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コラム 8時間前

イ・ガンインは久保建英より“上”? ビッグクラブに評価される理由。日韓の至宝を比較する意味はあるのか【コラム】

シリーズ:コラム text by 小澤祐作 photo by Getty Images

久保建英とイ・ガンイン
久保建英とイ・ガンイン【写真:Getty Images】



 韓国代表MFイ・ガンインがアトレティコ・マドリード移籍後すぐに結果を残したことで、日本代表MF久保建英との比較が再び活発になっている。ともに2001年生まれの左利きで、若くしてスペインで評価を高めてきた2人だが、現在のプレースタイルやチームで担う役割は大きく異なる。果たして、本当にイ・ガンインは久保に“差をつけた”のか。昨季のスタッツや両者への評価をもとに、その違いを紐解く。(文:小澤祐作)[1/2ページ]

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イ・ガンインの活躍に日本人が嫉妬?

イ・ガンイン
イ・ガンインは開幕節でさっそくゴールを決めた【写真:Getty Images】



「久保建英よりイ・ガンインのほうがすごい」
「久保建英はイ・ガンインに差をつけられたな」

 ここ数ヶ月で、SNSを中心にこうした声を目にする機会が増えた。

 現地時間7月25日、アトレティコ・マドリードは、パリ・サンジェルマン(PSG)から韓国代表MFイ・ガンインを獲得したことを発表。背番号は、それまでアントワーヌ・グリーズマンが背負っていた伝統の「7番」に決まり、日本でも大きな話題となった。

 韓国の至宝とも称されてきたレフティーは、さっそく新天地で躍動している。ラ・リーガ第1節のマラガ戦では、カットインから鮮やかな左足のミドルシュートを突き刺し、移籍後初ゴールをマーク。同第3節のセビージャ戦では、アレックス・バエナの先制点をお膳立てし、3-1の勝利に貢献した。

 久保とイ・ガンインは、以前からたびたび比較されてきた。ともに若くしてスペインへ渡り、体格も大きく変わらない。利き足は左で、2001年生まれという点まで同じだ。こうした共通点の多さに、日本と韓国のライバル関係も相まって、自然と比較の対象になってきた。

 そして、イ・ガンインがPSGに続いてアトレティコという欧州屈指のクラブから評価され、新天地でも結果を残していることで、「久保は差をつけられた」とする見方も出てきている。

 もちろん、久保にもこれまでビッグクラブへの移籍が取り沙汰されてきた。そうした状況を踏まえれば、キャリアという側面でイ・ガンインが一歩先に進んでいるように映るのも理解できる。

 しかし、それだけをもってイ・ガンインが久保を完全に上回ったと結論づけるのは早計だろう。

 そもそも彼らは、同じようなポジションでプレーしているように見えて、チームから求められている役割が大きく異なるからだ。

イ・ガンインと久保建英の明確な違いとは?

久保建英
久保建英はボールを持つと必ずと言っていいほど1対1を仕掛けている【写真:Getty Images】



 共通点の多い2人だが、ピッチ内におけるプレースタイルには明確な違いがある。

 久保は優れたテクニックと創造性、サッカーIQを武器とするアタッカーだ。ボールを受ければまず相手ゴールへ矢印を向け、ドリブルやアイデアを駆使して目の前の守備者を攻略する。そして自らボールを前進させ、シュートやラストパスといった決定的なプレーにつなげていく。

 一方のイ・ガンインもサイドでプレーできる選手だが、久保に比べればよりMF的に振る舞う。高精度のキック、ボールキープ、プレス回避、周囲とのコンビネーションを武器に、味方を使いながら攻撃を前進させていくプレーメーカータイプである。

 簡単に言えば、久保は「自分が動くことで相手を動かす」選手であり、イ・ガンインは「ボールを動かすことで相手を動かす」選手だ。

 似ているようで、チームから与えられている役割はまったく違う。

 昨季のリーグ戦におけるデータにも、その特徴は表れている。

 久保とイ・ガンインの主なスタッツを見ると、とりわけ興味深いのが90分あたりのタッチ数と、ボールを前方へ運ぶプログレッシブキャリーだ。

 90分あたりのタッチ数は久保の約52回に対し、イ・ガンインは約82回。一方、プログレッシブキャリーでは久保が約2回、イ・ガンインが約1回となっている(参照元:fbref.com)。

