ルーキーイヤーで開幕スタメンを勝ち取ってから9ヶ月。大阪体育大学から北海道コンサドーレ札幌へ戻ってきた木戸柊摩は今季20試合に出場し、一定の成果を残した。だが、そのポテンシャルを考えれば、まだまだやれるという期待を抱かせる。赤黒のクラッキは今、さらなる飛躍と“憧れの先輩”が背負ってきた伝統の番号を継ぐ日を虎視眈々と見据えている。(取材・文:黒川広人)
「自分の身体ではないような…」ルーキーの木戸柊摩が味わった初めての感覚
【写真:Getty Images】
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2月16日の大分トリニータとの開幕戦。キャンプでアピールに成功した木戸柊摩は見事、開幕スタメンの座を勝ち取った。学生時代から見てきたプレーの質からすれば、驚きはまったくなかった。「木戸柊摩なら開幕スタメンは当然」だが、開幕のピッチ上での彼のプレーには、正直驚いた。
「自分の身体ではないようなフワフワした感覚でした」
木戸自身がそう語るように、プロの緊張感と強度の前に持ち味を出し切れなかった。高い技術力としなやかな身のこなしが影を潜め、ミスも散見。長らくともにプレーしてきた佐藤陽成も「あんな柊摩、初めて見ました」と口にしたほどだった。
そこから波に乗り切れないルーキーイヤーを過ごすことになる。本人も、今季のプレーには納得していない。
「一言で言えば、本当に悔しいシーズンになりました。特に前半戦はチャンスをもらった中で、持ち味を出せなかった。これまでのサッカー人生で“挫折”という感覚はなかったんですが、そういう意味では初めての経験になりました。
後半戦は少しずつ、自分のプレーを出せる場面も増えてきて、“自分はどういうプレーをするべきか”がわかってきた実感もあります。今は、ここからやっていくしかないという気持ちです」
関西大学サッカーリーグでは4年間の最多リーグ出場賞数を記録し、試合に絡むのが当たり前だった木戸にとって、継続して出番を得られないサイクルは初体験。そんな中、日常のトレーニングで、日本屈指の基準とされる男がそばにいたことは幸運だった。
同じアカデミー出身の高嶺朋樹の存在「ああいう選手を目指さないといけない」
「隣にはいつも高嶺(朋樹)さんがいます。彼の存在は本当に大きいと感じています。自分もボランチなので、ああいう選手を目指さないといけない。朋樹くんのように、ボランチで2桁得点を取れる。
その上、攻撃面だけでなくて、守備のところでボールを刈り取れる。ああいうプレーヤーが上に行くと思っているので、目指すべき存在というのが隣にいてくれるのは非常にありがたく、自分の中で本当に良かったと思います」
高嶺朋樹からは、こんな助言ももらった。
「一番は“自分がどういうプレーヤーとしてプロで生き残っていくか”を明確にすること。どんなプレーヤー像を描いていくのかを常に意識して、近い将来だけじゃなく、もっと遠くを見据えて、行動していけと言われています。
朋樹くんは、僕だけじゃなくて(原)康介、(林田)友兜など若手にも常に目を向けて気にかけてくれている。若手が成長しなければ、チームも上には行けないと感じているからこその言葉だと思っています」
そうした言葉や姿勢に刺激を受けて、木戸自身にも変化が訪れている。
「練習前の準備から、朋樹くんは本当に徹底しています。自分はシーズン当初、準備が遅めだったんです。でも朋樹くんにいろいろ助言をもらって早めるようにしました。ケガをしたら意味がない。また、トレーニングのやりすぎもよくないけど、“お前の年くらいだったらやりすぎくらいが、ちょうどいい”とも言ってくれています」
身体の成長も実感している。
「身体も一回り大きくなりました。朋樹くんも筋トレをずっと継続しているので、ああいう体格になりたいと自分も強化してきました。熊本キャンプから本格的に始めて、今も継続中です。体重もシーズン当初から7キロ増えて、今は68キロ。プレー面でも重さは感じず、良い方向に進んでいると感じています」
目指すべき姿が明確になった今、木戸が描く“未来”の解像度も高まっている。
木戸柊摩が尊敬してやまない深井一希と“8番”への思い
「来シーズンは2年目で、23歳になります。西野(奨太)とか僕の世代が、チームを引っ張っていかないといけないと強く感じています。個人的にはここから全試合に出たいと思っていますし、ずっと高嶺さんを隣で見てきたからこそ、ああいう選手を超えたいという目標ができた。
来シーズン、得点アシストを合わせて、2桁はマスト。そこは必ず取らなきゃいけないと思っています。ここから明確な結果を必ず出していきたいなと思っています」
そして、もう1人。木戸が公私にわたって尊敬してやまないボランチがいる。今シーズン限りで現役を退く、深井一希だ。
「もちろん“8番”への思いは強いです。ただ、あの背番号の持つ重みは、しっかりと理解しているつもりです。一希くんのように、コンサドーレや北海道を代表する選手になっていきたい。
だからこそ、来年のハーフシーズンと新シーズンは、自分のサッカー人生にとって、重要な時期になるとも思っています。この1年目の経験を糧に、来季はコンサドーレの中心として、自分が引っ張る存在になりたいと思っています」
深井もまた、木戸の可能性をこう評している。
「間違いなく良いものを持っている選手です。特に守備面が想像以上にやれていると思います。あとは強みの攻撃でどれだけ違いと結果を生み出せるかですね」
憧れの存在に近づいたとき、自然と「8番待望論」も沸き起こるだろう。
その可能性を、木戸は残された2025シーズンから示すつもりだ。
「結果を出さなければ、一つ上のレベルにはいけないと強く感じています。まずは、残り2試合で何かを掴みたい。そして、最終節は一希くんのラストでもあるので、何がなんでもメンバー入りして、絶対にピッチに立ちたいと思っています」
学生時代にも身につけた、背番号「8」。
赤黒の「8番を背負える男」であることを、ここから証明してみせる――。
(取材・文:黒川広人)
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