フットボールチャンネル

ポルトガル代表、なぜC・ロナウドを代えなかったのか。最後までエースを信じた采配の誤算【北中米W杯コラム】

シリーズ:コラム text by 安洋一郎 フリーライター photo by Getty Images
ポルトガル代表 クリスティアーノ・ロナウド
ポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウド【写真:Getty Images】


 ポルトガル代表はラウンド16でスペイン代表に敗れ、クリスティアーノ・ロナウドにとって最後のワールドカップは幕を閉じた。最後までエースを90分間信じ続けたロベルト・マルティネス監督の決断は正しかったのか。大会を通じたプレー内容やデータをもとに、その采配を検証する。(文:安洋一郎)[2/2ページ]

B・フェルナンデスの良さを消した歪な構造

ポルトガル代表のブルーノ・フェルナンデス
ポルトガル代表MFブルーノ・フェルナンデス【写真:Getty Images】


 クロスへの反応が鈍かった理由は、シンプルにスプリント能力の低下が大きな要因だろう。

 例えば、コンゴ民主共和国代表戦の28分のシーンでは、オフサイドポジションからゴール前に飛び込んだが、走り出した時点では7mほど差があったDFスティーブ・カプアディにあっという間に追いつかれている。

 大会を通して、ドリブルを一度も試みなかったことからもわかるように、個人での打開力はすでになく、パスで攻撃を組み立てるタイプでもない。

 それでもロナウドはボールサイドへ寄って受ける場面が多かった。その結果、本来はラストパスで違いを生み出すブルーノ・フェルナンデスが、最前線へ押し出される形になっていた。

 最も顕著だったのがクロアチア戦で、ブルーノ・フェルナンデスはロナウドの代わりに背後へのアクションを繰り返し、試合を通した平均ポジションもロナウドより高い位置にあった。

 FIFA公式サイトの「ディフェンシブ・ラインブレイク」(相手守備ライン突破を狙ったパス、ドリブル、ボールプログレッション)の試行回数を見ると、ブルーノ・フェルナンデスが20回を記録したのに対して、ロナウドはわずか4回。

 圧倒的に最前線でのアクションが少なかったことがスタッツにも表れている。

C・ロナウド以外にストライカーの選択肢はなかったのか

ポルトガル代表FWゴンサロ・ラモス
ポルトガル代表FWゴンサロ・ラモス【写真:Getty Images】


 では、ロナウド以外のストライカーの選択肢はなかったのだろうか。

 ポルトガル代表は中盤やサイドでは若手の台頭が著しい一方で、純粋なストライカーの層は厚いとは言えない。

 それでも筆者は大会を通して、DRコンゴ戦とクロアチア戦の計34分の出場に留まったゴンサロ・ラモスを、途中からでももっと起用するべきだったと考える。

 それは、決勝点だけでなく、背後への動き出しや前線からのプレスで攻撃に流動性をもたらしたクロアチア戦のパフォーマンスを見れば明らかだった。

 特にスペインのように高い位置から守備ラインを設定する相手には、背後へ走れるラモスの存在は、ロナウドとは異なる攻撃の選択肢になったはずだ。

 しかし、マルティネス監督がロナウドへの信頼を失わなかった理由は明確だった。批判を浴びた初戦後にも「ゴールが必要な試合で、現代サッカー史上最高のスコアラーをピッチから下げるのは意味がない」とコメントしている。

 彼がエースに対して絶対的な信頼を寄せていたのは、これまでの実績に加え、ノーゴールに終わったユーロ2024(欧州選手権)後から今大会にかけて得点を量産していたことにあるだろう。

 実際にロナウドは今大会の開幕前までの2年間で16試合に出場し、13ゴールを記録。昨年に行われたスペイン代表とのUEFAネーションズリーグ決勝や欧州予選でも5試合で5ゴールを決めており、持ち前のワンタッチゴールやミドルシュートなど好調を維持していたことがうかがえた。

指揮官に足りなかった柔軟性

ポルトガル代表
新たな時代を進むポルトガル代表【写真:Getty Images】


 誰であってもW杯前までの16試合で13ゴールを記録したストライカーを先発から外す理由はない。むしろ開幕から数試合は信頼して起用するのが普通だろう。

 ただ、マルティネス監督に足りなかったのは大会途中の柔軟性だった。

 昨年までのパフォーマンスと比較しても、明らかにゴール前での感覚が本来のものではない中で、ゴンサロ・ラモスのプレータイムを増やさなかったのは疑問が残る判断だった。

 W杯でトーナメントを勝ち進むチームには試合ごとの状態を踏まえた臨機応変さがある。例えば同日に行われたベルギー代表のリュディ・ガルシア監督は、ジェレミー・ドクとケビン・デ・ブライネをベンチスタートする決断を下して、それがチームの機能性を高める結果に繋がった。

 最後までエースを信じた指揮官の決断も理解できる。ただ、問題は大会中に状況が変化した後も、その選択肢を持てなかったことだ。

 今大会前の時点で、ロナウドを途中出場で起用したケースは一度しかなく、その選択肢自体をほとんど想定していなかったのだろう。

 結果として、彼と最後まで運命を共にする形となり、攻撃を整理できないまま敗退を喫した。

 さて、ロナウド自身は代表引退を表明していないが、彼を中心とする時代は今大会で終わっただろう。

 ポルトガルが次に乗り越えるべき壁は、ロナウドの後継者探しではない。20年間チームを支え続けた偉大な存在に依存する時代から、新たな勝利の形を築く時代へ進むことだ。

(文:安洋一郎)

【著者プロフィール:安洋一郎】
1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。現在は『フットボールチャンネル』をはじめ複数のwebメディアや欧州名鑑などに寄稿。12歳からアストン・ヴィラを応援し、プレミアリーグを中心に海外サッカー全般を追っている。Xアカウント:@yoichiro_yasu

【関連記事】
【決勝トーナメント表】FIFAワールドカップ2026 組み合わせ一覧
あまりに酷すぎる…。北中米W杯、最悪のチーム5選
【全試合日程・放送予定の一覧】FIFAワールドカップ2026

『フットボールチャンネル』でサッカー最新情報を見よう!
いち早くチェックしたい方は下記リンクから↓↓


【了】

1 2

KANZENからのお知らせ

scroll top