
ブンデスリーガ第8節、バイエルン・ミュンヘン対ボルシア・ドルトムントの模様【写真:Getty Images】
「おそらく過去15〜20年で最高のバイエルンだ」。ボルシア・ドルトムントのニコ・シュロッターベックは、デア・クラシカーを前にそう語っていた。しかし、10月31日の一戦を2-2で終えた後、ドイツ代表DFの口から出たのは「相手に敬意はあった。しかし、畏怖はなかった」という言葉だった。2度のビハインドを追いついたドルトムントには、何が起きていたのか。(文:川﨑ゆうき)[2/2ページ]
2度のビハインドから追いついたドルトムント。土壇場で発揮した粘り強さ

終了間際に同点弾をあげたファビオ・シウヴァ【写真:Getty Images】
戦術的な変更だけでなく、ドルトムントが示した精神的な強さも見逃せない。
34分にはベリンガムがネットを揺らしたものの、オフサイドによって得点は認められなかった。その直後の38分、バイエルンのコンラート・ライマーに先制ゴールを許す。試合の流れが傾いても不思議ではない展開だった。
さらに後半、バイエルンはハリー・ケインがPKを獲得。しかし、同選手が57分に放ったキックはクロスバーを直撃し、ドルトムントは追加失点を免れた。
その3分後、敵陣でシュロッターベックがボールを奪うと、カーニー・チュクエメカを経由してセール・ギラシが同点ゴールを決める。前線から積極的にボールを奪うという戦術的な狙いが、得点につながった場面だった。
66分にはダヨ・ウパメカノに再び勝ち越されたが、それでもドルトムントは諦めなかった。89分、途中出場のファビオ・シウヴァが右足のシュートを決め、土壇場で2-2に追いついた。
試合後、シュロッターベックは『SPORT1』が伝えたコメントの中で、「相手に敬意はあった。しかし、畏怖はなかった」と振り返っている。
この言葉は、試合前の「過去15〜20年で最高のバイエルン」という評価と対照的だ。
相手の強さを認めることと、恐れて消極的になることは違う。ドルトムントは自分たちの戦い方を変え、敵地でも積極的に勝負を仕掛けた。
GKグレゴール・コベルも、コヴァチ監督の4バックへの変更を高く評価し、自分たちは勇敢にプレーしたと語っている。
また、同点弾を決めたシウヴァは試合後、勝つためにミュンヘンへ来たと明言。これが今季のチームに求められる姿勢だと強調した。
『SPORT1』は今回の引き分けについて、以前のドルトムントなら失点から崩れていたかもしれないと分析している。
2度のビハインドという厳しい状況を乗り越えたことは、コヴァチ体制で育まれてきたチームの粘り強さを示すものだった。
スコアは2-2、期待得点は大差。バイエルンとの実力差は埋まったのか

デアクラシカー終了後のドルトムントの選手たち【写真:Getty Images】
ただし、今回の引き分けをもって、ドルトムントがバイエルンと完全に互角になったと評価するのは早い。
データサイト『FotMob』によれば、バイエルンのシュート数は23本、ドルトムントは12本。期待得点(xG)は4.48対0.74と、極めて大きな差があった。
バイエルンはケインのPK失敗を含め、4度もシュートがゴールの枠に阻まれている。ドルトムントの粘り強さは確かだったが、引き分けという結果には幸運も伴っていた。
実際、ドルトムントが互角に渡り合えた時間帯は、主に前半だった。
コヴァチ監督は後半、【4-4-2】から【4-3-3】へとシステムを変更している。試合開始直後に仕掛けた大胆な一手は、90分間を通じて維持されたわけではなかった。
対照的にホームチームはハーフタイムを経て対応を見せ、後半のシュート数は16対6と大きな差がついた。前半に中盤でのプレッシングを機能させたドルトムントだったが、後半は自陣で守備に追われる時間が長くなった。
もちろん、4-3-3への変更が劣勢を招いたと断定することはできない。むしろ、前半に機能した4-4-2を維持するか、新たな配置で対応するかという判断を迫られたこと自体が、バイエルンの強さを物語っている。
ここに、両者の力関係を考えるうえでの重要な論点がある。
ドルトムントは以前より勇敢にプレーできるようになった。しかし、バイエルンと同じ水準の攻撃力や、90分間を通じて試合の主導権を争い続ける力を手に入れたわけではない。今回の一戦で示した戦術的な柔軟性と粘り強さを、いかにして安定したパフォーマンスにつなげるか。それが、優勝争いを続けるための課題となる。
その上で、バイエルンも万全の態勢ではなかった事実にも触れておくべきだろう。コンパニ監督は10月23日、セカンドチームの練習を見学中に倒れ、病院へ搬送された。髄膜刺激症状が確認され、28日に退院したものの、療養のためこの一戦も欠席。アシスタントコーチのアーロン・ダンクスが指揮を執った。
さらに試合中には、イスマエル・サイバリ、セルジュ・ニャブリ、マイケル・オリーズが負傷交代を余儀なくされている。その状況下にあって、大量の決定機を生み出したのだ。
とはいえ、アリアンツ・アレーナでの90分が無意味だったわけではない。
約18年ぶりの4-4-2という大胆な選択。相手の強さを認めながら、自分たちから勝負を仕掛ける姿勢。そして、2度のビハインドを追いつく粘り強さ。
「過去15〜20年で最高のバイエルン」に対し、ドルトムントは実力差を完全には埋められなかった。しかし、恐れることなく戦うための方法を示した。
畏怖は消えた。残された実力差をどう埋めるのか。その答えを示すことが、コヴァチ監督とドルトムントに課された次の仕事となる。
(文:川﨑ゆうき)
【著者プロフィール:川﨑ゆうき】
都内のラジオ局で番組制作に従事した後、ライターへ転身した。イギリス系音楽メディアのチーフ・エディターを歴任し、現在は様々な媒体に寄稿する。ロシア語能力検定と審判ライセンスは3級。
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