セレッソ大阪戦でプレーする横浜F・マリノスの木村凌也【写真:Getty Images】
明治安田J1リーグ第37節、横浜F・マリノスはホーム最終戦でセレッソ大阪に3-1で快勝し、リーグ戦4連勝を達成した。この試合でリーグ戦デビューを飾った木村凌也は、PKを献上する場面もあったが、堂々のプレーを披露し勝利に貢献。デビューの緊張と歓喜を胸に、彼はすでに次のステージを見据えている。(取材・文:菊地正典)[1/2ページ]
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「あんな様子の凌也は…」
トレーニングを行う横浜F・マリノスの木村凌也【写真:竹中愛美】
横浜F・マリノスでの公式戦デビューを控える木村凌也の様子を見て、山根陸は驚いた。
「凌也が緊張してる?」
山根にとって木村は、マリノスの育成組織の同期であるだけでなく、U-20ワールドカップ(W杯)2023もともに戦った同志である。数々の試合をともに戦い、数々の試合前の様子を見てきた。
「あんな様子の凌也は見たことがありませんでした。W杯のときもいつもみたいにほわんとした雰囲気だったのに、今日は『ヤバい、緊張してる』って」
木村自身、実は緊張しやすいタイプだと言うが、山根に明確な言葉で伝えざるを得ないほど緊張を感じていた。
「今日のウォーミングアップの前は吐きそうなくらいでした」
そもそも、試合直前どころか、試合までの一週間ほど、まともな状態ではいられなかった。
「スタメンで行くと言われたのがそれくらい前で、それから練習でのプレーも全然ダメでした」
そんな木村の様子を山根も「さすがにね」と笑う。それほど、育成組織出身の彼らにとってトップチームで公式戦に出るのは特別だ。
マリノスの今季ホーム最終戦となったセレッソ大阪戦は、木村にとってトップチームの選手としてプレーする2試合目。7月30日に行われたリヴァプール戦に後半から出場し、45分プレーしていた。場所は同じ日産スタジアム。入場者は67000人を超えた。
だが、親善試合と公式戦では明らかに雰囲気が違う。ピッチに入れば吐き気は消え、サポーターの声援は力になったが、緊張感は消えるどころか増していくばかりだった。
「序盤のセーブがあったおかげで落ち着いたけど…」
トレーニングを行う横浜F・マリノスの木村凌也【写真:加藤健一】
「思い切ってやってこい」
「自分の武器を存分に出していけ」
チームメートやスタッフから掛けられた声は力になった。ウォーミングアップではあんなに感じていた緊張も、試合が始まれば不思議と収まった。
しかし、思い通りにはプレーできない。
「序盤のセーブがあったおかげで落ち着いたけど、フィードやディフェンスラインの背後のケアはあまりうまくいきませんでした」
試合開始2分余りで味方DFの間から飛んできたシュートをセーブしたが、その3分後には自身から見て左サイドを抜け出してきた相手に飛び出して対応しようと試みながらもかわされてピンチを招いた。自身のフィードを相手に跳ね返され、カウンターを受ける場面もあった。
そして1-0で迎えた前半終了直前、後方へ大きく浮いた味方のクリアボールをそのまま蹴ろうとしたが、飛び出してきた相手の足を蹴ってしまう。主審のオンフィールドレビューの結果、PKと判定され、そのまま決められた。味方が奪ったリードをふいにしてしまった。
押し込まれる時間が続いていたものの、あと数分耐えればリードして前半を終えられるところだった。公式戦デビューとなったGKにとってはメンタル面に大きな影響を及ぼしかねないプレーである。
だが、木村の心は折れなかった。
木村の支えになったアドバイス
トレーニングを行う横浜F・マリノスの木村凌也【写真:加藤健一】
前半もプレーが切れた際にピッチサイドから声を掛けてくれていた榎本哲也GKコーチからは、「うまくいかなくても割り切っていい」と伝えられていた。
「だからミスはしょうがないと思いながら、後半に向けていい準備をしようと考えていました」
メンタルを立て直せただけでなく、チームが戦い方に変化を加えたことも木村にとって好材料となった。
前半はビルドアップの際に開くセンターバックをサポートする形を取っていたが、後半は木村がサポートに入ることはなく、明確に前線に蹴ることをキャプテンの喜田拓也らと確認する。
木村はそもそも、足元の技術やビルドアップ能力、ロングキック精度に長けるGKである。それらの点ではポジションを争う飯倉大樹、朴一圭を上回ると言っていい。それでも、あらゆることを考えながらプレーするのは、プロ1年目で公式戦デビューとなった22歳には難しかった。
「つなぐ感じだと頭の整理はできなかったと思うし、後半の形は自分としてはやりやすかったので、助かりました」
自分がやるべきことを整理できた後半は見違えるようなプレーを見せた。
特に終盤は好プレーを連発。2-1で迎えた90+1分には得点王を争うラファエル・ハットンにペナルティーエリア内で打たれたシュートをセーブしてリードを守ると、3-1になったあとも集中を切らさず、90+8分には結果としてオフサイドになったものの、ヴィトール・ブエノに目の前で打たれたヘディングシュートを見事に跳ね返した。