1980年代後半から2000年代前半にかけて黄金期を築いたイタリア・セリエA。中田英寿や中村俊輔といったレジェンドも同舞台で輝くなど、日本人に馴染みの深いクラブが多かった。しかし、そこから深刻な財政難を理由に、現在はかつてのような存在感を失ってしまったクラブも目立つ。今回は、そのようなクラブをピックアップ。輝かしい歴史と、あまり知られていない“今”を伝える。第2回はチェゼーナFC。(文:佐藤徳和)[2/2ページ]
アメリカ資本の参入で一気に復活
セリエCで3年目のシーズンを迎えていた2021年12月20日、チェゼーナFCは、ニューヨークに本拠を置くロバート・ルイスとジョン・アイエッロの2人が率いるアメリカ合衆国のJRL Investmentsグループへの譲渡を正式に発表した。
ルイスとアイエッロは共同オーナーとなり(現在はアイエッロの単独オーナー)、これにより、チェゼーナのクラブが長年、ロマーニャ出身のオーナーおよびチェゼーナ出身の会長によって運営されてきた約80年の“伝統”に終止符が打たれた。
アメリカ資本の参入は、すぐに結果として現れた。
21/22シーズンはセリエCグループBで3位、翌22/23シーズンは同2位。いずれもプレーオフで敗れたものの、着実に力をつけていく。
そして、23/24シーズンは2位トッレスに勝ち点21差をつける圧倒的な成績で優勝を遂げ、セリエB復帰を果たした。
アメリカ人オーナー体制で迎えた初のセリエBとなった24/25シーズンは、7位でフィニッシュしプレーオフに進出するも、準々決勝で敗退。そして、セリエB2年目となる今シーズンは、第30節終了時点でプレーオフ圏内ぎりぎりの8位に位置し、7試合連続で勝利から遠ざかっていた。
こうした状況を受け、アイエッロ会長はミケーレ・ミニャーニ監督の解任を決断する。新たにクラブの指揮を託したのが、アシュリー・コールであった。
イングランド代表として107試合出場のキャップ数を誇るA・コールは、2014年の夏から1年半にわたって、ASローマでプレーしたが、チェゼーナFC新監督に彼の名前が出たことは、大きな驚きをもって報じられた。
なぜアシュリー・コールを新監督に迎えたのか
アイエッロ・オーナーは、「彼のような人物は、アメリカのみならず、イングランドでも、チェゼーナFCに注目を集める。今や世界中の視線が我々に向けられており、スポンサーにとっても露出が得られる」とマーケティングを重視した監督人事であったことを明かした。
さらに、「チャンスをつかむ必要があった。リスクであることはわかっているが、4年前にチェゼーナに投資した時もリスクだった。リスクを取らなければ利益は得られない」と説明した。
また、A・コールが若手育成に前向きである点も強調し、45歳の英国人指揮官は、チェゼーナFCの経営に参画するアメリカ人投資家マイク・メルビーの友人から推薦された人物であると明かした。
「コールを選んだが、イタリア人や外国人、さらにはアメリカ人を含む他の監督とも面談していた」と語った。
A・コールは、ダービー・カウンティに所属した2019年8月に現役生活に幕を閉じ、翌年10月、古巣チェルシーのU-15チームのコーチに就任し、指導者の道をスタート。その後、チェルシーやイングランド代表のコーチングスタッフの一員として、チームを支えていたが、トップチームの監督を担うのは、今回が初である。
そのA・コールは入団会見の席で、「ピッチの内外で足跡を残したい。イタリアは非常に困難な時期を迎えている。代表は2014年を最後に、ワールドカップに出場していない。私がイタリアのサッカーやメンタリティを変えられるわけではないが、環境を助けるために何かできるならそれをするつもりだ」と言明。
シーズン終了までの短期契約ではあるが、長くチェゼーナFCの指揮官に留まりたいことを明かした。
A・コール監督の誕生はイタリア・サッカー界にとっても朗報?
「見た限りでは、ロマーニャ地方はとても美しい。私の妻はイタリア人で、ローマ出身だ。だからこれは私にとって、家族にもより頻繁に会える機会でもある。もちろん、家族は私にとって非常に大切な存在だ」
また、ビデオで入団会見に参加したイタリア系アメリカ人であるアイエッロ・オーナーもA・コールの長期政権に期待する。
「我々がセリエCにいたとき、21歳以下の選手が6人いた。当時の監督である(ドメニコ・)トスカーノは、『若手とともに勝つのは不可能だ』と言っていた。若手を信じないのはイタリアサッカーの“狂気”だ。
それでも我々はU-21の選手6人とともに、セリエCを制した。チェゼーナFCの未来は、我々が少なくとも2年は引き留めたいと願うA・コールだけでなく、イタリア人や外国人の若手にもかかっている」
こうして、チェゼーナFCは、A・コール新監督を迎えた初戦、敵地のマントヴァ1911戦には0-3と敗れ、黒星スタートとなってしまったが、続くホームでのUSカタンザーロとの対戦には3-1で勝利。新体制での初勝利を挙げるとともに、実に9試合ぶりの勝利を手繰り寄せた。
アイエッロはアメリカ人であるが、コール新監督とともに、イタリアのサッカーに協力の用意があることを明かしているのは、イタリア・サッカー界にとっては朗報だろう。
近年、イタリアのリーグは、イタリア人の少なさが指摘され、問題となっているが、チェゼーナFCは、チームの強化とともに、イタリア人選手の育成にも力を注ぐ方針とみられる。
A・コールの採用に関しては、未知数ではあるが、クラブのビジョンと指揮官の方向性が一致しており、無謀な賭けではないことが見て取れる。
イタリア・サッカー界にとってもA・コールの就任は、プラスに働くこととなるのではないか。
(文:佐藤徳和)
【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru
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