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コラム 2か月前

サッカー日本代表の大逆転を支えたポイントは?ブラジル戦の後半に示した“再現性”はW杯本番でも期待大【西部の目】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by 田中伸弥

 サッカー日本代表は14日に親善試合でブラジル代表と対戦し、3-2の逆転勝利を収めている。2点のビハインドを覆しての大逆転を実現させたのは、日本の選手たちによる勇気あるハイプレス。とりわけ後半から見せた鬼気迫るプレッシングは、今後の戦いに希望を感じさせた。8か月後の大舞台でも、十分に期待できるかもしれない。(文:西部謙司)

ハイプレスとブロックの使い分け

ブラジル代表に勝利したサッカー日本代表
【写真:田中伸弥】

 

 日本代表にとってはFIFAワールドカップカタール2022以来のボールを保持される前提での試合。前半は5バックのブロックで構えるが0-2、後半はハイプレスを敢行して3-0。森保一監督は「前半からプレスをかけたかった」と試合後に話していた。

 スコアと監督の話からすると、前半は失敗で後半は成功ということになってしまいそうだが、そこまで単純ではないと思う。

 前半のミドルゾーンに5-4-1のブロックを置く戦い方は悪くなかった。当初のプランでは日本代表の武器であるハイプレスを仕掛け、できれば先行してブロック守備に移行するつもりだったようだ。

 森保監督は「私の伝え方が悪かった」という言い方をしていたが、立ち上がりはハイプレスを仕掛けている。ブロックに移行した時間が早すぎると感じたのかもしれないが、どこかでハイプレスをおさめてブロックに移行する見切りは必要だ。

 ブラジル代表は日本代表の守備ブロック内に入り込めていない。ブラジル独特の様子見をしていたとしても時間がかかりすぎだった。さすがに20分あたりから5バックを直撃するという突破口を見出したようで、26分には3人のコンビネーションから先制点を奪った。32分にもルーカス・パケタの見事なループパスから2点目。

 DFが5人並んでいても裏をつけば人数は関係ない。押し込んで5バックの手前に入り込めばチャンスは作れる。逆に日本代表はそこを守り切れず、南野拓実のいる左側はスペースが空きがちになっていた。

 とはいえ、ブロック守備からのカウンターはそれなりに機能していて、ぎりぎりで防がれてはいたが日本代表のカウンターは精度も高く、堂安律と久保建英の右サイド、中村敬斗の左サイドからクロスボールまではいけていた。

 前半の問題点はリードされた後、ブロックからハイプレスへ押し出す機能が働かなかったことだ。

 ウイングがタッチラインいっぱいに開き、なおかつ高い位置をとるブラジル代表に対して、縦にマークを受け渡す押し出しが難しく、さらに偽9番的なヴィニシウスの動きも絡み、心理的にもハイプレスへの移行にブレーキがかかったのかもしれない。

カミカゼ・プレスによる逆転劇

 後半から日本代表のハイプレスが復活した。1対1にしてやっつける、というカタールW杯でもみせた大胆なプレッシングだ。

 後半の最初にブラジル代表のゴールキックが続いたことが引き金になっている。ブロックからの押し出しができていたというより、リスタートからなのでマークの混乱はなく、あとは勇気だけ。2点をリードされた日本代表はここで蛮勇的なアグレッシブさを表し、流れを引き寄せていく。

 決定的だったのがブラジル代表側のミス。ハイプレスで行き場をなくしたファブリシオ・ブルーノがバランスを崩し、何とゴール正面の南野にパスしてしまう。南野が力一杯叩き込んで1点を返した。

 この得点の2分後に久保に代わって伊東純也が登場。右シャドーに入った伊東は間延びしはじめたブラジル代表の左サイドに入り込み、見事なクロスボールから中村敬斗の同点弾を演出する。

 伊東の精度と速度の高いクロスボールは着実にチャンスを作り続け、CKから上田綺世がDFの前に入って競り勝つヘディングで逆転。サイドから殴りつけるような伊東のクロスボールは、パラグアイ代表戦のロスタイム同点弾に続いて絶大な威力を発揮していた。

 その後、双方交代カードを切りながらオープンな展開になるが、終盤には全員守備の日本代表が守り切って歴史的な逆転勝利をもぎとった。

 負傷者続出で深刻だった3バックは渡辺剛、鈴木淳之介が何度も対面のドリブル突破を封じるなど強度を増していた。GK鈴木彩艶、CB谷口彰悟の安定感も十分。

 伊東はもちろん、久保、堂安、中村は個で優位性をみせ、とくに堂安は攻守に抜群のプレーぶりだった。鎌田大地の思慮深いパス、ここという時に決めてみせた南野、上田の決定力。パラグアイ代表戦に続いて守備面で抜群だった佐野海舟の存在も大きかった。

強豪を震撼させる底力

 ブラジル代表の精度の高い攻撃で2失点したものの、前半のブロック守備からのカウンターという戦い方には一定の効果があった。カタールW杯でドイツ代表、スペイン代表に勝利したように、自分たちが保持する展開よりもむしろ課題は少ない。

 ただ、たとえ失点しなくても守るだけでは勝利できない。堂安の斜めに差し込むワンタッチパスや久保のドリブルによるプレス外しからのカウンターも、ファウルで止められていて、サイドからの突破もニアに出てくる選手がいないために阻まれていた。

 大きく局面を変えたのはカタールW杯でも発揮されたカミカゼ・プレスだ。アメリカ合衆国遠征のメキシコ代表戦でも前半に猛威を振るったハイプレスは、ブラジル代表側のミスを引き出し混乱に陥れた。

 ヴィニシウス、ロドリゴ、エステバンという名だたる俊敏な技巧派のドリブルをことごとく止めていて、球際の強さが生命線になっている。1つ間違えば致命傷を負いかねないが、1対1で上回るという大胆な方針がブラジル代表相手でも通用していたのは心強い。

 ブロック守備でボールホルダーにプレッシャーがかからない、ブロックからの押し出しができない、攻撃で相変わらずバイタルを使えないなど課題はあるものの、懐に飛び込んで決死の殴り合いを挑んだ時の底力は強豪をも震撼させる威力を秘めている。

 これで三度目なので再現性はないようであるわけで、これを必然といえる段取りを確立できれば、強豪と中堅の差が僅差になっている現状のW杯で何かを起こせるのではないか。

(文:西部謙司)

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【了】

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