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橋本拳人を分析してみた。ロシアでゴール量産中。FC東京時代から見えた片鱗…得点力覚醒の要因

ロシア1部リーグのFKロストフに所属する日本代表MF橋本拳人が躍動している。リーグ戦ですでに4得点を挙げ、得点ランキングでも上位につけているのだ。FC東京時代からはあまり想像できない活躍ぶりだが、なぜこのタイミングで得点力が爆発しているのだろうか。その要因を分析してみた。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

1試合2得点。ロシア1部で得点ランキング4位!

橋本拳人
【写真:Getty Images】

 秘められし力の解放なのだろうか。

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 この夏、FC東京からFKロストフに移籍した日本代表MF橋本拳人が、ロシア1部リーグでゴールを量産している。

 9月29日の時点でリーグ戦7試合に出場して4得点。9節が終了し、得点ランキングでは4位タイにつける。ロストフは3位ながらストライカー陣が全くゴールを奪えず得点力不足に陥っており、橋本はもちろんチーム内得点王で、総得点の40%を1人で稼ぎ出している。

 しかも、ゴールネットを揺らした3試合は全て勝利しており、橋本のゴールが決勝点になった。わずか3試合しか先発出場していない新加入のセントラルMFが、これほどまでにチームの勝利に直結する存在になるとは開幕前に誰が想像しただろうか。

 橋本本人もクラブ公式ツイッターで得点力覚醒の要因について「自分でもわかりません笑笑」とコメントしている。

 宿泊先のホテルの故障したエレベーターに20分間閉じ込められた翌日、現地27日に行われたアルセナル・トゥーラ戦では、加入後初の2得点でチームを3-2の逆転勝利に導いた。1試合2得点は2017年7月8日に行われた鹿島アントラーズ戦以来、3年ぶりだった。

 Jリーグ時代にはJ1とJ2で合わせて192試合に出場し、14得点しか挙げていなかったのだから「突然変異」と思われても仕方ない。日本代表に選ばれるようになっても、橋本には「守備的」というイメージが強かっただろう。

 しかし、過去のゴールシーンやロストフでの得点パターンから傾向を見つけていくと、いまのゴール量産が突発的に起こった一時的な好調でないことがわかってきた。

ロシアでの得点パターンは?

 まず、ロストフで奪った4つのゴールを見ていきたい。

 リーグ第4節のウファ戦で決めた加入後初ゴールは、左サイドからのクロスにダイビングヘッドで合わせたものだった。ボールが右サイドにある時点で中盤からゴール右前へと走り込んでおり、サイドチェンジで揺さぶられた相手ディフェンス陣は背後にいた橋本をフリーにしてしまっていた。

 2試合連続ゴールとなった第5節ウラル・エカテリンブルク戦の決勝点は、右コーナーキックから生まれた。ロマン・エレメンコが蹴ったキックにデニス・ハジカドゥニッチが下がりながらのヘディングで合わせると、混戦状態のゴール前にボールがこぼれる。それにいち早く反応した橋本が密集の中でシャープに右足を振り、ボレーシュートを突き刺した。

 直近の第9節アルセナル・トゥーラ戦の2点目も、コーナーキックからだった。左からのボールに味方がヘディングで合わせると、一度は相手GKに弾かれるも、そのこぼれ球を誰よりも早く察知して右足で押し込んだのが橋本だった。

 そしてアルセナル・トゥーラ戦の1点目は、ハジカドゥニッチの右サイドからのクロスに見事なヘディングで合わせた。橋本は味方の左ウィングが中盤に下がってビルドアップに加わっている間に最前線までポジションを上げ、ゴール前では相手DFの前に入ってスペースを確保する巧みさも見せた。

 これら4つのゴールシーンを分類すると、コーナーキックから2得点、流れの中からのヘディングシュートが2得点となる。しかもコーナーキックから生まれた2得点は、いずれもこぼれ球への素早い反応によるものだった。

 一方、流れの中から決めた2つのゴールは、いずれも自分の本来のポジションを離れて攻め上がったことによって生まれている。どうやらロシアで自身の得点パターンを確立しつつあるようだ。

FC東京時代から見せていた片鱗

橋本拳人
【写真:Getty Images】

 だが、それはロシアで新たに身につけたものではないかもしれない。ロストフで橋本が奪ってきたゴールにはどことなく既視感がある。

 例えば先述した2017年の鹿島戦の1点目は、前線でピーター・ウタカが起点になり、高萩洋次郎や米本拓司が組み立てに参加している間に、画面の端の方でスーッとゴール前まで上がっていく橋本の姿が見えた。そして、左サイドバックの太田宏介からのクロスにヘディングで合わせてゴールネットを揺らした。

