スペインでは、10代の才能が世界最高峰の舞台で中心を担う。一方、若手不足が叫ばれるイタリアでは、将来を嘱望された逸材でさえ、名門クラブで十分な機会を得られない。ミランの下部組織で「魔法使い」と呼ばれたマッティーア・リベラーリも、その一人だった。「スペインなら、とっくにトップチームで起用されている」と評された19歳は、なぜ古巣ミランではなくコモ1907を選んだのか。その決断からは、イタリアサッカーが抱える育成の問題と、若者が未来を託すクラブの条件が見えてくる。(文:佐藤徳和)[2/2ページ]
「体が大きいからといって…」
「『君は小さい』と何度も言われた。今のサッカーはとてもフィジカル重視だから、運動能力を向上させる必要があるという点では正しかった。でも筋肉の話じゃない。体が大きいからといって、必ずしも強い選手とは限らない。
重要なのは脚力だ。今の選手たちは時速3000キロで走っているみたいなものだ。チャンピオンズリーグを見ればわかる。全く止まらない。カタンザーロで僕は体が大きくなったわけではなく、運動能力が向上したんだ」
USカタンザーロのアルベルト・アクイラーニ監督によって強く欲せられたリベラーリは、25/26シーズンの前半戦こそ出場の機会が限られていたが、昨年12月以降、徐々に出場時間を伸ばし、チームにとって欠かせない一人となった。
開幕から8試合で、6分け2敗と出遅れたチームが、後半戦で巻き返し、5位でフィニッシュ。昇格プレーオフでも決勝まで残り、リーグ3位のACモンザに2戦合計2-2(引き分けの場合は、リーグ戦上位のチームが昇格)と最後まで抗った。
それは、リベラーリが徐々に戦力となったことと重なる。リベラーリの活躍なくして、USカタンザーロの巻き返しはなかっただろう。
もはや、セリエBに留まる選手ではない。移籍市場が開幕する前から、リベラーリの名前はメディアを賑わせた。
アクイラーニが新監督となったUSサッスオーロ、イニャツィオ・アバーテが指揮官に就任したトリノFC(アバーテはミランのプリマヴェーラ時代にリベラーリを指導した経験を持つ)、さらに、ルベン・アモリム率いるミランも争奪戦に名乗りを上げた。
けれども、リベラーリが選択したクラブは、元指揮官が監督を務めるクラブでもなく、古巣でもない、コモ1907だった。スペイン人監督セスク・ファブレガスが指揮し、来季はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)にクラブ史上初めて参戦するチームである。
リベラーリに提示した条件は、ミランよりも低いものだったという。それでも、リベラーリはなぜコモ1907を選択したのか。
イタリア・メディア『ウルティモ・ウオーモ』が分析する。
なぜ古巣のミランではなくコモ1907だったのか
「ファブレガスは、新シーズンにカタンザーロで担っていたのと似た役割をリベラーリに与えるかもしれない。一方、アモリムも、自身の3-4-2-1システムにおける右の攻撃的MFとして、リベラーリを理想的な存在と高く評価していたようだ。それはまさに、カタンザーロでも務めていたポジションだった」
つまり、コモ1907でもミランでも、リベラーリには同様の役割が用意されていたということだ。しかし、問題は、ミランのアモリム監督の立場にあると『ウルティモ・ウオーモ』は指摘する。
「アモリムの構想は長続きするのだろうか。もし彼がイタリア特有のプレッシャーによって自らのサッカーを曲げざるを得なくなったら。そして、さらに悪いことに解任されてしまったら、リベラーリはどうなるのか」
リベラーリ側は、アモリムの立場がまだ確立されておらず、将来も不透明であるとみて、それがコモ1907を選択した理由の一つになったと考えている。
さらに、コモ1907は今季、CLにも出場する。それは、ミランにはないものだ。これは、リベラーリにとって重要な要素であり、同時にコモ1907側にとっても意味があるものだ。
UEFA(欧州サッカー連盟)の登録規定を満たすため、コモ1907はイタリア人選手、あるいはイタリアで育成された選手を獲得しなければならない。その意味でリベラーリは、イタリア人であり、ファブレガスが抱くサッカーをピッチ上で体現できる理想的な選手である。
しかも、獲得費用も抑えられる存在だった。移籍金はわずか600万ユーロ(約11.1億円)にすぎない。キャリアの違いはあれ、21歳のマルコ・パレストラがアタランタからチェルシーFCに5500万ユーロ(約102億円)で売却されたことを考えると、破格であるとしか言いようがない。
そして、おそらくは、ファブレガスという存在も大きかったのではないか。いや、むしろ、その存在が決定的だったのかもしれない。
イタリア人監督とは一線を画す指導者であり、それまでのキャリアにとらわれず、実力でピッチに立つ11人を選ぶ。若き才能に満ちた39歳の青年監督の指導を受けてみたいと切望していたに違いない。
ファブレガスの指導によって、リベラーリがどのようなプレーを見せ、これからどのような成長を遂げるのか。期待に胸が躍らずにはいられない。
(文:佐藤徳和)
【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru
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