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全盛期と見紛うルーニーの躍動。古巣マンUの敵将も称賛、中盤の底で輝く類稀なる才能

FAカップ5回戦、ダービー・カウンティ対マンチェスター・ユナイテッドが現地時間5日に行われ、0-3でユナイテッドが勝利を収めている。1月からダービーでプレーするウェイン・ルーニーは、13年過ごした古巣との対決が3シーズンぶりに実現した。センターハーフで先発したルーニーは、34歳とは思えない圧巻のプレーでチームをけん引していた。(文:加藤健一)

text by 加藤健一 photo by Getty Images

ルーニーの古巣対戦

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【写真:Getty Images】

 2020年の今、ウェイン・ルーニーが現在進行形で大きく取り上げられることはめったになくなった。報じられるとすれば過去のスーパープレーから何年とか、ルーニーの記録を誰かが抜いたときくらいだろう。マンチェスター・ユナイテッドの背番号10はマーカス・ラッシュフォードが背負い、イングランド代表の10番はラヒーム・スターリングのものになった。

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 9歳でエバートンのアカデミーに入り、16歳でトップチームデビュー。18歳でマンチェスター・ユナイテッドに移籍すると、サー・アレックス・ファーガソンの薫陶を受けた稀代のアタッカーはクラブに5度のリーグ優勝をもたらし、2007/08シーズンにはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)制覇に貢献した。

 31歳になったルーニーは、13年プレーしたユナイテッドを離れて古巣エバートンに復帰。欧州の舞台へ挑むチームで1シーズンプレーしたのち、メジャーリーグサッカー(MLS)のD.C.ユナイテッドへと活躍の場を移した。

 16チームが勝ち残ったFAカップ5回戦で、ルーニーの古巣対戦が3シーズンぶりに実現した。この冬にダービー・カウンティに加入したルーニーは、この試合にキャプテンマークを巻いて4-4-1-1のセンターハーフとして先発。試合終盤はトップ下にポジションを移してフル出場を果たしている。

ユナイテッドの完勝

 ユナイテッドはこの試合に、ベストに近いメンバーを投入している。ハリー・マグワイア、ダニエル・ジェームズらケガを抱えている選手はベンチを外れたが、今や欠かせない存在となったブルーノ・フェルナンデス、最近は高いパフォーマンスを続けているルーク・ショーやフレッジは先発メンバーに名を連ねた。

 62%のボール保持率を記録したユナイテッドが、相手の倍となる26本のシュートを放った。数字が示す通りにユナイテッドが試合を優勢に進め、3得点を奪って準々決勝へと駒を進めている。

 先月23日に復帰したばかりのスコット・マクトミネイは躍動し、2列目のブルーノ・フェルナンデスとファン・マヌエル・マタはいくつもチャンスを作った。オディオン・イガロは2得点を挙げてボックス内での能力を如何なく発揮。ルーク・ショーは1得点1アシストの活躍を見せた。

 ユナイテッドにとってはポジティブな面が多く出た試合となり、週末のマンチェスター・ダービーに弾みをつける勝利となった。オレ・グンナー・スールシャール監督は公式サイトにあげられた試合後のインタビューで何度か笑顔をのぞかせている。

全盛期と見紛うルーニーの躍動

 マンオブザマッチに相応しいのは、2得点を挙げたイガロでも、1得点アシストのショーでもないだろう。勝敗という枠を取っ払って最も印象的な活躍を見せたのは、紛れもなくルーニーだった。現役時代に3年間ともにプレーした敵将は「今夜はファンタスティックだった」と絶賛した。

 ディフェンシブサードでボールを奪ってカウンターに参加してゴール前へと顔を出すような爆発的なスプリントは、34歳となったルーニーにはない。しかし、細かいボールタッチの技術やキープ力、味方を活かすパスに加えて状況を打開するロングパスの技術は中盤の底で輝いていた。

 相手のプレッシャーにも屈せずに長短問わずに精度の高いキックを繰り出した。データサイト『Who Scored』によれば、パスに関わるスタッツはすべてチーム最多だった。5本のキーパスを含めて52本のパスを成功させ、90%という驚異的なパス成功率はチーム全体の数字(78%)を大幅に上回っている。さらに、ロングパス数(12本)とロングパス成功率(80%)もダントツの数字だった。

 2度のFKからも精度の高いキックを披露して観衆を沸かせた。ともにGKセルヒオ・ロメロに弾かれてしまったが、18分には低い弾道で、後半アディショナルタイムには高い弾道で相手の壁をすり抜けて枠内を捉えている。

 守備では素早い予測と判断でボールを奪い、カウンターの芽を摘んだ。2度のボール奪取に成功し、56分には身を投げ出してマクトミネイにシュートコースを与えなかった。前半終了間際にもらったイエローカードも含め、攻守にわたって活躍する様子は全盛期と見紛うほど素晴らしかった。

ルーニーの本編は終わらない

 18年夏に加入したD.C.ユナイテッドでは、1年半で公式戦25得点14アシストの結果を残している。今年1月にはチャンピオンシップ(イングランド2部)のダービー・カウンティに移籍。初陣となったバーンズリー戦にキャプテンマークを巻いて中盤で先発すると、FKから先制点お膳立てした。

 わずか2か月で3得点2アシストをマークしたルーニーは、17位だったダービーを13位まで引き上げた。30代となった早熟の天才は欧州トップの舞台を降りたが、その活躍は未だに衰えることを知らない。

 13位のダービーはプレミア昇格へ厳しい位置に立たされている。ただ、センターバックのジェイデン・ボーグルや、ルーニーと中盤でコンビを組んだマックス・バード、2列目に入ったジェイソン・バードやルーイ・シブリーといった10代の選手たちは近い将来にプレミアリーグでプレーする才能を持った選手たちだ。

 いまだ輝きを放ち続けるルーニーとプレーすることは、彼らにとっても貴重な経験となるだろう。イングランド代表として120試合に出場する実績を持ち、チームでは主将を務めると同時にフットボールコーチという仕事も兼務する34歳は、そのプレー以上に大きな影響力を持っている。

 エバートンで過ごした10代の2年間がルーニーのプロローグだとすれば、ユナイテッドでの13年間が本編で、エバートンでの最後のシーズン以降はエピローグとなるのが自然な流れだった。しかし、この試合を見る限り、ルーニーの本編はダービーで続いているように見えた。

(文:加藤健一)

【了】

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