第105回天皇杯・決勝戦が22日に行われ、FC町田ゼルビアはヴィッセル神戸と対戦した。クラブ史上初の主要タイトル獲得を狙う町田は、前年度チャンピオンを3-1で撃破。悲願達成を最後方から支えたのは、GKの谷晃生だ。サッカー日本代表から遠ざかっても、25歳の守護神は変わらずチームのために邁進する。(取材・文:藤江直人)[2/2ページ]
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日本代表での苦い経験「結果は伴わなかったけど…」
町田でのパフォーマンスが評価された谷は、昨年6月シリーズで森保ジャパンへ約1年ぶりに復帰を果たした。
そして今シーズンからは完全移籍へ移行。ジュニアユースから所属してきたガンバへ別れを告げた。
「僕自身の気持ちとしては、期限付き移籍であろうと完全移籍であろうと、チームのためにしっかり戦うところはまったく変わらない。
みなさんが知っているかどうかわからないですけど、昨シーズンに期限付き移籍で町田へ加入したときから、(完全移籍は)織り込み済みではあったので、気持ち的にも変わりはありません」
今シーズンへ臨む思いをこう語っていた谷は、森保ジャパンにも継続されて招集され、敵地パースで行われた6月のオーストラリア代表とのFIFAワールドカップ26(W杯)アジア最終予選で先発している。
このときが代表通算3試合目の出場だったが、海外組を含めた陣容で先発するのは初めてだった。しかし、試合は0-1で敗れた。
後半にビルドアップでのパスミスからピンチを招き、試合終了間際の失点で無念の黒星を喫した一戦。谷は「結果は伴わなかったけど」と前置きしたうえで、努めてポジティブな言葉を紡いでいた。
「いろいろなものを自分のなかで吸収できて、少し違った世界が見えてくるかなと思っています。実際に何か吹っ切れたというか、帰ってきてからは少し余裕が出ているというか、視野がちょっと広がったかな、と」
しかし、谷の代表戦出場は現時点でオーストラリア戦が最後になっている。国内組だけの陣容で臨んだ7月の東アジアE-1サッカー選手権。3人のゴールキーパーチームのなかに谷の名前はなかった。
「E-1で外れてから晃生と何かを話したわけじゃないですけど……」
代わりに初招集された鹿島アントラーズの早川友基は、そのまま森保ジャパンに定着。ガーナ、ボリビア両代表に連勝した11月シリーズでは、代表の守護神として連続クリーンシートを達成した。
「E-1で外れてから晃生と何かを話したわけじゃないですけど……」
昌子はこんな断りを入れたうえで、谷の現在地へ思いを馳せている。
「彼のなかで思う部分も絶対にあったはずですけど、そこから崩れていく選手はずっと崩れていきそうななかで、彼は自分で立て直して、自分にしっかりとフォーカスして、いろいろなトライをしているのを僕は見てきましたから。毎試合のようにビッグセーブをしてくれる本当に素晴らしいキーパーだと思います」
昌子も称えるビッグセーブを演じた神戸との決勝は、リードを3点に広げて迎えた62分に宮代大聖に完璧なヘディング弾を返された。直後に谷は選手全員を自陣の中央に集めて檄を飛ばしている。
「自分たちがリードしているので、そんなに焦る必要はない、というところを確認しました。まだ2点のリードがあったので、自分たちがしっかりとやることをやれば焦るのは相手だよ、と」
言葉通りにその後はそのままのスコアで、プロサッカー人生で初めてとなるタイトル獲得を告げる主審の笛を聞いた。
ゴール前でひざまずき、小さなガッツポーズを作って喜びをかみしめた谷が言う。
「代表に選ばれたときもそうですし、選ばれなくなってからもそうですけど、僕自身がやることはまったく変わらないので。
チームの勝利のために、そしてチームのタイトル獲得のために本当に一戦一戦、毎日毎日、自分の成長とチームの勝利のために、そこだけにフォーカスしてやってきました」
天皇杯制覇の余韻に浸るのは、もしかするとひと晩だけかもしれない。
一途に、そしてストイックに。成長の二文字を貪欲に追い求める谷は、町田のタイトル数を「1」から「2」へ増やす仕事だけに集中していく。
(取材・文:藤江直人)
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