 つまり、試合の中でより頻繁にボールへ関わっているのはイ・ガンインだが、自らボールを持って敵陣方向へ前進させるプレーは久保の方が多い。

 この違いは象徴的だ。

 イ・ガンインは何度もボールを受け、味方へ預け、ポジションを取り直して再び受ける。その繰り返しによってチーム全体の攻撃を前進させる。

 対して久保は、ボールを受けたところから自ら局面を変える。ドリブルで相手を剥がし、そのまま敵陣深くまで運ぶ。ボールへの関与回数そのものよりも、一度のボールタッチから大きな変化を生み出そうとする傾向が強い。

 もちろん、この数字にはそれぞれが置かれていた環境も大きく影響している。

 PSGにはフビチャ・クヴァラツヘリアやデジレ・ドゥエ、ウスマン・デンベレら、自力で局面を打開できる優秀なアタッカーが揃っていた。イ・ガンイン自身が毎回ドリブルで相手を剥がし、ボールを前へ運ぶ必要はない。むしろ、彼らへ良い状態でボールを届け、攻撃を循環させることも重要な仕事になる。

 一方の久保は、レアル・ソシエダの攻撃陣でも屈指の個人能力を持つ。イマノル・アルグアシル監督時代から、攻撃が停滞した際には久保の1対1やアイデアに局面打開を託す場面が少なくなかった。

 結果として久保は、ボールを預かるだけでなく、「自分で何とかする」ことを求められるアタッカーになった。

 この役割の違いこそ、2人に対する評価のされ方にも影響しているのではないだろうか。

なぜイ・ガンインはビッグクラブから評価されるのか?

パリ・サンジェルマンのイ・ガンインとルイス・エンリケ監督
ルイス・エンリケ監督やディエゴ・シメオネ監督が評価するイ・ガンインの強みとは【写真:Getty Images】



 イ・ガンインには、得点やアシストだけでは測れない価値がある。

 そのヒントになるのが、ルイス・エンリケ監督とディエゴ・シメオネ監督による評価だ。

 ルイス・エンリケ監督はイ・ガンインについて、ボックス・トゥ・ボックスのMFを基本ポジションとしながら、ウインガーやセンターフォワード、偽9番、セカンドトップでもプレーできると説明していた。

 そしてアトレティコ加入後、シメオネ監督も韓国代表MFを「万能な選手」と評価。サイドだけでなく、ライン間やセカンドトップでも起用可能であり、チームの必要性に応じてポジションを変えられるとの考えを示している。

 2人の名将が共通して評価しているのは、イ・ガンインの「万能性」である。

 試合展開やチーム状況によって、自らの役割を変えることができる。ボールを保持する必要があれば中盤でパスを引き出し、チャンスを作る必要があれば高い位置へ出ていく。サイドでも中央でもプレーでき、試合によって求められる仕事を変えられる。

 これは紛れもなく、イ・ガンインが持つ大きな能力の一つだ。

 これまで各クラブで毎シーズン大量のゴールやアシストを記録してきたわけではない。それでもPSG、そしてアトレティコというビッグクラブから評価された背景には、特定の役割に依存せず、さまざまな戦術の中へ組み込めるポリバレント性があるのではないだろうか。

 一方、久保はイ・ガンインよりも明確にアタッカー色が強い。それゆえに、評価されるために求められるものも違う。

 ドリブルで相手を抜いたか。決定機を作ったか。ゴールを奪ったか。アシストを記録したか。あるいは、停滞した試合を自らの力で動かしたか。久保には、より「試合を決定づける仕事」が要求されやすい。

 だからこそ、同じ0ゴール0アシストでも2人の見え方には違いが生まれる。

 イ・ガンインは得点に直接絡めなくても、ボールを循環させ、プレスを回避し、ポジションを変えながらチームを機能させることで評価を得ることができる。

 対して久保は、攻撃を前進させるだけでは十分と見なされないことがある。自ら局面を壊し、その先の決定的な仕事まで求められる。それだけ難しい役割を背負っているとも言えるだろう。

「ビッグクラブから評価されたイ・ガンインと、評価されなかった久保」そう単純に整理するのは適切ではない。

 むしろ、完成された組織の中で複数の役割を担えるイ・ガンインは、ビッグクラブにとって「使い道」をイメージしやすい選手だ。

 一方の久保は、自らの個で違いを生み出すことを期待されるアタッカーであり、チームから託されるタスクも、評価のハードルも必然的に高くなる。

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