
アメリカ合衆国代表FWフォラリン・バログン【写真:Getty Images】
FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)で、アメリカ代表FWフォラリン・バログンに科された出場停止処分が一時的に保留された問題は、大会の公平性そのものを揺るがしかねない事態となった。レッドカードは維持されたにもかかわらず、なぜバログンだけが次戦に出場できたのか。メキシコ戦で退場したイングランド代表DFジャレル・クアンサーら、他の選手との違いをFIFAは明確に説明していない。例外的な措置が今後のサッカー界に与える影響、政治介入への疑念とは。スポーツ法務に精通する井神貴仁弁護士に、法的な観点から詳しく話を聞いた。(取材・文・構成:小澤祐作)[2/2ページ]
「FIFAはアルゼンチンを大事にしている風潮がある」

リオネル・メッシとアルゼンチン代表【写真:Getty Images】
――やはり弁護士の方から見ても異例中の異例ということですね。今回のW杯は面白い試合が多いですが、バログン選手の件もあり、疑惑の判定が相次いだ日韓W杯との比較みたいな声も多く聞かれます。
井神弁護士:「当時のことは良く覚えています。(韓国と対戦した)イタリアやスペインから見たら審判のジャッジは物議を醸すだろうなと。
そして、今回はアルゼンチンがそういう(贔屓されている)見方をされている。エジプト戦のゴール取り消し(エジプトの幻の2点目)に関しても、じゃあ今後ゴールの度にどこまで遡るかみたいな話が出ているじゃないですか。正直、サッカーしている人は、ファウルじゃないって思っている人もいると思うし。あそこまで遡る必要があったのかは検証されなければならないと思います。エジプトはかなり良かったじゃないですか。
ああいった前例があると、今後もアルゼンチンはそういう見られ方をしてしまうんですよね。けっこうFIFAがアルゼンチンを大事にしているっていうのは、法律系の集まりとかでもそうなんですよね」
――そうなんですか?
「僕がFIFAのエグゼクティブ・プログラムというスポーツ仲裁をやっている弁護士とか学者を世界から24人選ばれる研修に参加した時も、開催地がスイス、スペイン、アルゼンチンだったんですよ。1週間ずつ3カ国をまわりながら、みんなで法律の議論をして理解を深めていくプログラムだったのですが、そのうちの一か所もアルゼンチンでした。
単なる個人的な感想でしかないですが、FIFAは、ブラジルとかアルゼンチンから出てくる意見をけっこう聞くみたいなところは風潮としてあるなって。僕の感想ですけど、あるんですね。ブラジル人の声が大きいな、アルゼンチンの声大きいな、みたいな。そして、アジアはまだまだ政治力が弱いと思います。
ただ、今は中東諸国の影響力が強まっています。今後はアジア、とりわけ中東勢の政治的影響力がさらに大きくなる時代が来るかもしれません。」
――面白い話ですね。
「ブラジル、アルゼンチンは本当にめちゃくちゃ意見が大きいし、力のある弁護士と思われている人たちもブラジルとかに多いので。ヨーロッパも、スペインとか、イングランドとかは有名な人が多いです。ブラジルは選手の移籍や契約案件が非常に多いため、紛争案件も自然と多くなる。だからブラジルの弁護士って必然的にヨーロッパでも知られているんですよ。そういう人たちがFIFAでも力を持ってしまう。
だから、いろんな研修会とか勉強会とかあると、その人たちを講師で呼んで、その人たちがレクチャーしたりしているし、アルゼンチンの弁護士とかも講師をしています。南米の意見がけっこう重視されているのは、あるかもしれないですね」
――アジアが軽視されているという話もありましたが、それはシンプルにサッカーのレベルが影響しているんですか?
「そういった雰囲気はあります。あくまで個人的な見解ですが、サッカーが弱い国の意見は軽視される。そういう意味でも、ちょっとアジアはやはり、そうですね…。僕が参加したFIFAのエグゼクティブ・プログラムでもアジア人は24人中3人だけだったので。一方でブラジル人だけで4,5人いたんで。
アジアの弁護士だってみんな行きたいじゃないですか?そこから色々なつながりもできるし、つながりができて、仕事が来ることもありますし。そういうのに参加したからエキスパートなんだって言いやすくなるので。だけど、やはりなかなか選ばれない。ただ、政治が下手っていうのもあるんで、そこは自分たちが改善しなきゃいけないところなのかなと思っています。
そういう意味で、宮本(恒靖)さん(JFA会長)が今度、FIFAの理事になりたいっておっしゃってるニュースを見ましたけど、すごく良いことだなって。心から応援したいなと思っています」
――そういう意味ではJFAの発展も大事ですね。
「絶対的に大事ですね。宮本さんって本当に語学も堪能ですし、すごい優秀だっていうお話なので、そこで頑張っていただいて、まずアジアサッカー連盟(AFC)でも影響力を持っていただいて、そこからFIFAの理事、FIFAの中で影響をもってもらうっていうことが、日本サッカーの最終的な強化にもつながるのではないかと考えています。
――貴重なお話をありがとうございました。
(取材・文・構成:小澤祐作)
【プロフィール:井神貴仁(いがみ・たかひと)】
サッカーを中心としたスポーツ法務に精通し、FIFA紛争解決室(FIFA Dispute Resolution Chamber)やスポーツ仲裁裁判所(Court of Arbitration for Sport)など国際的な紛争解決機関において、サッカークラブ側の代理人として多数の案件に関与。移籍・契約・アンチ・ドーピング事案など幅広い紛争に対応。Jリーグ所属プロサッカークラブ複数の顧問を務めるほか、ハラスメント事案に関する第三者委員会の責任者や研修講師としても活動。FIFA法務部門での調査研究やFIFA Football Agent資格の取得など、国際サッカー分野における専門性と実務経験を兼ね備えている。サッカー指導者としての現場経験も有し、競技と法の両面からスポーツに関わる人々を支えることに強みを持つ。趣味は、サッカーをすること。
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