インテルのスクデット獲得は、“当然の結果”ではなかった。シモーネ・インザーギ退任後、クラブが新たに託したのは、トップリーグでわずか13試合しか指揮経験のないクリスティアン・キヴだったからだ。大型補強もなく、主力の離脱にも苦しみながら、なぜインテルは再び頂点へたどり着けたのか。その背景には、指揮官の静かな変化があった。(文:佐藤徳和)[2/2ページ]
「キヴは人の心に入り込んでくるような人物」
「決して当然のスクデットではなかった。このチームがどんな道のりを歩み、どこからスタートしたのかを忘れてはいけない。本当に素晴らしかった。チームも、クラブも、そして何よりも監督が素晴らしかった」
「キヴは人の心に入り込んでくるような人物だ。彼には再出発が必要だった。イタリアでは、CLで2位になったとしても“失敗”だと語られてしまう。
でも、チームは実際には良い仕事をしていた。ただ再び歩み始め、一緒にいる喜びを取り戻し、キヴが言ったように“自ら矢面に立つ”必要があった」
そして、イタリア・サッカー界の重鎮、ファビオ・カペッロもキヴが決定的な存在だったと、『ラ・ガッゼッタ・デッロ・スポルト』のインタビューで語る。
「昨年のCL決勝でのパリ・サンジェルマン戦敗戦を、チームに早く忘れさせたことが、彼は本当に素晴らしかった。何を言おうとも、あの惨敗は頭に残るものだし、乗り越えるのは容易ではない。キヴの功績は、選手たちを再び正しい道へ戻したことだ。彼は選手たちに再び自信を持たせた」
「私にとって、開幕時点でナポリに対抗できるチームは、インテルだけだった。(アントニオ・)コンテは負傷者の問題にかなり苦しんだが、キヴにも問題はあったことを忘れてはいけない。特に(ハカン・)チャルハノールの離脱、そして(デンゼル・)ドゥンフリースの長期離脱だ。右サイドにおけるオランダ人選手の不在は非常に大きかった」
今季のインテルは主力に故障者が続出した。チャルハノールは22試合、ドゥンフリースは19試合の出場に留まっている。
また、主将で得点源のラウタロ・マルティネスは16ゴールを決め、チームトップスコアラーに立つものの、終盤戦に負傷離脱し、8試合も欠場した。
これだけ主力が離脱しながら優勝できたことは、やはりキヴの功績が大きいと言わざるを得ない。
実績がほとんどない中で、スクデット獲得という極めて困難なミッションを成し遂げたことは、高く評価されるべきだ。
マッシモ・モラッティ元会長は、キヴをジョゼ・モウリーニョを彷彿とさせる男だと語り、最大級の賛辞を送る。
より厳しいのは来シーズン?
しかし、キヴにはモウリーニョほどのカリスマ性は感じられない。むしろ、とりわけ印象的なのは、その謙虚さだ。
選手との対話を重んじ、彼らにとっては相談できる良き“兄”のような存在なのだろう。
不協和音が聞こえることも少なく、チームの輪が最後まで乱れなかったことも、キヴの大きな手腕の一つと言える。
45歳の指揮官は攻撃的なチームに仕上げた。それは数字の上でも明らかだ。
『DAZN ITALIA』によると、インテルのチームの重心は54.52メートル。これは、全チームトップの数字で、昨季のチームよりも3.16メートル高く位置している。
また、フィールド・ティルト(アタッキングサードでのボール保持率)も69.5%。さらに、相手陣内でのボール奪取も16.5%と、いずれも全チームの中でトップの高い数字を叩き出している。
こういった数字が示しているように、インテルの攻撃力は、リーグで突出していた。今季は、2試合を残し、リーグ最多の85ゴール。得点数2位のコモ1907の59ゴールを大きく上回っている。
インザーギ政権下でリーグ優勝した23/24シーズンには89ゴールを記録しているが、残り2試合でこの数字を上回る可能性も残っている。
就任1年目でリーグ優勝を成し遂げ、さらには、コッパ・イタリア制覇の可能性も残されている。
リーグとコッパ・イタリア制覇の2冠となれば、トリプレーテを果たした09/10シーズン以来の偉業となる。
しかし、大きな問題は、主力の多くに退団の噂が浮上している来季だ。今季以上に難しいチームマネージメントを迫られることが予想される。
ヤン・ゾマー、フランチェスコ・アチェルビ、ステファン・デ・フライ、マッテオ・ダルミアン、ヘンリク・ムヒタリアンといったベテラン勢の退団は確実視されている。
さらに、アレッサンドロ・バストーニの去就も不透明だ。
マロッタ会長は「バルセロナからの関心を隠しはしない」と語っており、スペインの名門への移籍の可能性も報じられている。
20チーム中2番目に平均年齢が高い27.9歳のスカッドを若返らせる必要はあるものの、これほど大規模なチーム刷新となれば、今季以上にチームマネージメントへ影響を及ぼしかねない。
真の意味での試練が、2年目の来シーズンに訪れることは間違いない。
(文:佐藤徳和)
【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru
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