2025JリーグYBCルヴァンカップ準決勝第2戦、川崎フロンターレは柏レイソルに4-1で敗れ、決勝進出を逃した。大逆転での敗退を喫した試合後、佐々木旭は必死に言葉を振り絞った。無冠の可能性が濃厚となった今季、残り5試合を来季以降に繋げるためにも全力で挑む覚悟を示している。(取材・文:菊地正典)
残酷な結末となった第2戦

【写真:Getty Images】
1試合で全てが決まる勝負は残酷だ。
2025JリーグYBCルヴァンカップ(ルヴァン杯)の決勝トーナメント、プライムラウンドは決勝を除いて2試合で勝敗が決するが、川崎フロンターレと柏レイソルが戦った準決勝は、2試合であることが残酷さに拍車をかけた。
試合を終え、取材エリアに最初にやってきた仲間隼斗が報道陣に囲まれる。
決勝ゴールをアシストした殊勲者は、柏の担当記者とハイタッチをすると、飲もうとしたスポーツドリンクを口からこぼした。
周囲は笑いに包まれる。
第1戦で2点のビハインドを背負い、さらに第2戦でも先制を許しながら、4点差をひっくり返して決勝進出を決めたあとの微笑ましい光景である。
遡ること30分ほど前――。
試合が決すると、佐々木旭はピッチ上に仰向けになった。
対戦相手だった小屋松知哉に引き上げられ、健闘を称え合ったが、すぐに両手をひざについた。
その場から動けない。
川崎の11人中、最後に自陣へと戻り、両チームのあいさつを終えると、タオルで顔を覆った。
汗を拭うだけにしては時間が長い。
一度はタオルを頭に被せたが、再び顔を覆うと動けなくなった。
山本悠樹とスタッフに支えられながら向かったゴール裏では、サポーターにしっかりと顔を見せてあいさつした。
だが、振り返るとまたタオルで顔を覆った。
「フロンターレでタイトルを…」
「自分が加入してから2年前に天皇杯を獲りましたけど、自分は決勝に出てませんでした。フロンターレでタイトルを獲りたいという気持ちが強かった。リーグはなかなか厳しい状況ですし、ルヴァン杯のタイトルを獲りたかったので、獲れなくてすごく悔しかったです」
今季の川崎は7年間チームを率いた鬼木達監督が去り、長谷部茂利監督を迎えてタイトル奪還を目指した。
しかし、思いどおりには進まない。
昨季から戦いが続いたAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)は決勝に進みながらも、アル・アハリ(サウジアラビア)に敗れて悲願は成就できなかった。
天皇杯は3回戦でPK戦の末、J3のSC相模原に敗れている。
リーグは数字上での可能性が残っているとはいえ、残り5試合で首位と勝ち点12差の7位。
可能性が完全に潰えるのも時間の問題と言える。ルヴァン杯は事実上、残されたタイトルだったが、戦いは準決勝で終わった。
初タイトルを獲得して以来、7年間でリーグ4回、ルヴァン杯1回、天皇杯2回の優勝を誇る川崎が、2年連続無冠となった。
ある意味で佐々木は、この2年の川崎の象徴とも言える。
今季はここまでリーグ戦33試合中32試合に出場し、うちスタメン出場は29試合。
昨季は38試合中37試合に出場し、うち33試合にスタメン出場していた。
確固たるレギュラーである。
今季からは副キャプテンも任されるディフェンスリーダーだ。
センターバックで急成長を遂げた佐々木旭
一方、先発出場した際のポジションを見ると、昨季は33試合中、右サイドバック(SB)で4試合、左SBで10試合、そしてセンターバック(CB)で19試合プレーしていた。
今季は右SBで11試合、左SBとCBがそれぞれ8試合となっているが、この7試合は続けてCBでプレーしている。
ルヴァン杯準決勝の2試合も中央にポジションを取っている。
今季のリーグ戦残り5試合中4試合をCBとして戦えば、2年連続で最もプレーしたポジションはそこになる。
佐々木が最も得意とするポジションは、SBだ。
