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文武両道を重視する名門進学校サッカー部が取り入れた「まちなか留学」という新たな教育の形。「優勝した、できなかったで終わってほしくない」

text by 竹中愛美 photo by HelloWorld株式会社

 学業とサッカーの両立を目指す名門校、國學院大學久我山高校サッカー部が8月4日から3日間、沖縄での合宿にて外国人家庭にホームステイする「まちなか留学」を体験した。スポーツ合宿の一部を異文化交流にあてるというこれまでにない新たな取り組みに参加した狙いや感じたことを顧問の倉浪章仁先生と本山祐也主将に聞いた。

部活動の合宿の中に「まちなか留学」を取り入れた理由とは

まちなか留学
國學院大學久我山サッカー部

【提供:HelloWorld株式会社】

 部活動の合宿を競技力強化にとどめず、生徒の視野を広げ、心身の成長に繋げる機会と する新たなスポーツ合宿の形として、「まちなか留学」が活用された。

「まちなか留学」は日本に暮らす外国人宅でのホームステイを通じて、異文化に触れる国際交流プログラムのことだ。

 学校教育の現場では、従来重視されてきた認知能力(記憶力、思考力、計算 力、言語力、IQなど数値化可能な能力)に加え、意欲・自信・忍耐・協調・共感・好奇心などを含む「非認知能力」を重視する流れが顕著になっている。

 これまで非認知能力の向上に寄与していた取り組みのひとつが部活動だが、部活動の一環で行われる合宿は一般的に「数日間、部のメンバーで寝食を共にし、まとまった練習時間を確保する」といったものだった。

 合宿は、競技そのものの力を伸ばすことには有効だが、スポーツだけでなく生徒の学力や精神性といった面での教育にも注力する國學院久我山高校には、自宅を離れて過ごす合宿日程をさらに有意義なものとし、競技力にとどまらない成長機会につなげたいという考えがあった。

「李済華監督も私も学校もそうですけど、いろんなことをやらせようって、勉強だけ、サッカーだけではない。それがサッカーや勉強の成長につながると。サッカーだけやっていればサッカーが上手くなる。勉強だけやっていれば成績が伸びる、ではないっていう考えのもとですね」と倉浪章仁先生が「まちなか留学」を合宿の中に取り入れた経緯について話してくれた。

 合宿参加選手(一軍メンバー)30名のうち、「まちなか留学」を希望した生徒は21名。3人1組の7グループに分かれ、アメリカやフィリピン、インドなどの家庭に滞在した。日本にいながらとはいっても、滞在中の会話はもちろん英語で、食事文化も違えば、生活様式も異なる。

日本にいながらのホームステイで異文化に触れて…「こんなんじゃ力が出ません」

まちなか留学
國學院大學久我山サッカー部

【提供:HelloWorld株式会社】

「食べ物であるとか、文化はやっぱり衝撃を受けたようで、泊まった次の日もサッカーをやる中で朝集合して、『先生、お昼ご飯なんですか?』、『昼なんて朝食ってきただろう』って言って、『僕が行ったところは、朝はシリアルだけでこんなんじゃ力が出ません』とかって言う子がいたりとか」と異文化に戸惑う生徒もいたようだ。

 本山祐也主将は「初めて留学の経験をさせてもらったんですけど、自分の普段勉強している英語がどこまで通用するのか、初めて外国の方と一緒に過ごして学べたことがすごく自分の中では大きかったことかなと思っています。今後どういう英語の勉強をしようかにも繋げられたので、すごく貴重な体験だったなというふうに思っています」と「まちなか留学」に参加した率直な感想を教えてくれた。

 普段とは異なる環境で過ごしたことで学んだこともある。

「家庭にはお子さんも3人ぐらいいらっしゃって、すごく賑やかな雰囲気だったので、自分は積極的に発言とか会話することを意識して、楽しい時間を過ごせるようにした。そういう意識は学ばせてもらったかなっていうふうに思っています」

 さらに、「一緒に何か物事をやる上で言語も全部が通じるわけじゃないじゃないですか。だけど、そのひとつのことをやろうっていう気持ちがあれば、物事は成し遂げられるんだなっていうことを学びましたね」と2泊3日の短い期間でも得たものは大きかったようだ。

 倉浪先生が今回の活動を経て、生徒に期待することは少なくない。

「行ってなければ知らない世界だったはず」生徒に期待することと今後へのヒント

まちなか留学
國學院大學久我山サッカー部

【提供:HelloWorld株式会社】

「行ってなければ知らない世界だったはずなので、そういうのを見て、進路選択や職業選択のところにこんな仕事をしている人がいるんだとか、こんな国があるんだとか、そういう視野を広く持つことに1番期待します」

 この経験がすぐに人生に大きな影響を及ぼすのかと言われればそうではないかもしれないが、目先のことではなく、長期的にみたうえで必ずやどこかで活きてくるものなのだろう。それは近くで言えば、部活動かもしれないし、学校のテストかもしれない。

「まだわからない部分とこれからサッカーにもたらす影響も期待してはいますけど、1番はその先。そもそもサッカーをやっていること自体も選手権に出れた、出れなかった、リーグ戦で優勝した、できなかったで終わってほしくなくて。その先でサッカーをやるにしてもやらないにしても久我山でサッカーをやってたとか、久我山で勉強をやってたというのがどういう形であれ、大学で社会に出て、結婚して子供ができてのどこかで良い影響を及ぼしてくれれば」と倉浪先生は今後に与える影響について補足した。

 本山主将は現在高校3年生。今後は部活動だけではなく、進路など様々なシーンで選択が迫られていくことになるが、このプログラムを通して得た気付きや学びを活かしていくつもりだ。

「今の社会は学校で勉強している文法の英語とかよりも外国の方々と話す日常英語とかの方が大切なのかなって思ったりしている。今後外国の方々と関わる機会があると思うので、自分が今回得た会話する姿勢や積極性を今後に活かしていきたいなと思っています」

 部活動においては、「みんなでひとつの目標を持ってやるためには、みんなが協調性を持ってやらないといけない」と改めて気付いたようで、すぐに実践できそうなことも見つかった。

「発言しづらいこととか言うのをためらっちゃうこととか、ホームステイ先でもあった。それはミーティングだったりとか、部活動のことでも同じ言いづらいこととかもあると思うので、うまく言えるような雰囲気にできたらなと思っています」

 キャプテンという立場もあるかもしれないが、学校が大切とする考えのもとで自ら考えた結果、何か活かせるヒントを得ていっているのではないだろうか。それだけでもこの新たな教育の形を取り入れた意味はあるような気がする。今後の人生のどこかのタイミングでこうした経験がきっと時折顔を覗かせることだろう。

(取材・文:竹中愛美)

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【了】

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