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J2 1か月前

「北海道コンサドーレ札幌を背負える」川原颯斗の魅力を担当スカウトが語る。来季加入内定「自分がチームを変えてやる」【コラム】

シリーズ:コラム text by 黒川広人 photo by 黒川広人

 北海道コンサドーレ札幌は10月10日、国士舘大学4年・川原颯斗の2026シーズンからの加入を発表した。関東大学サッカーリーグで優勝の可能性を残す国士舘大で川原は“チームの頭脳”としてフル稼働。担当スカウトも「コンサドーレを背負える存在になれる」と語り、自身も“札幌のバンディエラ”宮澤裕樹を目標に掲げる。決して派手さはないが、いぶし銀の輝きを放つその魅力を紐解いていきたい。(取材・文:黒川広人)

「振り返ると遠回りもした」北海道コンサドーレ札幌下部組織出身、川原颯斗の順風満帆ではない大学での日々

北海道コンサドーレ札幌への2026シーズン加入内定 川原颯斗

【写真:黒川広人】

 2025年7月7日。恩師の告別式に出席した川原颯斗は、遺影に手を合わせながら、静かに語りかけた。

「これからも、どうか見守っていてください」

 川原のプロ入りを語る上で、北海道コンサドーレ札幌U-18時代の3年間を指導した森下仁之氏の存在は欠かせない。

「モリさん(森下仁之)は僕にとっての恩師です。大人のサッカーを学ばせていただきました。大学選択の際も『国士舘なら颯斗の弱点を鍛えられる。テクニカル系の選手が少ない環境だからこそ、違いを出せてより輝けると思うよ』と国士舘へ繋いでくださり、送り出してくれました」

 高校卒業時に課題としていた、フィジカル面を鍛えるには、ハードワークが特徴の国士舘大が最適。そう考えた森下氏は、自身の母校でもある同大学への進学を勧めた。そして、川原自身も大学を経由して、プロ入りする道を見据えた上での進学だった。

 だが、恩師に導かれた大学での日々は、決して順風満帆ではなかった。大学2年時にはオーバートレーニング症候群を発症。「やる気が出ない日もありましたし、気分が悪くなって脈が早くなったり……苦しかったです」と語るように、約半年間の休部を余儀なくされた。

 それでも、大学4年となった2025年、川原は関東大学サッカーリーグ1部で左CBとしてスタメン出場を重ね、その評価を大きく高めている。

「振り返ると、遠回りもしたと思います。理不尽に感じることもありました(笑)。でも、弱点だったフィジカルとハードワークの部分を強化できた今、“強くなれた”と実感しています」

 そんな川原の成長を見逃さなかったのが、古巣の札幌だった。担当スカウトはこう語る。

「現代のサッカー選手に必要な要素を備えた選手だと確信しています」

北海道コンサドーレ札幌への2026シーズン加入内定 川原颯斗

【写真:黒川広人】

「大学のコーチとも話していたんですが、川原は“噛めば噛むほど味が出てくる選手”なんです。実は僕が最初に見た時は「プロで戦うには難しいかな」という印象もありました。

 でも彼がなぜ、トップレベルの舞台で出続けているのか、気になって何回も何回も足を運びました。すると見れば見るほど彼の魅力が分かってきました。なるほどなって。近くで一緒にプレーしないと真価が伝わらない、そんなタイプの選手だと思います」

 大学での成長ぶりを高く評価した札幌に誘われる形で、川原は7月の上旬に約2週間、札幌の練習に帯同。プロのステージでも戦える力を十分に示した。

「参加2日目はなかなかうまくいかず、『これがプロか』とも思いました。でも次からは、準備を早めて臨んだら、スピードにもフィットして、ボールロストも減り、手応えがありましたね」

 大学で強化されたフィジカル面に加え、冷静沈着な振る舞いと高い技術は現場でも高く評価され、獲得に向けたオファーを出す方針ですぐに定まった。スカウトも川原の大学での成長に舌を巻く。

