います」
試合後のミーティングで意識の改善に触れた高嶺の中でも課題は浮かび上がっている。
「(シーズン通して)波があるところと、昨年までJ1だったっていうちょっとしたおごりみたいなのがやっぱあったんじゃないかなと思いますね。相手の方が走ってたし、自分たちの方が上手いのかもしれないですけど、基本的なところで負けていたなっていう、シーズン通してそういう印象です」
指揮官や選手たちの言葉の数々から課題は浮き彫りになった。取材に応じた指揮官やほとんどの選手が口を揃えているのに、チームとして体現できていないという現実を真摯に見つめ直さなくてはいけないだろう。
それは試合後にサポーターから掛けられた言葉をもって、さらに強くしたのではないだろうか。
「1人が頑張ったところで…」札幌の今後に向けて、高嶺朋樹は言葉を選びながらも発した
「サポーターにとって自分たち選手しかないし、コンサドーレが全てだって話をしてもらった。普通はブーイングの試合だったと思うし、かなり点差をつけられるショッキングな敗戦だったし、サポーターには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいですね。
だから、その思いに必ず(残り)3試合では応えなきゃいけないなと思うし、来年そういう希望を持ってもらえるような試合をやらなきゃいけないなと思います」
高嶺は言葉を選びながらもこの敗戦を今後に向けて繋げていくと話してくれた。
「結局、1人1人が変わらないことにはチームとしては変わっていかないし、1人が頑張ったところで、その1人の力は大きくないので、1人1人がサッカーに対する思いを強く持って私生活からやっていくことが大事だと思う。
いろいろ選手1人1人の目標だったりとか、日本代表になりたいとか、そういうのから逆算して日々過ごしていくようにというのはチームとして話していきたいなと思います」
1年でのJ1復帰という目標は、シーズン3試合を残した状態で達成できなくなってしまったが、この事実をしっかりと受け入れ、少しずつでも前に歩み出していく姿こそがこの先のクラブの未来を決めるのではないだろうか。
(取材・文:竹中愛美)
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