
ブンデスリーガ第8節、バイエルン・ミュンヘン対ボルシア・ドルトムントの模様【写真:Getty Images】
「おそらく過去15〜20年で最高のバイエルンだ」。ボルシア・ドルトムントのニコ・シュロッターベックは、デア・クラシカーを前にそう語っていた。しかし、10月31日の一戦を2-2で終えた後、ドイツ代表DFの口から出たのは「相手に敬意はあった。しかし、畏怖はなかった」という言葉だった。2度のビハインドを追いついたドルトムントには、何が起きていたのか。(文:川﨑ゆうき)[1/2ページ]
月額最安値で視聴するならDMM×DAZNホーダイ[PR]
「過去15〜20年で最高」。バイエルンの強さを示す数字

バイエルン・ミュンヘンの選手たち【写真:Getty Images】
今季リーグ戦最初のデア・クラシカーは、近年でも特別な意味を持つ一戦だった。
バイエルン・ミュンヘンとドルトムントは、ともに開幕7試合を5勝2分の無敗で終え、勝ち点17で並んでいた。前者は25得点でリーグ最多、後者は4失点でリーグ最少。攻撃力と守備力、それぞれに強みを持つ首位と2位が、アリアンツ・アレーナで激突した。
対戦前にはメディアや識者の間で「Augenhöhe(対等)」という言葉が散見されたが、両チームの実力が互角だと考えるのは早計だった。
バイエルンは昨季、ブンデスリーガ史上最多となる122得点を記録。34試合でわずか1敗、勝ち点89という圧倒的な成績で優勝を果たした。2位ドルトムントとの勝ち点差は「16」。数字を見れば、両者の間に大きな隔たりがあったことは明らかだ。
バイエルンの完成度は、歴史的な名チームとの比較を生んでいた。5月にはヨシュア・キミッヒが2025/26シーズンのチームについて、自身が経験した2020年の3冠達成シーズン以上だったと評価。今季開幕前の英紙『ガーディアン』の報道でも、ヴァンサン・コンパニ監督のチームをジョゼップ・グアルディオラ時代の最盛期と比較する見方があった。
そんな相手について、シュロッターベックは現地時間10月27日のブレーメン戦後、『SPORT1』の取材に「おそらく過去15〜20年で最高のバイエルンだ」と発言している。
近年の直接対決でも苦戦が続いていた。『Transfermarkt』によれば、ドルトムントは直近18回のバイエルン戦でわずか1勝。対等なライバル関係を取り戻したとは言い難い状況だった。
しかし、今回のドルトムントは、少なくとも試合への入り方において過去とは異なっていた。その変化を生み出したのが、ニコ・コヴァチ監督の戦術的な決断だった。
約18年ぶりの4-4-2。コヴァチ監督が仕掛けた戦術的な奇襲

ドルトムントを率いるニコ・コヴァチ監督【写真:Getty Images】
コヴァチ監督がバイエルン戦で仕掛けたのは、試合開始直後のシステム変更だった。
先発メンバーは従来の3バックを思わせる顔ぶれだったが、キックオフから数分後、ドルトムントは4バックを基本とする【4-4-2】へ移行した。スポーツディレクターのニルス=オーレ・ブックによれば、これは事前に計画されたものだったという。
ドルトムント公式サイトによると、同クラブがブンデスリーガで【4-4-2】を基本布陣として採用したのは、2008年9月21日のホッフェンハイム戦以来。ユルゲン・クロップ監督の就任1年目まで遡る、約18年ぶりの選択だった。
コヴァチ監督は2025年2月の就任当初、【4-2-3-1】を用いていた。しかし、成績が安定せず、同年3月には【3-4-2-1】へ変更。シーズン終盤の巻き返しにつなげ、その後も3バックを基本システムとしてチームを作り上げてきた。
そうした経緯を踏まえれば、今回の変更は大胆なものだった。とはいえ、コヴァチ監督にとって【4-4-2】は未知のオプションではなかった。
2020年11月1日、モナコを率いていた際には、ボルドー戦で従来の【4-3-3】から【4-4-2】へ変更。ウィサム・ベン・イェデルとケヴィン・フォラントを2トップに据え、4-0で快勝をおさめた。フォラントが2得点、ベン・イェデルも1得点を挙げた。
当時の『レキップ』は、このシステム変更によってモナコがシーズン最高の試合を見せたと評価。コヴァチ監督自身も試合後、2人のセンターフォワードが互いの特徴を生かしていたことを説明している。フォラントが背後へ抜け出し、ベン・イェデルが下がってボールを受ける。選手の特性を踏まえた配置だった。
さらに2022年9月、ヴォルフスブルクの監督として臨んだフランクフルト戦でも【4-4-2】を採用している。開幕5試合未勝利だったチームは、守備の安定を図った一戦で1-0の勝利を収めた。
モナコでは攻撃面の改善に、ヴォルフスブルクでは守備の立て直しに。同じ【4-4-2】でも、採用の目的は異なっていた。
今回もまた、目の前の相手に合わせた決断だった。
前半のボール保持率は50%。大胆な戦術変更が生んだ効果

ドルトムントでプレーするセール・ギラシ【写真:Getty Images】
コヴァチ監督はバイエルン戦の前日練習で4バックを試していたことを試合後に明かしている。狙いは、相手に高い位置からプレッシャーをかけることだった。
実際の布陣は、単純な左右対称の【4-4-2】ではない。マクシミリアン・バイアーが右サイドに広がる一方、フェリックス・ヌメチャは左のハーフスペースに位置した。中央にはジョーブ・ベリンガムとジョーイ・フェールマンを配置。こうした非対称の構造によって、中盤でのプレッシングとボール保持を両立させようとした。
「4バックにしたことで、バイエルンに対してより高い位置からプレスをかけられた。中盤に1人多く配置できた」
試合後、コヴァチ監督はドルトムント公式の会見で、その意図を説明している。
『SPORT1』によれば、過去2度のバイエルンの本拠地戦では、前半のボール保持率がそれぞれ75%、59%とホームチームに大きく傾いていた。しかし、今回は前半終了時点で50%対50%。ドルトムントはボールを持つ時間を確保し、バイエルンから一方的に押し込まれる状況を避けた。
前半のシュート数もバイエルンの7本に対してドルトムントは6本。少なくとも前半は、互いに主張をぶつけ合う展開だった。
過去の成功体験に固執せず、自ら定着させた3バックさえ変更する。そこには、異なるクラブで複数のシステムを使い分けてきた指揮官の引き出しの多さが表れていた。