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コラム 2週間前

カタールW杯直後とは雲泥の差。サッカー日本代表に見られたビルドアップの進歩。4バックも試しておきたい【西部の目】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by 田中伸弥

 サッカー日本代表は18日、国立競技場でボリビア代表と対戦し、3-0で完勝を収めた。攻守に機能性を見せ、さらには交代策まできっちり当てた。スコア以上に充実した内容を示した日本だが、来年に迫ったFIFAワールドカップ(W杯)本番までにどういった部分に課題感を持つべきだろうか。(文:西部謙司)
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「どうなるかわからない」展開にしない

サッカー日本代表
【写真:田中伸弥】

 ガーナ代表戦に続くボリビア代表戦は、FIFAワールドカップ(W杯)のグループステージで勝点3をとらなければならない相手との試合を想定したテストだった。

 そしてガーナ戦に続いてボリビア戦も納得感のある内容と結果を得られた。

 この種の試合で避けなければならないのは「どうなるかわからない」展開にしてしまうことだ。

 その時の状況にもよるけれども、大量得点を狙う必要はなく、確実に勝つ試合運びをすること。相手が勝ちようのない流れを作る。

 前進守備の機動力に優れている日本の場合、なるべく多くの時間を敵陣内でプレーするのが得策である。相手にカウンターさせず、ほぼ一方的に攻め続けるのが勝利に近い戦い方になる。

 敵陣でプレーするには、とりあえずボールを送ってしまって全体を押し上げるか、逆に慎重かつ着実にパスをつないで押し込むか。両方必要だが日本は後者がメインになる。

 自陣からのビルドアップには進歩がみられている。マンツーマンでプレスしてくる相手に対してはGKのプラス1を活かし数的優位を使って前進を図る。

 プレスしてくる相手の背後を狙う。フリーで持てた場合は相手が来るまでパスをしない(パスすると受ける味方がマークされているから)。こうした定石を踏まえたロジカルな判断が浸透していた。

 自陣でのパスミスもあり、判断を間違えるケースもなくはないが、全員が定石を踏まえて連動している。カタールW杯後にビルドアップの改善に着手しはじめた時とは雲泥の差と言っていい。

2つの使い分けと全体の機動力がハイレベル

 ビルドアップで相手のハイプレスを外すと自然とカウンターのチャンスになる。ただし、強引に攻め込んで奪われ、逆カウンターを食らってはいけない。それでは「どうなるかわからない」展開になってしまう。

 確実に相手より1点多くとればいいだけなので無理をする必要はなく、押し込んでおいて失っても即時奪回や早期回収ができる構造を作ることが優先される。そのあたりのブレーキを踏む判断も問題なかった。

 押し込んでしまえば日本のプレッシングの威力が発揮される。技術の高いメキシコ、ブラジルにも通用していたので、ごく一部の強豪国を除けば有効な強みと考えられる。

 日本のプレッシングは二段構え。前線からのマンツーマンのプレスが無理な場合はいったん中盤に引いてブロックを形成するが、5-2-3のブロックは即時にハイプレスへ押し出しやすい形になっている。

 この2つの使い分けと全体の機動力がハイレベル。俯瞰すると機能美を感じるほど正確で速い。

 ボリビアも何度か個人技で日本のプレスを外していたが、その時は容赦なくファウルで止めていた。このあたりは欧州で経験を積んだ選手がほとんどなので、どうなったら危ないかの意識も高い。

 開始早々の4分、遠藤航から久保建英につなぎ、右サイドでフリーだった久保が縦に運んでファーサイドへクロスを送る。

 鎌田大地が胸トラップで収めてから余裕を持って左足で決めて先制。しかしその後に決定機はなく、後半に入ると足が止まらないボリビアに反撃されるようになった。

 確実に押し込むので相手に引かれた状態になり、得点するのは難しくなる。ただ、そのまま押し込みと早期回収を継続すれば、失点するよりも得点する可能性は高い。60分前後に押し込む流れが一時途切れたのは、ボールの失い方に問題があったからだろう。

 53、56分に堂安律、久保から小川航基へ決定的なパスがあったが得点ならず。この2つを決めていれば試合もこの時点で決まっていた。

 CF小川が相手のフィジカルに押されてボールを保持できず、押し込みの流れを手放していた感があった。

4バックは試しておいた方がいい

 しかし、やや疲れがみえはじめた時間帯にアタッカー3人を交代。ギアを上げて2点目を奪う。堂安のパスでポケットへ侵入した中村敬斗のラストパスを町野修斗がゲット。

 さらに瀬古歩夢の鋭い縦パスを収めて抜け出した上田綺世が落ち着いてゴール前の中村へつなぐ。

 中村は右足側にワンタッチでボールを収め、ファーにもニアにも蹴れる得意の体勢から3点目。交代出場の3人が2ゴールを生み出した。

 ハイプレス主体のチームにとって鬼門となる60~70分に3人交代で強度を復活させていた。

 W杯アジア最終予選後のメキシコ、アメリカ合衆国、パラグアイ、ブラジル、ガーナ、ボリビアとの6試合、負傷者続出で懸念されたDF陣にメドがついたのは大きな収穫だろう。

 3バックのセンターとして谷口彰悟は圧倒的な存在感だった。左の鈴木淳之介の充実ぶりも素晴らしく、負傷者が復帰しても簡単にポジションを明け渡すとは思えない。むしろ谷口のバックアップがどうなるか。

 冨安健洋がベストコンディションに戻れば解決だが、そうでなければ誰がやるのか。来年3月の試合で遠藤航のコンバートも含めてプランBを準備する必要がありそうだ。

 今や絶対的なエースストライカーとなった上田綺世のバックアップも課題。仮に決勝まで戦うなら8試合になり、消耗と負傷は想定しなければいけないポジションなのでCB以上にバックアップは必須になる。

 これまで何度も会見等で示唆しながらやっていない4バックも気になる。伊東純也、三笘薫が負傷から復帰すれば、両翼は日本の最大の武器になるが、それを活かすオプションとしての4バックは試しておいた方がいいのではないだろうか。

 予選後の6試合で勝点3マストになる相手、ノックアウトステージでの対戦を想定した試合を経験できた。

 ベスト8以降の、頂上を目指すうえで避けられない優勝候補を想定した試合がまだなので、来年3月がどういうマッチメイクになるかは注目される。

(文:西部謙司)

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【了】

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