FC町田ゼルビアは16日の天皇杯JFA第105回全日本サッカー選手権大会・準決勝でFC東京を延長戦の末2−0で撃破した。その大舞台で強烈な存在感を示したのが、日本代表でも注目を集める望月ヘンリー海輝だ。持ち味の高さと強さに、成長著しいメンタリティが加わった充実の120分。クラブ史上初のタイトル、そしてその先に見据えるワールドカップへ、望月は着実に歩みを進めている。(取材・文:元川悦子)[1/2ページ]
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クラブ史上初のタイトル獲得に向け準決勝に臨んだFC町田ゼルビア

【写真:Noriko NAGANO】
JリーグYBCルヴァンカップをサンフレッチェ広島が制し、J1も鹿島アントラーズと柏レイソルの2強に絞られた2025年シーズン。もう1つの国内タイトル・天皇杯 JFA 第105回全日本サッカー選手権大会も佳境に突入。11月16日に準決勝2試合が行われた。
東京・国立競技場で激突したのは、FC町田ゼルビアとFC東京。2011年に一度、頂点に立っているFC東京に対し、2024年にJ1初参戦した町田は国内3大タイトルを手にしたことがない。
黒田剛監督は「今季はタイトルを取る」という大きな目標を掲げてここまで戦ってきたが、残されたチャンスは天皇杯だけ。キャプテン・昌子源、今年の日本代表活動に呼ばれている相馬勇紀らも「絶対に優勝する」という強い思いでピッチに立ったに違いない。
7月の東アジアE-1サッカー選手権2025決勝大会・韓国で念願の代表デビューを飾り、9・10月の活動も継続して呼ばれた望月ヘンリー海輝も、プロキャリア初のタイトル獲得に燃えていた。
今回の天皇杯準決勝は11月の代表ウィークと日程が被り、森保一監督の配慮もあって相馬やFC東京の長友佑都らが選外になった。望月ももちろんその1人で、複雑な心境もあったはずだ。
「そこは割り切って…」
「自分はその場所で全力でやることが価値の証明にもつながりますし、チームの貢献にもつながる。そこは割り切って、思い切って入りました」と192センチの長身DFは強調。今季メインだった右ウイングバック(WB)ではなく、3バックの右に陣取った。
開始早々にFC東京の左MFマルコス・ギリェルメの突破を激しい寄せで阻止した望月は、規格外の高さと強さを活かして相手攻撃陣の壁となり続けた。
前半は両者とも堅いゲーム運びとなったが、町田のストロングである組織的な守備は健在。崩れることは全くなかった。
「前半、1本だけ処理ミスで(ボランチの中山)雄太君がカバーしてくれたのがありましたけど、それ以外は大きなミスなくやれたと思う」と望月も手ごたえをつかみながら前半が終了。後半突入後も安定感がより増していった印象だ。
最たるものが、55分のシーン。佐藤恵允が起点を作ったところに望月はしっかり体を寄せて速さを封じ、背後から飛び込んできた安斎颯馬との1対1も余裕を持って完封。その対応には自信が満ち溢れていた。
さらに圧巻だったのは、61分にマルセロ・ヒアンが登場した後。1人で違いを作れる助っ人FWとどう対峙するかを望月は試合前に徹底的に頭に刷り込んでいたのだ。
「動画を見せられたんですけど…」
「今日のミーティングの中でヒアン選手がメンバーに入ったということで、動画を見せられたんですけど、(ミッチェル・)デュークみたいに思い切ってバーンと競るよりも、体をぶつけるやり方が多いと聞いたので、自分もすんなり対応できました。
高さの勝負だったり、何回かカバーのスピードの部分が求められていたので、自分の役割を果たせたと思います」と本人も堂々とした口ぶりを披露。相手キーマンを封じ込め、勝利の確率を引き上げたのだ。
そして試合はスコアレスのまま延長に突入し、迎えた延長前半13分。この日が25歳の誕生日だった林幸多郎の一撃が飛び出し、町田が均衡を破る。
さらに延長後半の4分には、相馬の左サイドのえぐりから途中出場の長身FWオ・セフンがダメ押し点をゲット。1週間前のリーグ戦でFC東京に屈していた町田が2−0でリベンジを達成し、11月22日のファイナルに駒を進めることになったのである。
タイムアップの笛が鳴った瞬間、望月のところに中山らが駆け寄り、献身的守備を労った。それだけ彼の貢献度が高かったということ。同じ三菱養和出身の先輩・相馬も「ヘンリー、すごくなかったですか」と報道陣に語りかけたほどだった。