V・ファーレン長崎は11月8日、明治安田J2リーグ第36節、アウェイでの愛媛FC戦に挑み、0-4で勝利した。スコア的には快勝に映るが、ピンチは多く、決して楽な戦いだったわけではない。それでも無失点に抑え切ったのはGK後藤雅明の頑張りもさることながら、3バックの中央に陣取る新井一耀の冷静さがあってこそだった。(取材・文:椎葉洋平)
快勝でも…V・ファーレン長崎、新井一耀が挙げた反省点
【写真:Getty Images】
第33節終了時点で首位に立ったV・ファーレン長崎だが、その後の2戦ではFC今治と引き分け、ジュビロ磐田に敗戦。この結果、2位となり、かつ3位・ジェフユナイテッド千葉にも勝ち点差1まで迫られていた。
そんな中で迎えた今節。愛媛FCはすでにJ3降格が決まっているとはいえ、ホームで易々と敗れるわけにはいかない。残留争いのプレッシャーからも解放されている。実際に、持ち前のパスワークを活かして何度となく長崎ゴールに迫ってきた。
試合後のミックスゾーンで試合の感想を問われた新井一耀は「結果だけ見たら得点も取れて0で抑えられましたけど、90分を通して厳しかった。最後のところでごっちゃん(GK後藤雅明)がスーパーセーブで何本も止めてくれた」と、厳しい戦いだったと振り返る。
それは客観的なデータからも見てとれる。シュート数、枠内シュート数、ゴール期待値、ボール保持率と、いずれも愛媛が上回っていた。
具体的な内容について問われると、多くの反省点が挙げられた。
「前からボールを取りに行こうとしていたのですが相手の立ち位置も流動的で、1.5列目の堀米(勇輝)選手のところをうまくつかめなかった。相手のボランチの関係で1人が行った(寄せた)後ろを使われて、前向きで(ボールを持たれる)というところもあった。
どこかで引っ掛けてカウンターで得点というのを作れればよかったですけど、押し込まれてからも押し返すというのが中々できずにミドルシュートも打たれていました。本当に課題がいっぱい出たかなと思います」
ただ、それでも4点差を付け、クリーンシートで勝利したのは長崎。勝因の1つは前後半の入り方にある。
「(前に)出たかったんですけど」光った新井一耀のベテランならではの落ち着き
まずは前半1分。コーナーキック(CK)を獲得すると、ディエゴ・ピトゥカが蹴ったボールを櫛引一紀が落とし、翁長聖が長崎復帰後初得点となるミドルシュートを決めた。
続いて後半1分。自陣でのスローインからカウンターを仕掛け、澤田崇、マテウス・ジェズスへとつないで、中央へのパスに左ウイングバック(WB)の米田隼也が飛び込む。長い距離を走り抜け、相手より先にボールに触ったことで得た狙い通りのペナルティーキック(PK)だった。これをジェズスが決めて、前後半ともに効果的に得点を重ねた。
その他はボールを持たれる時間が長く、この試合ではセンターバック(CB)とボランチの間を使われる場面が目立った。そこは新井の目前のスペースで、CBとしてはつぶしに行きたくなるものだろう。
そんな中でも「(前に)出たかったんですけど、ワンタッチフリックとかもあったので、そこで自分が真ん中から出て行って、真ん中のスペースを空けてフリックされたら嫌だなというのがあった」と冷静に捉えていた。
愛媛戦が開催された11月8日は新井の誕生日当日。32歳となりベテランの域に入った選手らしく、焦らずにゴール前を空けないという優先順位をもって対応を続けた。
チームとしてゴール前でやられかけたのは左からの杉森考起のクロスに反応した27分の藤本佳希のヘッドと、自陣深くでのつなぎでミスが起こり堀米のパスに藤本が反応した63分ぐらい。
ゴール前を固めるならば、と愛媛は積極的にミドルシュートを狙ったものの、それらはGK後藤がことごとくセーブ。コースを限定すれば後藤が止めてくれるという信頼感が、高木琢也体制での失点減につながっている。
今節長崎が勝ち、首位・水戸ホーリーホックが敗れたことで勝ち点差は1に。次節のホーム・水戸戦は首位の座をかけた大一番となった。
リーグ優勝をかけた大一番へ新井一耀の決意「そこを自分たちの自信として」
「(CBの)誰かがチャレンジしてカバーする、距離感、そういうところをもうちょっと突き詰めていくことによって、もっとインターセプトだったり、いい形で奪ってからいい攻撃というところにもつなげられると思う」と試合直後に修正点をあぶり出しており、勝ちながら次節につなげられることはポジティブな要素だろう。
「ここまで来たら内容云々より勝ち点だと思うので、最低限アウェイで勝ち点3を取れたということは良かった。今日勝ち点3を取れていなかったらもう優勝する可能性も少なかったと思いますし、1個繋げられたというところは大きい」
そう、長崎の目標はあくまでも昇格ではなく優勝。そのためには水戸戦での勝利は欠かせない。約20,000人のサポーターとともに、大一番を戦い抜く覚悟だ。
「ホームでできるというアドバンテージもあるので、そこを最大限に活かして。自分たちは課題も出ましたけど、ああいう風にしっかり点が取れて、最後に体を張って守れるというところは見せられている。
そこを自分たちの自信として、ファン・サポーターの前でそういう姿を見せることで勝ち点3を取れると思う。試合の内容もそうですけど、メンタル、気持ちのところが大事になる」
「水戸戦に向けてのモチベーションもみんな上がったと思うので、1人1人が最高の準備をして、本当に決勝戦だと思うぐらいの試合ができるようにしたい」
長崎の目は常に目前の試合かつ、自分たちに向いている。もちろん、対戦相手のスカウティングは十分にしたうえで、自分たちが最高の準備をすることこそが勝利につながるとチーム全員が理解している。
それをここまで続けたことが積み重ねとなり、現在の順位がある。愛媛戦の勝利で得た自信も、水戸戦へと活かされていく。
(取材・文:椎葉洋平)
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