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コラム 4時間前

フィオレンティーナが失ったロッコ・コンミッソという男。「愛情を常に示した」会長の死が意味する、クラブの不安な未来とは【コラム】

シリーズ:コラム text by 佐藤徳和 photo by Getty Images

ロッコ・コンミッソ
フィオレンティーナ会長のロッコ・コンミッソ氏が他界した【写真:Getty Images】



 衝撃的なニュースが飛び込んできたのは1月16日のこと。フィオレンティーナの会長を務めていたロッコ・コンミッソ氏が、長い闘病生活の末に他界した。ヴィオラとフィレンツェの街に注いでいた愛情が深かったゆえに、彼を失ったという事実はものすごく大きい。これからのクラブの未来には不安が残る。(文:佐藤徳和)[2/2ページ]
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コンミッソ氏が実現できなかったこと

 それは新スタジアム建設の実現だ。

 コンミッソは、クラブが所有するスタジアム建設を希求したが、土地取得にかかる財政的な課題や、当時のフィレンツェ市長ダリオ・ナルデッラの反対により、計画は頓挫。コンミッソは「官僚主義がイタリアを殺している」と怒りを露わにし、2021年1月の段階で、「スタジアム建設のテーマは終わった」と言い放っている。

 現在、本拠地のアルテミオ・フランキは、修復工事中だが、コンミッソは予てから修復に対して強く反対していた。

 マラトーナの塔や螺旋階段などが、文化遺産に登録され、法律で壊すことが禁止されており、改修となったが、完成予定は大幅に延期され、2029年となっている。このため、クラブ創設100周年を”工事中”のスタジアムで迎えることが決定的となった。



 イタリア系アメリカ人オーナーは6年半の間に、選手の移籍金だけで約4億3,000万ユーロ(約774億円)を費やした。その間、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)の出場権は獲得できなかった。

 昨夏には9,000万ユーロ(約162億円)も投じて補強を行った。ステファノ・ピオーリを監督に招へいし、記念すべき100周年にCL出場権を得るために、戦力を整えた。

 だが、補強はものの見事に失敗に終わった。チームの成績を見れば、効果的な補強であったか否か、一目瞭然だろう。

 それでも、UEFAカンファレンスリーグで決勝に2度、コッパ・イタリアにも決勝に1度進んでいる。コッパ・イタリアを制覇した00/01シーズン以来となるタイトル獲得とはならなかったが、フィレンツェに夢を与えた。

「ヴィオラの色への無条件の愛情を常に示していた」

 セリエAにやってくる多くの外国人オーナーとは異なり、コンミッソにとってこのクラブは、単なる収益性を追求するための投資対象ではなく、“トロフィー・アセット(自身の成功を象徴する資産)”であった。

 そのため、惜しげもなく私財を投じてきた。だが、一流企業に育て上げたメディアコムとは違い、クラブの経営に関しては十分な手腕を発揮することはできなかった。

 それでも、そんなコンミッソを誰が悪く言えるだろうか。

 新型コロナの緊急事態という最も困難な時期には、『フォルツァ・エ・クオーレ(強さと心)』キャンペーンを立ち上げ、市内の病院に多額の寄付を行っている。

 彼はもはや真のフィオレンティーノ(フィレンツェ人)のようだった。ヴィオラ・パークには多くのサポーターが訪れ、“Rocco B. Commisso”と刻まれた入口に花束を手向けている。



 コンミッソの下で、最も長く指揮官を務めた、現ボローニャ監督のヴィンチェンツォ・イタリアーノはこう語る。

「会長とは常に特別な関係で結ばれていた。フィレンツェで過ごした3年間、私たちは本当に親子のような関係にあった。南部出身の人間同士に通じる人間味と真心がそこにはあった。サッカーは彼の大きな情熱であり、ヴィオラの色への無条件の愛情を常に示していた。それが私には非常に印象的だった」

 フィオレンティーナは、「銀行からの借金がない」という意味では健全なクラブだと言えるが、「自立した事業としての収益性」という意味では、コンミッソ個人の資産に依存した、“自転車操業”の経営となっていた。

 それゆえ、パトロンを失い、クラブの将来には不安が残る。

2部降格を避けなければ…

 当面は、妻のキャサリンと息子のジュゼッペが経営を引き継ぐこととなる。しかし、生前のコンミッソが行っていたような大型補強が続けられるとは考えにくい。

 胸スポンサーについても、年間2,500万ユーロ(約45億円)もの収入を得ていたが、コンミッソの自社企業である「メディアコム」からのスポンサー料であった。フィオレンティーナと同規模のクラブの胸スポンサー料は、通常500万(約4億円)から800万ユーロ(約14.4億円)程度が相場である。

 相場の3倍から5倍近い金額を得ることで、本来なら赤字になるはずの決算を回避していたのだ。今後も同額の胸スポンサー料が支払われるとは信じがたい。これからはシビアな補強が行われることになると予想される。

 自らのルーツを忘れることなく、祖国に誇りを抱いていたコンミッソ。「私はフィオレンティーナのサポーター。ロッコと呼んでくれ」。ファンの前に現れた時、第一声をこう発した。

 南部イタリア出身らしい、人懐っこい笑顔が印象的だった。コンミッソが行くところには常に笑顔があふれていた。



 コンミッソの死去から2日後の18日に行われたセリエA第21節、フィオレンティーナはボローニャを敵地で2-1と破り、弔いの勝利を捧げた。
 
 今季の目標はただ一つ。それは残留だ。

 一時は、もはや降格は避けられないものと見られていたが、ボローニャ戦勝利で第7節以降、初めて降格圏を脱出。現在は18位に沈むが、17位レッチェとの勝ち点差はわずか「1」だ。

 冬の補強では、マノル・ソロモン、マルコ・ブレシャニーニ、ジョヴァンニ・ファッビアンといった即戦力の獲得に成功するなど、残留への道は開けてきている。

 来季、創立100周年を迎えるクラブにとって、2部降格は絶対に避けなければならない。

 そして、フィオレンティーナとフィレンツェの街に人生の一部を捧げたロッコ・コンミッソのためにも。

(文:佐藤徳和)

【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru

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【了】

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