
サッカー日本代表の谷村海那【写真:田中伸弥】
9月28日のベネズエラ戦でA代表デビューを果たし、10月1日のエクアドル戦では先発出場。28歳で初めてつかんだ日本代表の舞台で、谷村海那がピッチに立った時間は、54分間と決して長くはない。それでも、世界トップレベルの選手たちと過ごした時間は、谷村自身の基準を変えるには十分だった。代表活動を終え、横浜F・マリノスへ戻った谷村は、「自分の基準も上がった」と2週間余りの特別な時間を振り返った。(取材・文:竹中愛美)[1/2ページ]
「海那コール」が響いた場所から、日本代表へ

谷村海那はエクアドル戦でA代表初先発を果たした【写真:田中伸弥】
10月1日のエクアドル戦、日本代表のスタートリストの上から5番目に谷村海那の名前があった。目に入った瞬間には、にわかには信じがたかった。
その3日前、ベネズエラ戦で81分から途中出場し、A代表デビューを果たしたばかりだった。9月24日の初戦・ウルグアイ戦はベンチから見つめ、ようやくつかんだ出場機会。そして、迎えたエクアドル戦では、いきなり先発を任された。
舞台は、横浜F・マリノスの本拠地・日産スタジアムだった。
ここに至るまでの道のりは、決して一直線ではない。
花巻東高校、国士舘大学を経て、2020年に当時JFLのいわきFCへ加入。プロ1年目は出場時間がわずかだった。思うようにいかない現実に「やってられるかよ」と思った時期もあった。それでも腐らずに努力を続け、J3、J2へとステップを駆け上がっていった。
2024年にはJ2で38試合18得点を記録し、J2ベストイレブンに選出。2025年7月、いわきからマリノスへ移籍すると、J1デビュー戦となった名古屋グランパス戦でゴールを決めた。残留争いの渦中にあったチームに加わったばかりの新戦力として期待を背負い、スタンドからは「海那コール」が響いた。
それから1年余り。マリノスで結果を積み重ね、28歳で日本代表に初めて招集された。
同じ日産スタジアムで、今度は日本代表の先発としてピッチに立った。
「日産でスタメンってことで、本当にやらなきゃいけないと思いましたし、どうにかしてもう点を取ってやろうって思いました」
昨年はJ1で生き残るためにゴールを求められた。今度は、日本代表の競争の中で結果を求められる立場になった。
同じスタジアムでも、立っている場所は大きく変わっていた。
「できないことだらけ」だった45分間

エクアドルゴールに襲い掛かる場面もあったが、谷村の自己評価は厳しかった【写真:Getty Images】
エクアドル戦は前半45分間で交代となった。試合後、谷村が口にしたのは、悔しさだった。
「できないことだらけで、悔しい試合だったかなと思います」
Jリーグで積み重ねてきた経験が、そのまま世界の舞台で通用するわけではない。相手のセンターバック、ウィリアム・パチョとの対峙では、強さだけではなく守備範囲の広さも感じた。
「強かったですし、守備範囲がとても広いなと思いました」
ただ背負ってボールを受ければいいわけではない。ワンタッチでボールを動かし、相手を剥がすために動く。ゴール前でプレーするまでの一つひとつに、これまでとは違うスピードが求められた。
「とにかく、いつも出てる組に負けないくらい、ベースを意識してやろうと思ったんですけど、スピード感だったり、全然できてないな」
28歳で初めてつかんだ代表の舞台で、谷村は自分の現在地を知った。
それは、昨年までJ2で戦っていたときにも、マリノスへ移籍したときにも経験してきたものと似ている。新しい環境に入るたび、自分に足りないものを突きつけられてきた。
代表活動を終えた10月6日、マリノスに戻ってきた谷村は、代表活動で感じた差を前向きに受け止めていた。
「世界トップレベルのセンターバックとやれたので、自分、このままじゃダメだと思ったので、もっと自分をレベルアップさせるために、もっと強度とか上げてやっていきたいと思います」
「やってられるかよ」と思ったプロ1年目から、ここまで這い上がって来た。
そこでまた「このままじゃダメだ」と感じた。
谷村にとって、代表でのプレーも、これまで歩んできた道のりの延長線上にあるものなのかもしれない。
「レベル高いな」代表で変わった自分の基準

堂安律らとボール回しをする谷村海那。合流したばかりのトレーニングでは表情も硬かった【写真:編集部】
今回の代表活動で、谷村が最も強く感じたのは何だったのか。
「レベル高いなっていう感情が一番だったですね」
試合だけではない。トレーニングから、世界でプレーする選手たちの基準の高さを感じた。
「強度だったり、基礎的な技術だったりが、本当にレベルが高いので、簡単にミスしないこともあるので、そこは基準を上げていかないといけないなと思います」
それは、練習で行われるボール回しのうまさについてもそうだ。
「いや、上手いっす、みんな。やってこなかったっす。パス回しなんて」
ボールを受ける、止める、出す。そうした基礎的なプレーでミスをしない。高い強度の中でも技術の質を落とさない。谷村が2週間余りで感じ取ったのは、そうした日常の差だった。
代表で得たものを、マリノスのチームメイトに言葉で伝えようとは考えていない。口数の多くない谷村らしい回答だった。
「特にそういう伝えていくとか、自分にはできる立場ではないので、自分がやれることをやろうと思ってます」
言葉ではなく、自分自身のプレーで示す。代表で感じた基準を、自分のプレーの中に落とし込んでいく。
実際、マリノスと日本代表では、求められているものも違う。
「求められていることは違うと思うので、本当にできることできないことあるっすけど、まあ、少しはできると思います」
同じサッカーでも、チームが変われば判断も変わる。
その違いを実感した谷村が、同じFWとして目を向けたのが上田綺世だった。