彼がCBで多くの試合に出場していることが、川崎の最終ラインの選手層の薄さとケガ人の多さを示している。
そして、それはこの2年の成績の苦しさの一因でもある。
それでも佐々木自身は、CBで起用されたことで急成長を果たした。
中央でも突破や配球でアグレッシブさを発揮しながら、屈強なセンターフォワードたちとやり合いながら守備力も増していく。
鬼木前監督から口酸っぱく求められ続けた“声”も武器の一つとなった。
CBとして後方から指示で味方を動かすことを意識し、例えば田邉秀斗から「隣の旭くんがかなり声をかけてくれていたので、信頼を置いて、前を向きながらプレーできる」と言われるほどだ。
「オニさんとヤスくんに…」
「オニさんと(鬼木前監督)ヤスくん(主将の脇坂泰斗)に怒られてばっかりです」
昨季、CBとして試合に出始めたころに笑いながらそう言っていたディフェンダーは、すっかり頼もしくなった。
この試合でも奮闘ぶりは目を見張った。
56分にフィリップ・ウレモヴィッチが退場となり、長谷部監督が5バックで戦うことを決断すると、23歳と19歳のルーキー、神橋良汰と土屋櫂大に挟まれるように最終ラインの中央に構え、一気呵成に攻め込んでくる柏の攻撃を何とか食い止めようとした。
それでも失点を重ね、第2戦は3-1、2戦合計で4-4の同点に追いつかれる。
勝利するためにはゴールが必要だが、川崎にその力は残っていないように見えた。
そこで気を吐いたのが佐々木だった。
85分、自陣ペナルティーエリア内で相手のクロスをインターセプトすると、敵陣までドリブルで一気に駆け上がる。
ゴールから50mほどの位置から放ったシュートはすぐに外れることが分かったが、10人で守備一辺倒の時間が長く続いた85分に見せた勝利への意欲だった。
だが、最後の最後にやられた。
仲間のパスを胸で止め、反転してスーパーゴールを決めることになる細谷真大に対応していたのは、佐々木だった。
決勝ゴールを喫したのは、90+2分だった。
取材エリアに最後にやってきた佐々木は、仲間と同じように報道陣に囲まれた。
いつものように明るいはずはない。
言葉の端々に悔しさをにじませる。
それでも、すっきりした(ように見えた)表情で、一つひとつの質問に丁寧に答えていく。
大逆転劇を許してしまったのだ、反省が口を衝いて出る。
それでも、その矛先は自分に向け、チームメートを労った。
庇った、と言ってもいいのかもしれない。
「もっと自分がやれれば…」
「(土屋)櫂大もカミ(神橋良汰)も声を出して頑張ってくれていました。守らないといけないですけど、チームとしてあそこまで押し込まれてしまうとなかなか難しい状況だったと思うので、もっと自分がやれればよかったです。あの2人は声を出して頑張ってくれていました。
ウレ(ウレモヴィッチ)も入れ替わってしまったので仕方ないというか、もうちょい締めていればああいう状況を作られなかったと思いますし、自分の問題でもあると思います。ウレ一人の責任ではないです」
バスの出発時間が迫り、最後の質問となった。
残り少なくなった今季の試合にどういう気持ちで向かっていくのか?
「そうですね、まあ……」
佐々木はこの日の取材対応で初めて、言葉を詰まらせた。
無理もない。
あれだけ欲していたタイトルが今季も獲れないことがほぼ決まった直後なのだ。
次の戦いに目を向けるのは容易ではない。
それでも、言葉を振り絞った。
「等々力でやれるのもあと少しなので、応援してくれる人たちのためにしっかりと切り替えて、全部勝つ気持ちでやっていきたいと思います」
残り5試合。
今季はタイトルに手が届かないとしても、再び前を向き、全力で戦えば先へつながるはず。
いつの日かタイトルを獲るため、決して無駄にはならない。
(取材・文:菊地正典)
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【了】