元イタリア代表FWマリオ・バロテッリが、UAE(アラブ首長国連邦)2部リーグ所属のアル・イッティファークに加入することが決まった。かつてイタリアの希望だった“悪童”は、なぜ世界的にはもちろん、アジアでも無名なチームでプレーすることを決断したのか。その経緯や、改めてバロテッリという男がどういう存在なのかを伝える。(文:佐藤徳和)[2/2ページ]
——————————
マルキージオ「マリオにはたくさん笑わせてもらった」
イタリア代表では18試合に出場し、7ゴールを記録。その中でも、2012年ユーロ(欧州選手権)準決勝、ドイツ戦での活躍は、今なお語り継がれている。
もう一人の“悪童”アントニオ・カッサーノが上げたクロスに頭で合わせて先制点を奪うと、続けてリッカルド・モントリーヴォのフィードに抜け出し、ペナルティエリア付近からミサイルのような強烈な一撃を叩き込む。名手マヌエル・ノイアーが一歩も動けなかったほどの、凄まじい破壊力を持ったシュートであった。
ゴール直後、バロテッリはユニフォームを脱ぎ、鍛え上げられた肉体を誇示。このシーンは、大会を象徴する場面の一つとして多くの人たちの記憶に焼き付いている。
この時、イタリア代表のチームメイトとしてプレーし、ドイツ戦で2点目が決まった直後、バロテッリに一目散に抱きついたクラウディオ・マルキージオが昨年12月、ポッドキャスト『La Tripletta』にゲスト出演し、バロテッリを回想している。
「素晴らしい才能を持ち、とりわけシュートの能力が極めて高かった。代表のトレーニングで、FKから(ジャンルイジ・)ブッフォンを困難に陥れていた選手が2人いた。一人は、(アンドレア・)ピルロ、もう一人がバロテッリだった。
U-21やA代表で一緒に戦ってきた。残念なこともあったけど、マリオにはたくさん笑わせてもらった。素晴らしいヤツだった。彼は非凡な才能を持った最後のイタリア人プレーヤーの一人だ」
マルキージオはバロテッリより4歳年上だが、U-21時代から一緒にプレーしてきた。2006年FIFAワールドカップで世界の頂点に立ったイタリア代表の次代を担ってきたのが、この2人だった。
アッズーリが最後に出場したW杯、2014年ブラジル大会でも、2人はピッチに立っている。
グループリーグ初戦のイングランド戦では、先制点をマルキージオが、決勝点をバロテッリが挙げて勝利に導いた。そして、このバロテッリの一撃が、イタリア代表がW杯で記録した最後のゴールとなっている。
イタリア代表に、バロテッリ以降、バロテッリ以上の決定力を備えたストライカーは、いまだ現れていない。
「今のオレはまだ他の選手よりも優れている」
彼がイタリア代表として最後に出場したのは、2018年9月7日に行われたポーランドとのネイションズリーグ初戦で、このときバロテッリは28歳だった。
彼のポテンシャルを思えば、これが彼の代表ラストマッチになることには、あまりにも早すぎるという思いを抱かずにはいられない。
マリオの良き理解者であるカッサーノは、2022年9月にイタリア人ラッパー、フェデスとのインタビューでこう語っている。
「バロテッリは、今のイタリア人で最も優れたFWだ。(チーロ・)インモービレよりも優れている。彼には頭が足りない? それは誤りだ、とてもいいヤツなんだ」と語っている。
2018年5月のサウジアラビア代表戦のイタリア代表招集は、約4年ぶりの招集だった。このため、過去2大会のW杯欧州予選にも、プレーオフにも出場することはなかった。
だが、意外なことに、バロテッリ自身は、イタリア代表への思い入れを強く持ち続けている。昨年末に行われたミラン時代の恩師、クラレンス・セードルフとの対談では、こう語っている。
「W杯? 客観的に見れば、無理だというのは分かっている。しかし、それでもずっとW杯はオレの夢だ。たとえ、50歳で招集されたとしても、W杯ならプレーしたいと思う」
そのバロテッリはドバイ入りする直前、UAEでの新たな挑戦に意欲を示した。
「素晴らしいプロジェクトだ。ドバイは暑くて、ミラノは寒いから、早く向こうに着きたい。今のオレはまだ他の選手よりも優れている」と笑みを浮かべて答えた。相変わらずバロテッリ節は全開だ。
「イタリアのクラブから何件か連絡はあった。交渉も試みたが、オレにとって納得のいくものではなかった。サッカーは変わったと思う。今は他の選手たちがいて、彼らにチャンスを与えるのは正しいことだ。オレももう35歳だからな」
UAEのアル・イッティファークがバロテッリにとって6カ国、13クラブ目となり、8月12日には36歳の誕生日を迎えるが、まだまだ“引退”の2文字が頭の中を過ぎることはないようだ。
「引退を決めるかどうか、サッカーの世界がそれを決めるのではない。自分がやめたいと思ったときに、オレは引退する」
灼熱の地、ドバイから届くバロテッリの活躍の知らせが待ち遠しい。
(文:佐藤徳和)
【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru
【関連記事】
W杯が危うい…。強豪だったイタリア代表はなぜ凋落したのか。様々な要因が絡み合う負の連鎖【コラム】
イタリア代表、本当に大丈夫か?監督人事を巡る狂騒劇、“狂犬”ガットゥーゾはこうしてアッズーリの指揮官に就任した【コラム】
セリエAなのにイタリア人がいない…。なぜ優秀な若手が育ちにくいのか。「今の限界を招いてしまった」大きな誤解とは【コラム】
【了】