 同じ鹿島戦の2点目も、カウンターの場面で前線2トップがパス交換をしている間にゴール前まで駆け上がり、ウタカからのスルーパスを引き出してシュートを流し込んだ。この試合は右サイドMFとしての起用だったが、得点パターンには現在と共通点がある。

 3-5-2のインサイドハーフ起用だった2017年8月19日の浦和レッズ戦でも、チームメイトたちがパスで攻撃の糸口を探っている間にゴール前まで走り込んでフリーになり、右サイドからの折り返しに合わせてゴールを奪った。

 ロシア移籍前は4-3-3のアンカーで起用されるなど守備的なタスクの比重が大きかったため、なかなかゴールの近くまで進出する機会はあまりなかった。そのため得点に直接関与する場面も少なかったが、もともとボックス・トゥ・ボックスのMFとしての才覚は持ち合わせていたのではないだろうか。

 特に迷わず一直線に駆け上がった時にシュートまで持ち込めていることが多い。中盤から本来いるはずのない選手がゴール前に飛び出してくると、相手ディフェンス陣のマークが混乱してフリーになれるケースは往々にしてある。

 そして、ロシアでゴールが増えている要因には起用法の違いもあるだろう。4-3-3のアンカーにはノルウェー代表のマティアス・ノーマンという主軸の選手がいて、橋本は1列前のインサイドハーフとして出場することが多い。

 広範囲に動きながらパスで組み立てに関与しつつ、機を見てはゴール前まで攻め上がれる自由度もある。ロシアリーグのDFたちは目の前の相手との1対1には強い印象だが、2人目、3人目と飛び出してきた時に視野を広く確保できておらず、見逃してフリーにしてしまう傾向もある。

 相手ディフェンスの目を盗んでゴール前のフリーになれるスペースに飛び出していける橋本の特徴は、ロシアリーグとロストフの現状に非常によくマッチしているのだ。

欧州1部リーグで二桁得点を奪えれば…

 守備面で才能を発揮してきた橋本には、危険なスペースを嗅ぎ分ける嗅覚や、ボールが落ちるところをいち早く予測して寄せられる能力もある。こうしたディフェンス時に生きていた強みが、攻撃面でも武器になっているのではないだろうか。

 コーナーキックにおける役割の変化も、ゴール増加に関係しているかもしれない。FC東京時代の橋本は、ゴール前には入るものの、他のターゲットになる味方選手のためにニアサイドで潰れるなどの役割が主で、セットプレーにおける得点源ではなかった。

 さらに一度クリアされたり、シュートが放たれたりすれば、すぐに守備のリスク管理のために自陣へ戻っていかなければならない。

 一方、ロストフではGKの前に立って邪魔をするなど、コーナーキック時にある程度「攻撃の選手」としての役割も与えられている。そして、こぼれ球に素早く反応する守備者としての能力は、ゴール前でも生かされている。

 まだロストフで完全にレギュラーの座をつかんだわけではないが、確実に「チームを勝たせる選手」としての評価を勝ち取りつつある。

 ヴァレリー・カルピン監督はアルセナル・トゥーラ戦の2得点を受けて地元メディアに対し、「これまで見てきた全ての試合の中でも彼の攻撃のクオリティーをこれほど見たことはなかった」と橋本のプレーを称えた。

 そして「日本ではあれほど上がることはなかったが、我々のチームでは以前とは少し異なるポジションでプレーしている。彼を前に上げるようにして、それが結果につながりつつある」と、背番号6の日本代表に課している役割について説明した。「彼はペナルティエリアにいるべきであり、実際にそうしている」とも。これは橋本が多くのゴールを決めるに至った要因を裏づける証言と言えよう。

 得点力の覚醒は突然起こったものではなく、与えられたタスクの変化や、自分の武器を生かせるプレー環境を手に入れたことによるものだ。もし欧州1部リーグで年間10得点できるセントラルMFになれば、日本代表での明るい未来のみならず、より高いレベルでのチャンスもめぐってくるだろう。

 クラブ公式ツイッターで橋本は「とりあえず10点とることを目標にします!」と宣言していた。ただ、これだけゴールを決めていれば、そろそろ対戦相手も「ハシモトの飛び出しに気をつけろ」と警戒してくるかもしれない。

 ならばその対策を上回る方法を編み出せばいい。ロストフの得点源の1つとしてカルピン監督からの信頼を確固たるものにできれば、ステップアップはぐっと近く。得点力と守備力を両立したセントラルMFとして、橋本の欧州でのさらなるキャリアアップを期待したい。

(文:舩木渉)

【了】

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