「この1年で全体的な能力が上がっています。読みの良さ、判断スピード…全ての能力が上がっているから、1対1でも2つ3つの対応を一瞬で判断できるようになっている。

 ピッチ外での行動や人との接し方も含め、非常に真面目。そこがプレーに表れています。生活のリズムが整っており、サッカーへの取り組みも安定している。現代のサッカー選手に必要な要素を備えた選手だと確信しています」

 だが、1度目の帯同を終えて間もなくの8月、川原は再び約2週間、札幌の練習に帯同することになった。その意図について、スカウトはこう語る。

担当スカウトから太鼓判をもらう川原颯斗の今の率直な気持ちとは

北海道コンサドーレ札幌への2026シーズン加入内定 川原颯斗

【写真:黒川広人】

「1回目の練習参加で、日に日に彼の良さが出てきて、“やれる”というのは共通理解になりました。2回目はオファーを確実に出す前提で、札幌のリズムをより理解してもらいたくて呼びました。先々の札幌での戦いを見据えての帯同です」

 スカウトは川原の“マルチ性”についても太鼓判を押す。

「本職はボランチとして見ていますが、最終ラインでも、前めの中盤でも、すべてのポジションで、ハイクオリティのプレーができます。周囲の状況判断や止める・蹴るの技術、全てがワンランク上でプレーできる。練習帯同中に一度、中盤のサイドでプレーする機会もありましたが、そこでも質の高いプレーをしていて、サッカーIQが非常に高いことを再確認できました。

 今後、札幌を背負えるような存在になると本気で思っています。本音を言えば、川原みたいな選手があと3人ほしい(笑)世界的選手で言えば、ブスケッツのような存在になってほしいですし、間違いなく即戦力な選手になると僕は思っています」

 札幌内定が決まった川原に今の率直な気持ちを聞いた。

「1年前は正直、想像もできませんでした。努力が実ったというか。一番行きたかった、北海道コンサドーレ札幌に行けて、嬉しい気持ちでいっぱいです。でもようやくスタートラインに立てたばかり。ここからが勝負です」

 川原が札幌U-18に所属していた4年前に比べ、クラブは難しいフェーズにある。だからこそ、川原は苦しむ古巣の力になると誓う。

「1年目から“欠かせない存在”になりたいですね」。川原颯斗は大学ラストイヤーでの活躍を手土産に来季へと向かう

北海道コンサドーレ札幌への2026シーズン加入内定 川原颯斗

【写真:黒川広人】

「ポジションはボランチが基本になると思いますが、3バックであれ4バックであれどこでも対応できるイメージでいますし、1列前のシャドーを任せられる可能性もあると思っています。自分がチームを変えてやるという気持ちで、来シーズンから戦っていきます。

 1年目から“欠かせない存在”になりたいですね。チーム状態が良かった頃は、宮澤さんがいたらボールも回るし、守備も安定していた。そんな“チームに欠かせない1ピース”になりたい。今なら(高嶺)朋樹くんのような存在ですよね」

 とは言え、目前には大学ラストイヤーの戦いが控える。残り2節となった関東大学リーグで、国士舘大は逆転優勝の可能性も残す状況だ。

「このヒリヒリ感、ワクワク感がたまらなく楽しいです。プロになって活躍することももちろん大事ですけど、まずは国士舘で関東リーグ優勝を掴みたい。インカレも優勝したいですけど、まず関東リーグ優勝。そこに向けて全力を注ぎます」

 決して、大言壮語する選手ではないが、その言葉には確かな自信が宿る。目指す未来も明確だ。

「(西野)奨太がそんな存在になりつつありますけど、まずは北海道を代表するサッカー選手になりたいと思います。ゆくゆくは大学のOBでもあるヘンリー(望月ヘンリー海輝)や綱島(悠斗)君も日本代表に入っているように、日本を代表するサッカー選手になりたい。プロで1年目からやっていく自信は正直、あります」

 大学でのタイトル獲得を手土産に、2026年、いよいよプロの舞台へと歩み出す算段だ。

 札幌アカデミー育ちの職人肌は、大学での苦悩と成長を糧に、赤黒の新たな象徴を目指す。その存在がチームの屋台骨となり、再浮上へ、大きな鍵を握るピースとなるはずだ。

(取材・文:黒川広人)

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【了】

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