サッカー日本代表は10日、国際親善試合でパラグアイ代表と対戦し、2-2で引き分けた。FIFAワールドカップ(W杯)26への出場権をすでに勝ち取っている強豪を相手に、日本は2人のストライカーの得点によりどうにかドローに持ち込んだ。14日のブラジル代表戦に向け、この試合で得た課題と収穫を分析する。(文:西部謙司)
“バイタルエリア”を使えない
小川航基、上田綺世。ストライカー2人の得点で二度追いついての引き分け。得点源として期待されるFWのゴールがあった。
ただ、先のアメリカ合衆国遠征で得点がとれなかったのも偶然ではないのだと思わされた。
いわゆる“バイタルエリア”を使えない。全くと言っていいくらいに。
「日本は攻撃時に中央に入って来るのでそこを閉じた」(パラグアイ代表、グスタフ・アルファロ監督)
パラグアイ代表は日本代表のブロック内への侵入を警戒していた。ただ、守り方はオーソドックスな4-4-2のブロックである。
ボランチ2人とCB2人、中央の4人が小川、堂安律、南野拓実の3人をマークする。2トップと両サイドハーフの4人がスクリーンとなって中央にパスを入れさせない。
対する日本代表は堂安、南野の2シャドーが定石どおり相手ゾーンディフェンスの隙間に立つ。そこにパスが入れば相手が収縮してくるので守備にひずみと隙が出来る。そこを突けば崩れる、はずだった。
しかし、現実には何も起こらなかった。ほとんどパスが入らなかったからだ。
たぶんパスは入れなくて正解だったと思う。
バイタルを使いたければ…。思い起こす「ミシャ式」
もし頻繁にそこを狙っていたら、たちまち圧縮されて潰され、カウンターを受けていただろう。パラグアイ代表はFIFAワールドカップ(W杯)予選で戦ってきたアジアのチームとはレベルが違う。寄せはより速く球際も強い。
そして最初から中央を封鎖していて、入ってきたら迎撃する気まんまんだった。日本代表は中央にパスを入れないというより入れられなかったわけだが、それで罠にかからずに済んだ。
バイタルエリアを使いたければ、そこに人を立たせてはいけない。
日本で最初にそれを示唆したのはサンフレッチェ広島を率いた時のミハイロ・ペトロヴィッチ監督だったと思う。攻守でポジションを変化させる「ミシャ式」では、バイタルエリアを空洞化させていた。
相手のボランチに誰もいない場所を守らせる。つまり他の場所で数的優位を作っていて、守備側にとってそれが嫌ならボランチは守っている場所から出ていかなければならず、攻撃側はバイタルエリアに人を立てないことでそこを使える状態に変えていた。
広島でミシャ式を引き継いだ森保一監督も同じやり方で効果を上げ、Jリーグも制覇している。
日本代表はまた違うチームなのでやり方が異なるのか、たんに伝わっていないのか、ともあれバイタルエリアは使えずブロック内への侵入もあまり出来なかった。
サイドの威力と不要な失点
中央を封鎖された日本代表の攻め込みは外回りのパスワークに終始していた。相手を中央に寄せられないのでサイドのスペースはさほど開かず、ブロックを迂回してのサイドチェンジを繰り返しても状況は変わらない。
それでも何度かはチャンスを生み出し、最後は伊東純也の絶妙なクロスボールを上田が仕留めてアディショナルタイムに2-2に持ち込めた。
前半にも小川の惜しいヘディングシュートがあった。窮屈ながらも伊東、中村敬斗のクロスボール、堂安や町野修斗のポケット侵入でチャンスを作れていて、サイド攻撃の威力は示せている。
小川、上田のCFが得点できたのは良い兆しだ。クロスボールがメインの攻め手である以上、ゴール前で得点に変換してくれる選手は必須になる。
パラグアイ代表は守備が固いだけでなくビルドアップも巧みで、速いテンポのパスワークで日本代表のハイプレスを回避していた。
メキシコ代表戦では強烈だった日本代表のハイプレスの威力が半減していたのは相手が違うからか、日本側のメンバー構成の違いなのかはよくわからないが、W杯でもすべての試合を同じメンバーで戦うことはないだろうから、チームとして一定の水準はキープしたい。
ときおり、縦方向のマークの受け渡しが遅れて危ない場面になっていた。
課題と収穫を得てブラジル代表戦へ
アントニオ・サナブリアを軸にパラグアイ代表のFWはロングボールを処理する能力が高く、全体的に背後からの寄せにも動じないフィジカルの強さと技術を示していて、球際でのボールの残し方も上手いのでセカンドボールを拾う確率が高かった。
ただ、日本代表のプレスを回避はできても着実に前進できていたわけではない。
パラグアイ代表は基本的にはカウンター狙い。日本代表はボールを持っていてもなかなか崩せない。膠着しかかったところで先制されたのは痛かった。
5-2-3の守備ブロックで構えたところをディフェンスライン裏への1本のパスで破られて失点。パスは渡辺剛の頭上を越されているが、そこへ斜めに動いて入って来たミゲル・アルミロンをマークしていたのは瀬古歩夢だ。
瀬古はアルミロンをオフサイドにしようとして一瞬追走を止めたがフラッグは上がらず、フリーで抜け出されてしまった。
ボールホルダーに全くプレッシャーがかかっていなかったので、タイミングを合わされていてオフサイドに引っかけるのは難しかった。全員がボールより自陣サイドにいながら1本のパスで破られた残念な失点である。
負傷者続出で編成に苦慮しているディフェンスラインの再整備、中央攻撃の再構築、連動しきれない場面もあったプレスの精度を上げるなど、いくつかの課題が浮き彫りになった。
一方でサイド攻撃の有効性、CFの活躍という良い面もあった。連戦は2試合目に良いパフォーマンスになる傾向もあるので次のブラジル代表戦に期待したい。
(文:西部謙司)
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