FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)を終え、日本代表は新たな戦い方に取り組み始めている。その一つが、長谷部誠コーチが担当する守備だ。前線から積極的に相手を捕まえ、個々がデュエルで勝ち切る。「W杯の時とは変わった」と語る鎌田大地は、その狙いを誰よりも理解し、若手も加わったチームへ浸透させようとしている。2027年のAFCアジアカップへ向け、“日本代表の心臓”は何をもたらそうとしているのか。(取材・文:元川悦子)
エクアドル戦でも鎌田大地が中盤のタクトを振るう
2027年のAFCアジアカップ サウジアラビアに向け、9・10月シリーズの序盤2戦を終えた日本代表。24日のウルグアイ戦は3-1、28日のベネズエラ戦は2-1と連勝したが、新戦力や若手のトライが優先された印象だった。
しかしながら、10月1日のエクアドル戦は位置づけが微妙に違ってくる。
対戦国は日本と同じFIFAワールドカップ2026(北中米W杯)ベスト32進出国であり、今回からの2戦は「キリンカップサッカー2026」という国際大会。ここで勝利しなければ、5日の決勝に進めない。
その相手がパナマなのか、ニュージーランドなのかは1日・第1試合の結果次第だが、日本としてはホストとして勝ち切る必要がある。
「エクアドルは非常に守備の固いチーム。シンプルに堅守速攻に持っていくのを得意としていて、地上戦でも空中戦でもゴールに向かっていける。2026年W杯南米予選でも5失点、2敗しかしていない」
森保一監督はそう強調する。現状のベストメンバーを送り出し、確実に敵を攻略して勝ち切らなければならない。
中盤でタクトを振るうと見られるのは、鎌田大地だろう。ウルグアイ戦では後半45分、ベネズエラ戦では前半45分プレーした彼は確実にゲームをコントロール。後者では初キャップだった熊坂光希、同2戦目の田中聡を巧みにリードし、彼らのよさを引き出そうとした。
それと同時に3ヵ月後の大舞台を視野に入れ、守備強度の引き上げを意識している。局面のバトルに勝ってゲームを優位に運べる集団にすべく、積極的なトライを続けているのだ。
「自分たちはハセさんたちが思っているものを…」
「今の自分たちは攻撃の部分はある程度、どことやってもうまくいく。そのうえで守備でいい形を作れれば、もっといい攻撃ができると考えているので、より前から守備をハメていくことをこの活動から取り組んでいます。
リスキーな部分ももちろんあるんですけど、個々のデュエルのところにはすごくこだわっている。マンツーマンでやると、ボールが来て10回中8回うまく取れても、2回入れ替わられちゃうとピンチになるので、そこをしっかりとやらないといけない」
鎌田はエクアドル戦に向けて気を引き締めていた。
「前からアグレッシブにボールを取りに行く守備」というのは、今シリーズからオープンプレーの守備担当になった長谷部誠コーチの指示だ。
鎌田と長谷部コーチはフランクフルト時代に5シーズン共闘した間柄。21/22シーズンのUEFAヨーロッパリーグ(EL)制覇もともに経験した。
強い信頼関係で結ばれている先輩が提唱している新戦術なのだから、鎌田としても自分が率先して取り組み、チーム全体に浸透させていこうという思いが強いのだろう。
「(相手への)行き方がW杯の時とは変わって、今はマンツーでやっているので、ボランチがどこまでついていっていいのかという迷いがありましたけど、ハセさんが『ハッキリついていく』と言っていたので、前回の試合(ベネズエラ戦)では後半、それがより明確になったと思います。
チームの理解度は上がりましたけど、ボランチがついていくデメリットもある。でも、それを求められているので、自分たちはハセさんたちが思っているものを100%近い状態で表現できるようになっていけたらいい。そう考えています」
確かにベネズエラ戦では田中聡が前へ前へという意識を鮮明にし、高い位置に上がっていったところをかわされるようなシーンも散見されたが、ボランチとしてはそれでも奪い切る守備強度や球際の強さを前面に押し出し、結果につなげていかなければいけない。
日頃からイングランド・プレミアリーグという最高峰レベルの舞台で戦い抜いている彼はその基準を日本代表のスタンダードにしたいという意識が高まっているはずだ。
アジアカップで一区切り? 若手に託すもの
「アジアカップになれば、正直、自分たちの個のレベルはアジアで高い方だと思います。そのうえで、デュエルや1対1の部分で勝たなければいけない。それを南米の簡単じゃない相手に対してトライできているのはいいこと。エクアドル戦も難しい試合になると思いますけど、積極的にトライしたいですね」
彼は今回の4連戦で最強と言っていい2026年W杯32強進出国に守備面で互角以上の戦いを見せていく構えだ。
今回はW杯でも“鉄板コンビ”と言われた佐野海舟との共闘になると見られるため、ボール奪取力は間違いなく上がるだろう。
彼ら2人の関係性が向上していくことも大きな意味があるが、それだけではアジア制覇には手が届かない。
森保体制で挑んだ過去のアジアカップを振り返っても、2019年UAE大会は守田英正の大会直前の負傷で塩谷司を追加招集。初戦・トルクメニスタン戦では冨安健洋を急遽、ボランチに上げたが、苦戦を強いられた。
そして決勝では遠藤航が負傷し、代役で塩谷が入って柴崎岳とコンビを組んだが、そこにスキが生まれ、伏兵・カタールにタイトルをさらわれている。
2024年大会も遠藤と守田の両ボランチの関係性がなかなか噛み合わず、旗手怜央が穴埋め役としていい味を出し始めたが、その矢先のラウンド16・バーレーン戦で負傷。最終的にベスト8でイランに敗れるというまさかの事態に直面した。
つまり、「誰が出ても同じような攻守の役割を果たせる」という鉄壁の中盤を可能な限り形成しておくことが、大舞台で頂点に立つ近道だ。鎌田は過去2度のアジアカップには参戦していないが、さまざまな経験値からその重要性を認識している。
今回は彼自身、若い田中聡や佐野航大らをグループに入れようと試みているが、彼らもうまく使いつつ、総合力をアップさせながらエクアドルを圧倒できれば理想的。それが森保ジャパンの集大成を飾ることにつながっていくに違いない。
「アジアカップ以降のことは何も決めていない」と今シリーズ期間中に話している彼は、もしかすると森保体制で代表活動に区切りをつける可能性もある。
その分、今回と11月のシンガポール遠征、2027年1月のアジアカップに賭ける思いは強いだろう。
“日本代表の心臓”とも言える背番号15がエクアドル戦で圧倒的存在感を示すところを、我々は今一度、しっかりと脳裏に焼き付けておきたいものだ。
(取材・文:元川悦子)
【著者プロフィール:元川悦子】
1967年、長野県生まれ。94年からサッカー取材に携わり、ワールドカップは94年アメリカ大会から2026年北中米大会まで9回連続で現地に赴いた。「足で稼ぐ取材」がモットーで、日本代表は練習からコンスタントに追っている。著書に『U-22』(小学館)、『黄金世代』(スキージャーナル)、「いじらない育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(NHK出版)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)などがある。
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【了】




