イタリア・サッカー界が再び大きく揺れている。セリエAとセリエBの審判任命責任者ジャンルカ・ロッキが、“インテルに有利な審判配置”を行った疑いでスポーツ詐欺共謀容疑の捜査対象となったのだ。VAR音声まで存在する今回の問題は、単なる誤審論争では終わらない。カルチョポリ以降、回復しつつあったイタリア審判界の信頼そのものを揺るがす事態へと発展している。(文:佐藤徳和)[2/2ページ]
あくまで被疑者は審判界に限定
また、VAR監督官アンドレア・ジェルヴァゾーニも同様に「複数人との共謀」によりスポーツ詐欺の容疑で捜査対象となっており、彼もまた自主的に職務を退いている。
『AGI』が確認した捜査対象の通知書によれば、2025年3月8日のセリエB第29節、サレルニターナ対モデナFC戦において、「試合中、モデナFC側に有利なPKが与えられた場面で、主審アントーニオ・ジューアに対し、VAR担当ナスカへ、OFRを促すよう強く働きかけた」とされている。
では、便宜を図られていたインテルとそれ以外のクラブは、検察から疑いをかけられているのだろうか。
イタリア紙『ラ・ガッゼッタ・デッロ・スポルト』によると、4月27日時点では、クラブはいかなる試合での関与もないとされ、被疑者は審判界に限定されている。
ロッキやジェルヴァゾーニなどが含まれる検察が管理する「被疑者リスト」には、まだ公表されていない他の名前もあるが、クラブの幹部や選手は一人も含まれていない。
また、捜査の開始時期は2024年末と特定され、18か月の捜査期間はまもなく終了を迎える見込みである。
その時点で資料が提出され、盗聴記録などがあれば公開されることになる。
捜査対象となっている試合は現時点で5つ。
インテルのマロッタ会長が語ったこととは?
セリエAのウディネーゼ対パルマ・カルチョ、インテル対エラス・ヴェローナ、ボローニャFC対インテル、コッパ・イタリアのインテル対ミラン、そしてセリエBのサレルニターナ対モデナFCである。
他の試合が追加される可能性は排除されていないが、進行中の25/26シーズンのリーグ戦の試合が捜査対象ではないことは確実となっている。
一方、ロッキが便宜を図った容疑が持たれているインテルは27日に行われたトリノ戦を前に、ジュゼッペ・マロッタ会長が、イタリア・メディア『SKY』などのインタビューに応じている。
「我々はすべてを報道で知った。出てきた発言や声明には驚いている。我々は“好ましい”、あるいは“好ましくない”審判のリストを一度も持ったことはない。我々は常に最大限の正しさをもって行動してきた。
このため、すべてのファンを安心させたい。我々はこの件とは無関係であり、今後も無関係であり続ける」
捜査にインテルの名前が浮上したことに驚きを示しつつ、関与をきっぱりと否定した。
こうした中、ロッキが自主的に職務を停止したことを受け『AIA』は、ディーノ・トンマージを暫定の審判任命責任者に指名した。『ラ・ガッゼッタ・デッロ・スポルト』が4月27日に報じている。
49歳のトンマージは、ヴェネト州のバッサーノ・デル・グラッパの生まれ。2008年3月15日に、ウディネーゼ対SSラツィオ戦でセリエAデビューを果たし、54試合で主審を務めた。
2015年7月には、技術的評価によりCAN Aから外された。その後、2023年はCAN AおよびBにおいて、ロッキの右腕の一人となった。
2024年3月からは『DAZN ITALIA』のコンテンツの一つ「オープンVAR」に出演し、論争の的となる場面を分析し、説明する役割を担ってきた。
なぜ審判側だけ悪者に? 不可解な点も多々
『AGI』によると、この問題に関する捜査の最初の節目は4月30日とされていた。
ロッキがミラノ検察のアショーネ検事の前で取り調べを受ける予定であり、新たな事実が明らかになるのか注目された。
ところが、4月28日になって、ロッキの弁護士を務めるアントニオ・ダヴィッロが、「出頭することは自殺行為のようなものだ」と話し、30日にミラノ検察に出頭する考えがないことを言明した。
イタリア日刊紙『コッリエーレ・デッラ・セーラ』によると、ダヴィッロ弁護士は、沈黙することが現時点の最良の選択であると強調している。
「私の依頼人は出頭する意思を持っていたが、最終的にそれを取りやめる判断を私が下した。現時点では完全に不透明な状況にあり、捜査記録の内容も把握していなければ、書類も入手していない。資料を確認できなければ、有効な弁護を行うことはできない」
現時点では、不可解な点が多い事案である。審判側にのみ容疑が向けられ、クラブ側には一切、容疑が及んでいない点は、にわかには信じがたい。
クラブ関係者が関与せず、第三者から審判団に対して何らかの働きかけがあったのか、いずれにしても、ロッキが独断でインテルに有利な状況を意図的に作り出したとまでは考えにくい。
『DAZN ITALIA』では、前述の通り「オープンVAR」というVAR検証番組も放送されており、審判団のやり取りが録画・録音され、ファンや視聴者に可視化されている状況にある。
そうした中で、リスクを負いながら審判団が特定のクラブに有利となる判定を意図的に下すとは想像しがたい。
果たして、ロッキを中心としたスポーツ詐欺共謀容疑はどのような結末を迎えるのだろうか。
(文:佐藤徳和)
【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru
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