FC町田ゼルビアは11月22日、天皇杯 JFA 第105回全日本サッカー選手権大会・決勝でヴィッセル神戸と対戦し、3-1で勝利した。クラブ創設37年目で悲願の初タイトルを獲得した町田。加入2年目の昌子源は「チームとしても相当な覚悟を持って挑んだ一戦」と振り返り、キャプテンとしての責務を果たそうとしていた。(取材・文:竹中愛美)[1/2ページ]
FC町田ゼルビアの昌子源が涙を流したわけとは
【写真:Noriko NAGANO】
昌子源は試合後のフラッシュインタビューで涙を流していた。
「いや、泣くつもりなかったんですけど、メイン(スタンド)の人たちが『昌子ありがとう』って、すごく届いて嬉しかったですね」
昌子の涙には、公式戦13試合無敗で臨んだ中、5-3で敗れた8月31日の川崎フロンターレ戦でのある出来事があった。
「あくまで僕個人の意見にはなっちゃうんですけど、5失点して、本当に下を向き、もう向いてたかな。そういうときでも、もちろん厳しい声もありつつですけど、『顔を上げろ』っていうサポーターの皆さんの光景が本当に忘れられなくて、その瞬間に本当に思ったんですよ。
自分のため、チームのため、家族のためがどっちかっていうと大半を占めてしまうとこがあるけど、皆さんのためにもやらないといけないんだなって、改めてすごく感じた瞬間やったので。その恩を返すのはきょうかなと思って。決勝が決まった週の頭から結構そのことは考えてました」
サポーターの姿勢に心を打たれるものがあったという昌子だが、キャプテンとしての責任感もそこには存在していたのだろう。
昌子は2年前、出場機会をあまり得られなかった鹿島アントラーズからJ1昇格初年度のFC町田ゼルビアに完全移籍加入。自身の復活もそうだが、Jリーグやカップ戦、天皇杯の国内3大タイトルを獲得してきた常勝・鹿島の経験を根付かせようと町田にやってきた。
「鹿島(アントラーズ)のときは若手や中堅のときに本当にミツ(小笠原満男)さん含め、レジェンドの皆さんにただしがみついてただけで、ついて行ったらタイトルが取れた。もちろん、その経験はこのチームで一番してるので、ましてやキャプテンもやらしてもらっている」
自身がこれまで積み重ねてきた経験を伝えるとともに、キャプテンとしての責務を果たしたい一心だったのだろう。昌子は町田に加入した昨季からここまでをこのように振り返る。
「すごく長く感じた、僕のこの2年やったなと思います」
「僕が町田に来た昨年は決してタイトルを取りに来たわけでは正直なかった。まず、このチームをJ1に残留させる、J1で戦っていく、根本的なところをという思いで入った。昨年3位になって、今年はタイトルと2年目にしてはかなり大きく出たんじゃないかって思われる目標ではありました」
黒田剛監督は昨年から目標を高く設定したという。誰しも目標を達成したら絶対に気が緩む。だから、現実的な目標ではなく、誰もが難しいと思う目標を設定し、届くまでは力を抜かないというものだった。
「数字で言えば、2年目は早いなと思うかもしれないですけど、すごく長く感じた、僕のこの2年やったなと思います」
この言葉に表されるように、昌子にとっては濃密で印象的な2年だったということだろう。
先述した川崎戦での大量失点による敗戦もそうだが、昌子のキャプテンとしての責任が感じられるエピソードは指揮官からも出てきた。
「キャプテンでありながらリーグ戦でも失点に絡んだところもあったし、自分の中で『こんなキャプテンじゃダメだ』って言ったときもあった。彼は彼で、また監督とは違うキャプテンとしての威厳というものをきちっと担保するためにはプレーや結果で示していくしかない。そういう責任の中で彼はすごくプレッシャーも感じてたと思います」
昌子がキャプテンとしての威厳を失いかけたのは、5月11日の清水エスパルス戦辺りだったという。
この試合で昌子は相手のマークを外し、同点ゴールを許してしまう、町田1点リードの終盤、ゴールを守り切れれば勝ち点3のはずだった。黒田監督は昌子に電話でこんな言葉をかけた。
「このチームのキャプテンはお前だ」指揮官が起用してくれるからには…
「源だけのせいじゃない。その前のアプローチも含めてみんなが緩んでた瞬間があった。自分を責めるな。キャプテンとして源が威厳を持てなくなったら、このチームは絶対に衰退していくから、お前だけは本当に自信を持って、常に威厳を持ってみんなの前で堂々と先頭を切って走っていけ」
昌子は清水戦だけでなく、11月4日に行われたAFC チャンピオンズリーグエリート(ACLE)第4節、メルボルン・シティFC戦でも同じような言葉をもらったという。
「メルボルンで僕がちょっとありえないオウンゴールをしたときも、『キャプテンの威厳を絶対失うな』って。『このチームのキャプテンはお前だ』って言い続けてくれていた」
昌子の頭の中にはきっと様々なシーンがよぎったに違いない。2年という時間の中で味わった悔しさやふがいなさは決して忘れることはできないだろう。
だからこそ、その瞬間をしっかりと胸に刻み、その苦杯すらも糧に、目標であったタイトル獲得へ邁進することができたのではないだろうか。
「リーグで優勝がなくなった、ACLE圏内も難しくなってしまった責任はリーグ戦で僕が一番試合に出ているので、すごく感じている。それでも監督が迷うことなく、僕を起用し続けているのに応えないといけないという思いは常に持っていた。
きょう、ひとつ形としてカップを監督に掲げてもらえたので、僕自身はキャプテンをやっている以上は嬉しいと思います」
今季、副キャプテンを務めている中山雄太は昌子をこう評した。