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【独占取材】FIFAはなぜバログンだけを救済したのか? 弁護士が指摘する“異例処分”の問題点「説明するのは無理なんじゃないか」

シリーズ:コラム text by 小澤祐作 photo by Getty Images
フォラリン・バログン
アメリカ合衆国代表FWフォラリン・バログン【写真:Getty Images】



 FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)で、アメリカ代表FWフォラリン・バログンに科された出場停止処分が一時的に保留された問題は、大会の公平性そのものを揺るがしかねない事態となった。レッドカードは維持されたにもかかわらず、なぜバログンだけが次戦に出場できたのか。メキシコ戦で退場したイングランド代表DFジャレル・クアンサーら、他の選手との違いをFIFAは明確に説明していない。例外的な措置が今後のサッカー界に与える影響、政治介入への疑念とは。スポーツ法務に精通する井神貴仁弁護士に、法的な観点から詳しく話を聞いた。(取材・文・構成:小澤祐作)[1/2ページ]

バログンへの対応の説明は「たぶん、無理」

アメリカ合衆国代表FWフォラリン・バログン
ベルギー戦のフォラリン・バログン【写真:Getty Images】


――アメリカ代表のフォラリン・バログン選手の処分について、多くの議論を呼んでいます。率直に、FIFA(国際サッカー連盟)の対応にどのような感想をお持ちですか?

井神貴仁弁護士(以下:井神弁護士):「FIFAの『Disciplinary Code』のところの27条1項と66条の4項の問題になってくると思います。66条だと、レッドカードが出ると、次の試合を含めて、試合に出られないと記述があります。

 そこに『automatically(自動的)』と書いてあって、文言的に、FIFA側が次の試合に出すか出さないか、決められないようにも読める。それが(ラウンド16でアメリカと対戦した)ベルギーサッカー協会の主張でした。だからバログン選手も出場停止という話だったと思います。

 一方で27条は、FIFAの司法機関については、文言的に懲戒処分自体の対象を限定しているわけではないのですが、ある懲戒処分について、執行猶予というか、一時的に保留状態にできると書いてあるんですね。

 どちらの規定が勝つのかというと、解釈上は27条1項自体が対象となる懲戒処分を限定していないので、おそらく文言上はできてしまう。27条1項によって、あらゆる懲戒処分について『ちょっと保留ね』というのができるだろうと、私の見解としては考えています。

 ただ、仮にFIFAの司法機関がそういうことをできるとしても、他の選手と比べてどうなのか。他のケースと比べても、今回がなぜ保留になったのかという説明ができないとダメだと思っているんですね。

 何の説明もないと公平性が害されてしまって、裁量があってもそういうことをしたらダメでしょってことになると思うんです。

 その観点から言うと、バログン選手だけ保留した説明って正直、できないと思うんです。その理由についてもFIFAの公式声明でも何も言っていませんでしたから。総合的に考えました、みたいな。あらゆる状況と証拠を見て決めました、というのは言っているんですけど、なんで?っていうのは書いてなかったので。法律的に考えれば、そんなこと書けないよなと。

 ものすごくファウルが軽くて、本当はレッドカードを出すべきではなかったみたいな話であれば、まだ分からないでもないですが、普通に足裏で踏んでいるので。映像的にも(ジャレル・)クアンサー選手と比べてもそん色ないファウルだったと思うし、説明するのは無理なんじゃないかと思っていますけどね」

なぜクアンサーの処分は変わらなかったのか

イングランド代表DFジャレル・クアンサー
イングランド代表DFジャレル・クアンサー【写真:Getty Images】


――バログン選手については、レッドカード自体は取り消されたわけではなく、あくまで危険なファウルだったことは認められているんですよね?

井神弁護士:「そうですね。レッドカード自体が取り消されたと思っている方もいるんですけど、そこは間違いです。要は、レッドカード自体は維持されたうえで、その次の試合から何試合か出場停止という、試合後の処分について一旦保留状態になってしまった。それが他の選手と違うところだと思います。今大会は多くのレッドカードが出ていると思いますが、バログン選手だけそうなった説明はできないなと思っています」

――サッカーにおいて「執行猶予」という言葉はあまり聞き慣れないのですが、仮にバログン選手が執行猶予期間中にレッドカードを貰うような状況になった場合は、どのような形の処分になるのでしょうか。

井神弁護士:「そこは僕ももう少し調べないといけないのですが、僕の認識だと、保留になった出場停止も復活して、さらに新しい処分も科される、二重のような形になると思います。これは刑事事件に似ていると思っていて、たとえば窃盗した人が執行猶予期間内にまた窃盗してしまったら、刑がプラスで科されることになるんですけど、それと同じような認識なんだと思います。もう少し調べる必要はありますけどね」

――第27条が適用された例でいうと、過去にクリスティアーノ・ロナウド選手がアイルランド戦(2025年11月)で肘打ちを見舞い、当初3試合の出場停止予定だったところ、1試合にとどまったケースがありました。その事実から言うと、バログン選手の件もありましたし、メキシコ戦で退場したクアンサー選手も、2試合ではなく1試合の出場停止など、処分が軽くなる可能性は残されていたように思えます。しかし、そうはならなかった理由についてはどう考えていますか。

井神弁護士:「結局、ここでクアンサー選手も執行猶予という形にしてしまうと、これまで出られなかった人はなんだったのって全部なってしまうし、今後出るレッドカードについても全部執行停止になるべきだという議論になるから、レッドカードが前提として変わってしまうと思うんですよね。その試合だけ出られないのがレッドカードです、その後の試合はすぐ出れますという話になると、たとえば残り10分で2-0で勝っていたらハッキリ言って、ものすごいファウルしたって影響がないという。次の試合出られるし、いいよね、みたいな。

