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コラム 4時間前

フォーメーション変更で生じた“守備の混乱”――なぜサッカー日本代表はイングランドに勝てたのか。対話が示した“優勝への道筋”【コラム前編】

シリーズ:コラム text by ミムラユウスケ photo by Getty Images,Shinya Tanaka,Etsuko Motokawa

イングランド代表戦後のサッカー日本代表
イングランド代表に勝利したサッカー日本代表【写真:田中伸弥】



 サッカー日本代表は、3月の英国遠征でスコットランド代表、イングランド代表を連破し、歴史的快挙を成し遂げた。しかし、その裏側には、単なる勝利では語りきれない〈混乱〉と〈対話〉の積み重ねがあった。日本代表を現場で追うスポーツライターのミムラユウスケが、選手や指揮官の言葉を手がかりに、そのプロセスをひも解く。そこから浮かび上がるのは、日本代表が歩んできた歴史と、次なるステップへの確かな変化だった。(取材・文:ミムラユウスケ)[2/2ページ]

「代表のやり方」が機能し始めた要因

イングランド代表戦のサッカー日本代表 森保一監督
イギリス遠征に見られた練習の変化とは【写真:田中伸弥】

 なぜ、この練習がこれほど有意義なものになったのか。その要因の一つが昨年9月のアメリカ遠征での〈失敗〉だ。

 1試合目の翌日を移動にあてたため、2試合目の前にピッチで取り組めた練習はわずか1日だけだった。そのほとんどが2試合目(アメリカ戦)の〈予習〉に費やされ、1試合目(メキシコ戦)で出た課題に取り組む〈復習〉の時間がほとんどなかった。

 しかし、今回は違った。そこにはもちろん、アメリカ遠征の反省も生かされているのだろう。

 具体的には、スコットランド戦の直後、日が変わる前にチャーター機でロンドンへ移動した選手たちは、2試合目を戦う前にグラウンドで2回の練習を行なうことができた。

 だから、イングランド戦のための〈予習〉だけではなく、スコットランド戦の〈復習〉の時間が確保され、3-1-4-2という攻撃的な布陣のもとでどのように守備をするかも確認できた。

 JFAのYouTubeチャンネルTeam Camには、この練習がどれだけ有意義だったのかを森保監督が語っていると推論できるシーンが収められている。



「すごく良いなと思ったことは、コーチ陣も修正しながら毎日、みんなに提示する。みんなもピッチ上でコミュニケーションを取る。かつ、コーチ陣と選手が分断するのではなくて、昨日(*イングランド戦前日練習のこと)みたいに不具合があって、『ちょっと、これ。どうかな?』というところを、コミュニケーションを取りながら、ディスカッションしながらやってこれているということ」

「コーチ陣と選手が分断するのではなく」という指摘は、昨年10月の代表合宿前にアシスタントコーチの長谷部誠が指摘していた以下の問題が解消されつつあるということを意味する。

「代表に来る選手は自分の(所属)チームのやり方や成功体験などにすごくこだわりがあります。今の選手たちだけではなく、自分もそうでした。

 そして、代表が強くなるために『こういうのもいいんじゃないか』、『こういうのもあるんじゃないか』と。それ自体は、すごく素晴らしいことだと思うんですよね。

 ただ、代表には代表でのやり方がある。限られた(練習)時間の中で、できること(と、できないこと)がある。だから、『(選手たちの気持ちは)わかるけど、代表のやり方はこれだよね。時間が限られた中でやれるのはこれだから』と言うのは自分の役割かなと。チームのバランスを整える仕事は自分のものかなと思います」

なぜ過去の日本代表は議論しても前に進めなかったのか

サッカー日本代表 藤田譲瑠チマ
藤田譲瑠チマが語った変化とは?【写真:Getty Images】

 あれから半年弱、状況は明らかに変わった。選手たちの変化について、特筆すべき証言をしたのが藤田譲瑠チマだった。

 一昨年のパリ五輪でU-23日本代表のキャプテンを務め、声で引っ張るリーダーとしてキャリアを築いてきた彼は、この日の練習でのやり取りをこう表現した。

「みんながそれぞれの考えやサッカー観は持っていますけど……その上で、チームの規律をリスペクトしながら、チームのために、戦えていると思うので。うまく作戦をはめながら、そこで自分たちの色を出しながらプレーできているのかなと思います」

 かつての日本代表が持っていた病理は、「俺のサッカーが正しい」という主張の応酬だ。2006年のW杯のときがそうだったし、2014年のW杯を目指す過程でも、そうした状況は生まれていた。

 だから、ディスカッションをしても答えにたどり着かず、話し合いは平行線をたどったままで、試合を迎える。それで良い結果は得られなかった。



 だが、今は違う。

 藤田が「チームの規律をリスペクトしながら」という言葉で表現したように、各自がサッカー観を持ちながらも“主張することをゴールにしない”のである。

 自分の色を消したわけでも、誰かに折れたわけでもなく、それぞれの色がチームという器の中で混ざり合い、新しい色を生み出していく。そして、その色で一つの大きな絵を描く——そういう集団に、今の日本代表はなりつつある。そんな証拠が、聖地の芝の上に刻まれた。

 ただ、収穫はそれだけではなかった。1-0というスコアながら、支配率はわずか26%。イングランドに多くのシュートを打たれた状態で迎えたハーフタイムに、もう一つのドラマがあった——。

<後編に続く>

(取材・文:ミムラユウスケ)

【著者プロフィール】
2006年7月にスポーツライターとしての活動をはじめ、2009年1月にドイツへ渡る。ドルトムントやフランクフルトに住み、ドイツを中心にヨーロッパで取材をしてきた。2016年9月22日より、拠点を再び日本に移す。『Number』などに記事を執筆。内田篤人との共著に「淡々黙々。」、岡崎慎司の著書「鈍足バンザイ!」の構成も手がけた。

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【了】

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