AC長野パルセイロの中野小次郎【写真:Getty Images】
明治安田J2・J3百年構想リーグ地域リーグラウンド第3節が2月21日に行われ、所属元・北海道コンサドーレ札幌との戦いを終えた中野小次郎の表情は、実に晴れやかだった。出場機会を求めて移籍したAC長野パルセイロでの日々は当初、環境の違いに苦しみ、「辞めたい」とまで思い詰めたところからのスタート。逆境を乗り越えて立った古巣戦での特別な90分は、彼に何をもたらしたのか。(取材・文:黒川広人)
新たな道の先で、中野小次郎に訪れた特別な試合
ピッチに立った瞬間から、高まる感情を抑えきれなかった。北海道コンサドーレ札幌からAC長野パルセイロへレンタル移籍中のGK中野小次郎にとって、所属元・札幌との一戦は、キャリアの中でも特別な瞬間だった。
「レンタルで所属元のクラブと対戦する機会は通常ありませんし、百年構想リーグならではだと思います。日程が出たときから、この試合をずっと楽しみにしていましたし、懸ける思いは特別でした」
試合後、彼はそう振り返る。
これまでのキャリアで公式戦のピッチに立った際は、多少なりとも不安な思いを抱えてきたというが、この日は違った。
「ただただ、楽しくて、これまで体感したことのない気持ちで戦いました」
特別な90分+αは、あっという間に過ぎた。PKを与えて1失点は喫したものの、その後は好セーブを連発。格上・札幌を相手にPK戦へともつれ込ませる立役者となった。
長野でのデビュー戦は上々の滑り出しとなったが、その裏で彼はもがき続けていた。
2025年オフ、中野は悩んでいた。法政大学から札幌に加入して5年。シーズンを通してゴールを守り抜く立場にはなりきれず、3月には27歳を迎える。
経験豊富なGKが揃うチームで守護神を目指すのか、それとも新たな道を選ぶのか。葛藤の末、心は次第に後者へと傾いていった。
「やはり、試合に出る可能性がより高いチームで勝負したい気持ちが強かったんです。そんな中、パルセイロから声をかけていただき、自分にとって本当にありがたい話でした」
もちろん、移籍先でも競争は待っている。それでも“出場機会をより意識した決断”だった。
しかし、待ち受けていた現実は想像以上に厳しく、長野での日々は、順風満帆とは程遠かった。
「メンタルが折れそうになりました」

北海道コンサドーレ札幌時代の中野小次郎【写真:編集部】
「最初は本当にしんどくて、人生で初めてサッカーを辞めたいと思うくらいでした」
施設や練習環境の違い。冬の厳しい寒さ。札幌も寒冷地だが、キャンプは温暖な場所で行う。長野も静岡でキャンプを実施していたとはいえ、日常のトレーニング環境はこれまでとは大きく異なった。
「メンタルが折れそうになりました」
環境を言い訳にはしないと決めていたが、それでも、アジャストには時間が必要だった。そんな中、多くの支えに背中を押されながら踏ん張り、チャンスを得たのが札幌戦だった。
「ほぼ全員知っている状況で、不思議な感覚でした。でも、客観的に見ても札幌の選手たちは本当に上手かった。改めて怖さも感じましたね」
古巣の札幌戦で中野は立ちはだかった。好セーブを連発し、PK戦でも2本をストップ。
「PKは得意なんです。2年前のルヴァンカップでも長野とのPK戦で勝った経験があったので、良いイメージで臨みました」
かつての戦友たちとの駆け引きも光った。
「(岡田)大和のキックは想像通りでした。あっちにズドンだろうなと(笑)(青木)亮太くんも、GKを見て変えてくるタイプなので、駆け引きをしながらギリギリまで我慢しました。うまくハマりましたね」
だが、それでも勝利には届かなかった。
「2本止めても勝てなかった。もっと止めなければいけなかった」
芝の影響でエンドが変わり、視界や感覚にズレが生じたという。それでも言い訳にはしない。
試合後、彼が繰り返したのは「楽しかった」という言葉だった。その背景には、両クラブのサポーターの存在も大きい。
中野小次郎の「楽しかった」という言葉の裏にある葛藤と覚悟

古巣・北海道コンサドーレとの試合でAC長野パルセイロデビューを飾った中野小次郎(上段左)【写真:Getty Images】
「Uスタ(長野Uスタジアム)の雰囲気は本当に素晴らしかったです。J3ではなかなかないような空気を皆さんが作ってくれて、プレーしていて本当に楽しかった。そして、札幌サポーターも温かくて熱い。長野まで多くの方が来てくれて、今までのサッカー人生で一番楽しいと感じる雰囲気を作ってくれたのは、札幌サポーターのおかげでもあると思います」
古巣への感謝と、いま所属する長野への責任。その両方を胸に、彼はゴールを守った。
「個の能力では差を感じる場面もありました。日々の練習から、もっと個の質を高めていかなければいけないと思います」
冷静な自己分析も忘れない。チームとしての形は見えつつあるが、開幕から3連敗。だからこそ、基準はさらに引き上げていく必要性を感じている。次節はRB大宮アルディージャ。強敵との対戦が続く。
「強いと言われる相手とばかりの対戦ですが、基準は上がりますし、そういう相手に勝てるチームを目指したい。百年構想リーグだからこその機会。チャレンジして、今日以上のパフォーマンスを見せたいです」
札幌戦は過去との対峙であり、未来への起点でもある。
「楽しかった」という言葉の裏にある葛藤と覚悟。中野は、迷いながらも一歩ずつ前へ進んでいる。この日の90分は、彼のキャリアにおける通過点にすぎない。
“2メートル超え”、“キックが武器のポテンシャルあふれるGK”。期待の枕詞は数多、添えられてきた。だが、それらを真の評価へ昇華させるのは、ピッチ上での体現にほかならない。
進化した姿を、今季こそゴール前で示していく。
(取材・文:黒川広人)
【著者プロフィール:黒川広人】
北海道出身。大学卒業後、フジテレビで番組制作を担当。2018年よりDAZNにてJリーグ関連の番組制作に携わる。2022年からは株式会社dscに所属し、Jリーグ、Jクラブ、WEリーグをはじめとする各種スポーツ団体の映像ディレクション業務を担当。また、地元・北海道を中心に学生年代の取材活動も精力的に行う。
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