 だから、レッドカードによる次の試合の効果、懲戒処分というのは残す必要がある。というのはFIFAもおそらくは思っていて、一方でクアンサー選手にも執行猶予するとレッドカードの事後的な効果というのは無くなってしまうのと、バログン選手以前の今大会のレッドカードによる出場停止の説明がつかなくなってしまうので、クアンサー選手に関しては何にも言わずに、今まで通りの処分をするしかなかった。執行猶予もせずにそのまま過ごすしかなかったと思います」

――そもそも、執行猶予がなかったとしても、バログン選手が1試合でクアンサー選手が2試合の出場停止という部分で公平性を欠いているという声もあります。

井神弁護士:「そうですね。そこはある意味、1試合なのか2試合なのか3試合なのかというのは、過去の事例と比較して、ある程度FIFAが裁量をもって、決められると思っているんですね。だから1試合か2試合かというこの量の多さについて、議論の余地はあれど、FIFAの権限を尊重すべきだと僕は法律的に思っています。

 ただ、次節出場停止をなくすっていうのは、本当にこれまで、C・ロナウドは思いつくんですけど、それ以前は1940年代にあるとかないとか言われていて、全然違う話になってしまう。C・ロナウドの件についても理由が説明されなければいけません。それって『C・ロナウドだから』という理由ですか?ということになっちゃうので。他の選手は出られないのに。だから、例外的な措置をするんだったら、理由は公開されなければならない。

 なぜなら不公平感を呼ぶから。サッカーは、ある意味では公平性が担保されているからこそ、多くの人が応援できる競技だと思う。だからみんなが応援できるし、勝ったり負けたりっていうすごい魅力があると思うんですけど、そこがなくなってしまうので、純粋に見れなくなる。結果今、アルゼンチンが贔屓されているとか、エジプトが負けたのはどうだとか、そういう話になってきているので、やはり残念だなと思いますね」

執行猶予を認めたことで起きる今後の影響は?

アメリカのドナルド・トランプ大統領
アメリカのドナルド・トランプ大統領【写真:Getty Images】


――バログン選手がアメリカ代表じゃなかったらどうなっていたの?という話ですよね。FIFAは一線を越えてしまった印象があります。

井神弁護士:「UEFA(欧州サッカー連盟)は完全に一線を越えたという声明を出しているんで。これが認められてしまうと、サッカーという競技自体が変わってきてしまう可能性があります」

――まさに、今後の影響についてはどのように感じていますか?

井神弁護士:「結局、今後の影響で言うと、おそらくイングランドサッカー協会もクアンサー選手について問い合わせしたとあったので、多くの協会がレッドカードが出た後に、FIFAに要請をすることになると思います。代表の試合に出ている選手がレッドカードを受けたすれば、もれなく重要な選手ですからね」

――協会からならわからなくもないですが、今回のバログン選手の件はドナルド・トランプ大統領からFIFAに連絡があったとの報道もあります。

井神弁護士:「本来は、W杯のたびに各国の大統領や首相などの政治的な介入をふせぐために、FIFAの規定に、政治家などの第三者の介入をした国の連盟を処罰するような条文もあるんです。だからこそ、今回のような事案は、インパクトの大きい出来事だと思います」

――バログン選手の件はもちろんですが、今大会は主審のジャッジについても多くの議論を呼んでいますね。

井神弁護士:「いちサッカーファンとしての意見は置いておいて、法的に言えば、「フィールド・オブ・プレー」という考え方があり、法の支配が及ばないところだと。たとえば審判のレッドカードについて、それで負けたからこういう経済的損失があって、みたいな争いは裁判所でできないんですね。普通の司法システムを持っている国っていうのは。だから、そこは法的には、審判のジャッジを尊重するのが原則なんです。

 ただ、試合中のジャッジじゃなくて、ああいうバログン選手みたいな感じで、試合後の懲戒処分について、公平性がないような取り扱いがなされると、影響は大きいし、何があったんだって憶測を呼ぶことになる。

 だから、逆に言えば、アルゼンチン対エジプトやアルゼンチン対スイスなどの試合も、公平性が疑われるような話がSNSで盛り上がってしまっているのかなと思っています。毎回、審判の良い悪いみたいな話はありますが、バログン選手の件がそれに拍車をかけてしまった部分はあると考えています」

――やはりこうした影響が出てくるという意味でも、今後のFIFAの対応には注目ですね。

井神弁護士:「本当に、説明してほしいんですよね。直近だと、FIFAの懲戒委員会で17人メンバーがいて、執行は1人の委員が独断で決めたんだみたいな報道もありましたけど。法的には重要な案件は合議体で判断することが一般的です。3人で決めることが多いんですけど。それをなんで1人で決めたのかとか。それが本当だったらっていうのも問題になってくると思うので、説明しないとこの問題は収束しないと思います。

 一方で、バログンだけが執行猶予となった説明はできないと思うから、僕の予想としてはこのまま忘れ去られるのを待つのではないかと。幸いにもベルギーがアメリカに圧勝したから、FIFAとしては手打ちだと思っているんじゃないですかね」

――FIFAが今後、新ルールのようなものを作って正当化する可能性も…

井神弁護士:「こういうことがあったら執行猶予できるよ、みたいな、例示みたいなのを出すか、あるいはもう無視するかですね。結局C・ロナウドとバログンの件は、これが根拠ですって言えないと思うので」

――C・ロナウドの件も具体的な説明がないまま時が流れました。

井神弁護士:「そうなんですよ。まことしやかにC・ロナウドはレッドカードとかほとんど貰ったことないから、みたいなことも言われてますけど。刑事事件でいうと初犯だからみたいなことだと思うんですけど、そしたら初犯の選手はそれなりにいるわけで。よくわからないなと」

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