
【写真:Getty Images】
2026年8月19日、アストン・ヴィラはパルマから日本代表GK鈴木彩艶の獲得を発表した。この移籍は、鈴木自身のキャリアだけでなく、日本サッカーにも大きな影響を与える可能性を秘めている。世界最高峰のプレミアリーグで、ウナイ・エメリの下でプレーすることで、鈴木はどのような進化を遂げるのか。その可能性を考察する。(文:安洋一郎)[1/2ページ]
急転直下で決まったアストン・ヴィラ移籍

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まさに急転直下の移籍劇だった。
一度はパリ・サンジェルマンへの移籍が確実と報じられていた鈴木彩艶だったが、メディカルチェックを目前に欧州王者との交渉が破談。その数日後、アストン・ヴィラへの移籍が決定した。
今夏のFIFAワールドカップ2026(北中米W杯)で日本代表のゴールマウスを守り、さらに評価を高めたGKは、9月に34歳を迎えるGKエミリアーノ・マルティネスの後継者として獲得された。
2023年と2024年にヤシン・トロフィーを受賞した世界最高峰のGKを引き継ぐだけに、ハードルが非常に高いのは間違いない。
ただ、ウナイ・エメリ体制のアストン・ヴィラを全試合追ってきた筆者としては、今回の移籍は双方にとって非常に有益なものだと考えている。
なぜなら、鈴木がすでに持っている武器を生かしながら、世界トップレベルのGKに必要な能力を伸ばせるからだ。
アストン・ヴィラが求めるGK像「ビルドアップの重要な一員」
【写真:Getty Images】
まずは、アストン・ヴィラが求めるGK像について、エメリの戦術的志向から整理したい。
スペイン人指揮官のベースとなる考え方が、「相手を引き出す」ことだ。GKとCBが最終ラインでボールを保持して相手を前に引き出し、中盤や背後のスペースを作り出す。GKもそのビルドアップの重要な一員となり、「疑似カウンター」を狙うのが彼らの王道の考え方だ。
イギリス『Sky Sports』によると、2023/24シーズンのエミ・マルティネスは、プレミアリーグで「ボールを保持した時間」と「1回のタッチあたりの保持時間」の両方でリーグ1位を記録した。
一方で、エメリは相手の出方に応じて複数のパターンを持っている。常に最終ライン付近でボールを回すわけではない。
例えば、2025/26シーズンのプレミアリーグ第23節ニューカッスル・ユナイテッド戦では、エメリ監督がエミ・マルティネスに対し、相手守備陣の背後へ徹底的にロングボールを蹴るよう指示した。
これはマンツーマンディフェンスで守る相手への対策で、この試合ではシーズン最多となる39本のロングボールを蹴っている。
このようにエメリは、GKを一人のビルドアップ要員として活用しながら前進を図る。
2023年に『Sky Sports』のインタビューに応じたエメリは、「20年前はGKがボールに触れることはほとんどなかった。今では、時にはGKが誰よりも多くボールに触れる選手になることもある」と、GKの役割の変化について語っている。
ロングキックだけではない。鈴木彩艶に求められる進化

アルゼンチン代表GKエミリアーノ・マルティネス【写真:Getty Images】
では、エメリがGKに求める能力に対して、鈴木はどこまで適応できるのか。
日本代表GKの魅力の一つが、ロングキックの精度と飛距離だ。これはエミ・マルティネスとの共通点でもある。ほかにもクロスへのキャッチングやパワーを活かしたセービングなど、似たようなプロフィールの持ち主だ。
その上で、ヴィラではより多くのタスクを任されることになる。ハイラインを敷いて守るチームだからこそ、相手のロングボールに対する飛び出しでも、より高度なプレーが必要になる。まさに、この部分でエメリの下で大きく成長したのがエミ・マルティネスだった。
ただし彼も、初めからエメリ監督が求めるプレーを完璧にこなせたわけではない。
アルゼンチン代表GKは2024年8月に新契約を結んだ際のインタビューで、アストン・ヴィラでの成長を以下のように語った。
「ウナイ(・エメリ)がここに来てから、私は大きく変わりました。以前は低い位置でのブロックやクロスへの対応が得意でしたが、(GKコーチの)ハビ(・ガルシア)とウナイのおかげで、ディフェンスをカバーし、スイープするといったCBらしいプレーができるようになりました。今では相手のプレーが読めるようになって得意になりました」。
鈴木の場合、プレミアリーグ開幕直前の合流となるため、いきなり試合の中で完璧なプレーを見せるのは難しいだろう。
ただし、今のアストン・ヴィラには、出場時に8勝4分3敗を記録してきた元オランダ代表GKマルコ・ビゾットが2番手として控えている。
そのため鈴木にいきなりすべてを背負わせる必要はない。ビゾットを起用しながら、鈴木を段階的にチームへ適応させていくことも可能だ。